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自作短編 第七弾 『空港にて。』

以前小説サイトにて書かせてもらった作品の一つを書き直したものです。前回の短編はバスがテーマだったので、今回は空港にしてみました。そういえば、毎日投稿で七作目なので、無事一週間は毎日投稿に成功したということですね。嬉しい限りです。とりあえず十作目まではこの調子でいけたらと思ってます。


『空港にて。』

 僕は空港にいる。
 決意というのは素晴らしいものだ。たとえそれが周りの総意と食い違ったものだとしても、否定することのできないただ一つの魂。
 しかし僕は素直に笑えない。

「そろそろ行くね」

 君が笑いながら僕にそう言う。
 綺麗な瞳が潤んでいて、目の周りが赤く腫れていて……。君は笑ってなんかいやしない、そんなことは明確だった。
 でも、僕も、君も、あの正直に心をぶつけ合ったあの日から、決意に向かって覚悟の練習を何度も繰り返してきた。だから泣くことはなかった。

「遠く離れても。一緒に居られないわけじゃないよ。電話でいつでも声は聞けるし、テレビ電話なんてこともできる時代なんだから、私たちは繋がってる。うん、大丈夫」

 さっきから喋らない僕に気を使ってるのか、彼女はらしくない励ましの言葉を僕にかける。君はそんな悲しそうな顔で語るような人じゃないだろう……軽く揶揄うくらいがちょうどいいのさ。しかし、君が君らしくない原因が僕なのだから、どうしようもない。でもせめて、あとひとつ、あとひとつ伝えたいことがある。

「あのさ」

「うん……?」

「あとひとつだけ、言いたいことがあるんだ。良いかな?」

「そろそろ時間が来ちゃうけど」

「大丈夫。すぐ終わる」

「そっか……わかった、言っていいよ」

 君は急に不安になったのか聞きたくない素振りを見せたが、結局は優しい君だ。僕にチャンスをくれた。
 君はこう思ったのだろう……怖くなったのだろう。
 もしかしたら、僕が君を引き止めるかもしれない、と。自分の決意が揺らいでしまうかもしれない、と。
 でも、それは大丈夫。君の決意の重さは僕が君の次にちゃんと分かっているから。

「なんで分かってくれないの!? 私は確かに貴方と一緒にいたいけど、それと同じくらい強い気持ちで、変わりたいって思ってる! このままじゃダメなんだ。そんな気持ちが最近はずっと心を占めている。胸を絞めている。いつか、いつか……! 立派になった私を、世界の広さを知った私を、貴方に見せてあげたいって強く思ってるの!」

 僕は寂しかった。
 ようやく手に入れた幸せ……人なんて信じられなかった僕が君と出会い世界が変わった。比喩なんかじゃなく、本当に変わった。
 そんな君との出会いが、君との別れとなって、それが思い出を締めるならなんて切ないことだろう。
 だから君の決意がいくら伝わってこようと、僕はわがままに否定し続けた。

 でも。

 だけど。

 君は言ってくれた。帰ってきたとき、僕に立派になった自分を見せてあげたい、と。それは、君は僕のいる場所に帰ってきたいと言ってくれたということだ。
 そして、二人の未来がどうなろうと、たとえ万が一、僕と君が離れる未来がやってこようと、その想いだけで十分な気がした。君のその自由なステップを誰が止められるだろうか、いや、止める必要もないだろう。そうして僕はようやく君と向き合った。

 だからここで言いたいのは、否定でも応援でもわがままでも思い出でもない。ただひとつ、ただひとつ、それだけ言えたなら十分な言葉だ。そう。

「ありがとう」

 そして騒がしいのは変わりないのに、少し寂しい気がする空港にて。
 僕は彼女が気に入っていた詩集を読んでいる。彼女が世界を廻りたいと思ったきっかけの詩集だ。いわば元凶なのだが、彼女のバイブルである以上僕にとっても宝物である。
 彼女は常に持ち歩いていたこの詩集を僕に預けた。今度は詩集じゃなくて私の目で世界を知りたいから、と。私だと思って大切に貴方に持っていて欲しい、と。そう言って。

 ペラペラとめくる。
 適当にページを開く。
 するとふと目に入った詩があった。
 夢を駆け抜ける彼女にぴったりの詩だった。


これにて短編『空港にて。』は以上です。人の強い想いというのは時に、大切な人とぶつかってしまうものだと思います。それを悲しいことと思わず、より強い絆を掴むキッカケだと思うことが大事なのかもしれません。これからも、そんな人の心の機敏を描写できるよう努力していきますので、優しい目で応援してくれるととても嬉しいです。ではまた。

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