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ニューヨークの木①   塀の後ろ

家の近くに、落書きされた塀の奥、ビルの暗がりから、斜めに歩道と空に向かい、枝を広げている木あって、この頃、紫の花を、いっぱい咲かせている。ライラックのようだけれど、もしかして違うかもしれない。

花が咲く前には、黒い防犯フェンスと落書きの壁から、幹を大きく出している様子が、動物園の麒麟を、思わせた。

10年以上住んでいる家から、徒歩5分のところなのに、数ヶ月前まで木があることにも、気づかず、みつけた時には、前はなかった木が、突然ここまでのびたのかように感じたけれど、前からそこにいたのかもしれない。

最初に見た時にも、逆境にめげない力強さを感じて、嬉しかったけれど、花をつけているのをみて、近所で好きな場所の一つとなった。

今日、花のスケッチをしようと行ってみると、木の下で、ホースで水で地面の掃除をしている女性がいた。「花、きれいですね」というと、英語があまりわからないのか、ちょっと怪訝な顔をしていた。上を指さすと、花が咲いているのに、始めて気がついたような様子だったけれど、それも、気のせいだったかもしれない。

花のスケッチをしていると、顎マスクの10代の男の子が、私に笑顔でとおり過ぎて行った。

植物や木は、どこに根付くか、自分で決めることができない。どうせなら、こんな汚い都会の塀の後ろじゃなくて、広々としたところで、大きくなりたかったかもしれないけれど、今いる場所で、立派に花を咲かしていた。

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