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対を考える

幸せの反対は不幸、おいしいの反対はまずい、正義の反対は悪、多くの事柄にはそれと対になるものが存在する。

その関係を深く見つめなおしてみると、単に反対の意味というだけではないことがわかってくる。

幸せは不幸を知っているからわかるもの。美味しいものばかり食べていてはまずいものなんて気づかない。悪者がいるから正義のヒーローがやってくる。

一方の存在はもう一方の存在がなければ成立しない認識であり、両者は切り離せない。この表裏一体の関係が「対」には根本的に内在している。

しかし、私たちはしばしばこの対の関係において、一方の視点に立ってもう一方を負としてとらえ、カウンター的に解決や批判をする。

学校の課題でも仕事でも問題点を見つけて解決する提案が多い。独裁政治から民主政治に変わる瞬間も、芸術やデザインや建築においても既存の考えを批判して次の体系が生まれてきた。

しかし、それらは根本的な部分は何も変わっていない。歴史は繰り返すとよく耳にするがそれもそのはず、裏の裏は表なのだから。


世の中には本当にたくさんの対義語が存在する。

ものの大きさを認識するとき、大と小という対の関係があるから判別できるように、昔の人たちは認識できないもを認識したり他者と共有するために「対」の言葉を生み出し、受け継ぎ、積み上げてきた。

対義語は認識の尺なんだと思う。

だからこそ、対の根本的な関係を忘れるべきではない。もし、その関係をを無視して対の一方が重視されすぎれば、判断基準を失い、そのもの自体が無意味なものになってしまうかもしれない。

これらのことから、一方の視点に偏るのではなく、全く逆のことも考えることは結果的に実現したいことに直結していくと考える。

この両方の視点を理解した上で、そのバランス関係をどうしていくか考えることを「対の仲立ち」と呼ぶことにする。

仲立ちという言葉は、第三者として対立する二つの間に入り、両者の見解を聞いた上でどうするか判断するイメージがある。


産業革命以降から様々な社会問題が挙げられ、現在ではSDGsとして大きく17の解決目標が挙げられている。ここにも対は存在する。

例えば貧困や飢餓をなくすという目標と海や陸を守るという目標がある。それぞれで見ればどれも解決するべきこととしてあげられるが、貧困をなくすためにどれだけの自然を消費する必要があるだろうか。自然と人は対であり、その仲立ちを考えることが根本的な解決につながる。

オンラインの発達により、実際に会わなくても会った時と同じレベルでコミュニケーションが成立するようになった時、オフラインはどういう立ち位置で存在するのだろうか。ただ、ご飯を食べて寝るための場なのだろうか。そのバランス関係も考えるべきことかもしれない。


実は、対の仲立ちのような考え方はすでに存在する。それがソクラテスの問答法を起源としたヘーゲルの弁証法だ。

ヘーゲル曰く、
弁証法を構成するものは、ある命題(テーゼ=正)と、それと矛盾する、もしくはそれを否定する反対の命題(アンチテーゼ=反対命題)、そして、それらを本質的に統合した命題(ジンテーゼ=合)の3つである。全てのものは己のうちに矛盾を含んでおり、それによって必然的に己と対立するものを生み出す。生み出したものと生み出されたものは互いに対立しあうがここに優劣関係はなく、同時にまさにその対立によって互いに結びついている(相互媒介)。最後には二つがアウフヘーベン(aufheben, 止揚,揚棄)される。このアウフヘーベンは「否定の否定」であり、一見すると単なる二重否定すなわち肯定=正のようである。しかしアウフヘーベンにおいては、正のみならず、正に対立していた反もまた保存されているのである。(Wikipediaより引用)

これを読んだときは見つけた!っと思った。

自分の考えていることなんてほんの一部で、誰かがとっくに考えている。だからこそ、自分が無知であることを前提として蓄積されてきた知識はどんどん知っていくべきだと思う。

もし知らなかったら、結局同じことの繰り返し。何か新しいことを生み出すなら、新しさを判断する過去の基準が必要だ。

ヘーゲルの言葉に
歴史から学ぶことは人が歴史から学ばないことだ
と書かれていた。未来の反対は過去であり、過去を振り返らず生まれた未来はすでに過去に存在している。知っているか知らないかで見える未来が変わってくる。

一方でこうとも書いてあった。
歴史そのものが弁証法であると。
確かに、歴史が同じことの繰り返しだとは言いつつも、ある時の発明は新しい世界を作り出してきた。これからもそうだ。私たちはたくさんの矛盾を突きつけられその先を見出そうとする。まさに歴史は弁証法だ。


そんなことを卒業設計で考えていた。

対の仲立ちはただものの見方をより俯瞰的にしただけだが、それによってどんなことができるか、いろんな場面に当てはめながら実験していこうと思う。

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