瀬戸内地方に見る、地域コミュニティ・コワーキングからワーケーションの関係性
久しぶりの記事投稿となった。2022年度末は、ゆっくり記事を書く時間がなくて、書きたいことがいっぱいあるのに全然言語化できなかったので、本年度はちょっとゆっくり時間も取って書ける時に書きたいなと思う。
今日のテーマは瀬戸内地方。瀬戸内地方は瀬戸内海を眺む地域の総称ですが、明確な定義はない。私自身の中では、岡山県・広島県・香川県・愛媛県の4県と、兵庫県播磨地方(姫路・赤穂等)、徳島県北部(鳴門・美馬等)、山口県周南以東(岩国等)付近の広域地域を指していると定義している。
私自身は父親が三豊(香川県)の出身で、中学校2年生〜高校3年生まで徳島市に暮らし、子供の時関東地方に住んでいた頃は岡山を中継に四国に向かっていた経験などから、非常に由縁の深く、土地勘もある地域だ。
その瀬戸内地方では、先日の2023年3月16日、香川県都の高松で、瀬戸内地方のコワーキングスペースなどのコミュニティ運営者が集まってカンファレンス形式のイベント「コワーキングフェスせとうち」が開催された。私が運営する一般社団法人日本ワーケーション協会もイベントの協力となり、主に広報活動を行った。
コワーキング(coworking)とは?
コワーキングとワーケーションは非常に深い相関関係にあると感じている。コワーキング協同組合代表の伊藤富雄さん(神戸・カフーツ)は以下のように語っている。
つまり、コ(co=協)ワーキング(working=働)。コロナ禍を通して、各地でコワーキングと名乗る施設が増えてきましたが、世間の誤解に「単にドロップイン利用できるワークスペース全般」を「コワーキング」と呼び、中には無人施設までもそう呼ぶようになったが、私的にはそれは「1人で集中するためのワークスペース」に過ぎず、「コワーキングスペース」ではない。
もちろん、ずっとぺちゃくちゃ喋り続けているわけでもなく、流れる時間の中で、コラボが起こったり、駐在するコミュニティマネージャーが繋げあったりして、新しい関係性が生まれていく。中には地域との繋がりができたりする、といった化学反応も起きてくると感じている。
東京都心など、大都市の中心部では「1人で集中するためのワークスペース」だけでも事足りてくるのだが、地方都市になってくると、それだけでは地域での存在意義が弱く、こうした「コワーキングスペース」が必要。
現に地方創生テレワーク交付金で作ったワーケーション・コワーキング施設と名乗る多くの施設はこれらの意識がないために、多くが集客に困っているというのが現状。それらを踏まえると、地方都市であればあるほど、求められているのがこのようなタイプのコミュニティであると感じている。
ワーケーションに訪れた時に、働く場所に困ることがありますが、こうした地元の方が利用している「コワーキングスペース」へ訪れることで、地域の魅力を感じたり、地域の方と繋がったり、また何かをしていこうと感じたりするなど、地域のハブとなる。単純に、瀬戸内地方では、その本質をついた場所が多いということを以前から感じていた。
香川が私にとっての瀬戸内地方の原点
私自身の瀬戸内のコワーキングやワーケーションで入るきっかけになったのは高松。香川に行く機会が多かったこともあり、親戚もいる高松には元々興味があり「co-ba takamatsu」を最初に訪れたことがきっかけだった。そこでお会いしたのは当時のコミュニティマネージャー荒木優衣さん。
私が初めて訪れた時は普通に話して、普通に使って帰っただけだったが、香川の知人をco-ba takamatsuに紹介したりするだけでなく、Facebookにやたら上がってくる「スナック荒木」という自らがママになって地元のワーカーのお悩みを聞いたりするイベントをされていて、地域のインターン生を巻き込んだりと非常に興味深い運営方法を取っていた。そのため私は初訪問で高松を離れてから、ここのコミュニティの良さを感じていった。
荒木さんは、当時高松駅前のサンポート高松に香川県が運営する「Setouchi-i-Base」と「co-ba takamatsu」両施設のコミュニティマネージャー、コーディネーターを兼務。現在は善通寺の「ZENキューブ」副館長。(週1回co-ba takamatsuに駐在)地域での活躍から、当協会の公認ワーケーションコンシェルジュにも認定している。
「Setouchi-i-Base」は池嶋亮さんや夛田健登さん、田中勇次さん等7名のコーディネーターが日替わりで駐在、その運営スタイルにも非常に興味深いものがあった。パラレルキャリア、ご自身もフリーランスとして活躍していることもあり、自然と香川で溶け込み働くスタイルができている。
そして私はそれ以降高松へ行く際は「co-ba takamatsu」や「Setouchi-i-Base」のいずれかを訪れるようになり、気が付いたら少しずつだが、高松や香川県内の様々なフリーランスの方と繋がりを持つようになった。
荒木さんがいなくても、高松の滞在時に声をかける人が出てきており、会う人、話ができる人が高松には多くいる状態となった。Twitterでは、私のフォローワーで人口規模が小さい香川県からのフォローワー数が都道府県別でトップ10に入ろうかというほどだ。
「co-ba takamatsu」では、コミュニティマネージャーが山下結子さん(現・ZENキューブ)が2代目として駐在した他、現在は石川奈津美さんがコミュニティマネージャーの中心となっている。
最近では、デザインが苦手だったので、プレーリーカードの色合いなどを石川さんから簡単にアドバイスを頂きながら高松で仕上げるなど、自分の中でワーケーションからコワーキングを体感してきた地域の1つが香川になっている。
まさに、自身としてはコワーキングを訪れたことで、ワーケーションでの楽しみも増え、自治体に用意されたものではなく、自らが掘り起こした例の1つとなっている。
広島がリードする、瀬戸内地方の広域の繋がり
その香川県の「co-ba takamatsu」は高松を拠点とする穴吹グループが運営。瀬戸内地方の最大都市、広島市の中心エリアの紙屋町では、「co-ba hiroshima」があり、コミュニティマネージャーには井口都さんがいる。私が広島に滞在していた時に、広島県のインキュベーション施設「Innovation Hub Hiroshima Camps」のコミュニティエディター井上稚子さんなどとご飯を食べていた時に発案されたのが「コワーキングフェスせとうち」だった。
本来、コワーキング同士は競合に見えるが、広島ではこの両施設は良好な関係を築いている。コミュニティを軸にして考えていくと、両施設の立ち位置が異なるために共創していけるのだろう。私自身もまだ広島市内の方々との関係性は来訪回数が少ないため高松ほど築けてはいないが、今後広がりが見えてくるイメージが湧いてくるのは彼女たちの存在が大きい。
広島県の東部・尾道にはONOMICHI SHAREがあり、ここは既に8年運営されている。尾道は人口約13万人程の地方都市であるが、こうした街でもコワーキングは8年間続いている。ここのコミュニティマネージャーを務めるのは後藤峻さん。
後藤さんは京都の出身ということもあり、前々から関西地方で会う機会が多く、広島市内でも遭遇したこともあった。尾道市は近年、広島県内の中でも移住者が最も多く、都市部のテレワーカーが移住後に使っている場所がこのONOMICHI SHAREとなっているそうだ。
またONOMICHI SHAREはここ最近ビジター(ドロップイン利用)も急増しているとのことで、まさにワーケーションでの利用である。ここはサイクリングの貸し出しなども行っており、観光のハブの1つとなっている他、私自身も滞在中に尾道へ移住した方をご紹介いただき、一緒に仕事をするなど、楽しい滞在を体験させて頂いた。
地域でのコワーキングとしての立ち位置があることで、余所者の私が訪れても雰囲気に溶け込むことができる。ワーケーションで良く「地域の交流が」という話も出てくるが、尾道には強制感が全くない自然な感じが人気を呼んでいる。自然に人が来て欲しいならまず地元から。それをまさに体現している場所と言える。
後藤さんは、2023年4月3日より当協会の公認ワーケーションコンシェルジュにも認定された。是非尾道へ皆さんも足を運んで欲しい。また福山を中心とした備後地方でも、広域で活躍する藤井晶子さんが認定されている。藤井さんも地域との繋がりが非常に深く、優れた企画を提案して下さるので是非頼って欲しい。
地域内のコミュニティが光る愛媛
その尾道からしまなみ海道を渡ると、愛媛県だ。愛媛県は特に松山市以南の中予地方と南予地方での取り組みが盛んだと感じている。
愛媛県は、人口規模と比較すると「1人で集中するためのワークスペース」ではなく「コワーキングスペース」が多い。愛媛県庁がコワーキングの重要性を感じながらワーケーションの取り組みも進めているのが特徴的だ。
愛媛県内での筆頭となるのは「マツヤマンスペース」。稲見益輔さんが、松山市内でコワーキングスペースの認知度が全くない8年前に、松山市の中心地である伊予鉄・松山市駅前に創ったことがきっかけだ。
松山市は、大都市圏に出るには東京へは勿論飛行機だが、大阪へも電車で3時間45分または飛行機、6時間かかる高速バスなど、離れていることもあり、愛媛県の中予・南予地方は、独立した文化圏が形成されている印象がある。現に、松山市内を走る路面電車は、suicaやICOCAなどの交通系ICカードは使えず、地元の統一企画のICカード「ICい〜カード」のみが利用できる点なども、私は滞在中に地元文化を感じた。
愛媛の面白いところは、「マツヤマンスペース」内にできていたコミュニティが大きくなり、一般社団法人化した動きがあったこと。たてヨコ愛媛は愛媛発のシナジーコミュニティとして、今後も大きな発展を遂げていきそうだ。
このマツヤマンスペースと違う層が利用するコワーキングスペースも松山市内には増えてきており、植松洋平さんが運営する「TECH I.S. Coworking」もその1つ。近い位置にあるが共創しながら進めていけているのも松山の良いところだろう。両施設ともに、まさに愛媛で活躍するワーカーとの出会いを私自身も繋いで頂いた。
南予地方へ足を運ぶと、内子町に「南予sign」がある。みかんの産地でもある南予地方。南予signでは、地元で採れたみかんを食べられることもある。南予地方は、コワーキングがハブとなり、企画力を磨いており、2023年7月に7地域競合の末で、株式会社ジョイゾーの社員旅行+ワーケーションの実施地を勝ち取った。
南予signには、山口聡子さんがコミュニティマネージャーとして駐在しており、当協会では公認ワーケーションコンシェルジュへ認定している。愛媛県は南予地方へ向かっても、コワーキングがワーケーションのハブとなっているのである。まさに地域のコワーキングが目指すべき姿を徐々に実践している。
2023年3月16日のコワーキングフェスせとうちには、八幡浜の「コダテル」もブースの出店。地元にUターンした濵田 規史さんが創業し、渡邊雅斗さんがコミュニティマネージャーとして多拠点生活の中で運営を進めている。
「マツヤマンスペース」のコミュニティマネージャーの1人で、マドンナクリエイト代表も務める、武市栞奈さんは2023年4月3日より新認定の公認ワーケーションコンシェルジュにもなった。この愛媛の素晴らしさは今後さらに広がっていって欲しい。
瀬戸内地方の要衝として、これからが楽しみな岡山
瀬戸内地方と山陰や高知等の交通の要衝となるのが岡山だ。私自身も関東地方在住時の子供の頃は、ここ岡山駅での駅弁・おむすびころりんを毎回食べて瀬戸大橋を渡るのが、祖父母に会う前の楽しみになっていた。
私自身は、今までは岡山は単なる乗り換えの地になっていた。しかし、私にとってのその様子も昨年の夏に岡山を訪れてから一変していく。
その岡山では、岡山市内のコワーキングスペース3箇所が連携して「岡山コワーキングスペース協会」を設立。岡山市内にある「Think Camp」、「TOGI TOGI」、「Wonderwall(ももスタ)の」3つが集まり、宿泊事業者とも連携しながら、完全民間主導で作られている。
リードオフマンとなっているのが「Think Camp」である。オーナーの恒次明宏さん、コミュニティマネージャーの竹内真紀さんが運営の中心となり、岡山の新しいチャレンジを支えている。コワーキングフェスせとうちで、参加者として「Think Camp」の利用者会員も参加されていたのが非常に印象的だった。
恒次さんご自身は、株式会社スイッチ代表取締役である。岡山でホームページ制作を中心にネットショップの運営サポートや印刷物のデザイン・制作、動画の企画、コンサルティングなどを手がける中で「Think Camp」を運営する。
その他、岡山のスタートアップ起業家コミュニティ「START UP KINGDOM」 運営、岡山市スタートアップ支援拠点「ももスタ」のコーディネーターなども務めている。岡山でも他の香川県や広島県、愛媛県とも同様に、コワーキング同士の潰し合いではなく、岡山同士で共創しながら歩んでいる姿が非常に印象的だ。
私自身も岡山に滞在中に、イベントを通して地域の不動産会社の岡田将明さんや旅人から岡山に流れつき、東京と玉野市で2拠点居住をしている古性のちさんと繋がったりしており、私自身も何かと岡山がハブとなって繋がる例も発生している。
また、世界を旅する当協会の公認ワーケーションコンシェルジュのAkinaさんも、岡山には帰国時に通っており、瀬戸内の気候や人の雰囲気が非常に良いと感じているそうだ。
岡山は交通の要衝として瀬戸内地方だけでなく、山陰や南四国、そして関西地方と九州地方から見ても重要な地域になっている。民間主導で進んでいることもあり、今後の発展と広域連携のハブとなることが大いに期待されている。
民間が主導する瀬戸内地方〜地域発がミソ〜
その他、私が定義している瀬戸内地方の中には、様々な取り組みがある。姫路(兵庫県)では今年で10周年を迎えるコワーキングスペース「mocco姫路」。決して大都市部ではない地域でのコワーキングスペース10周年はまさに本質をついて運営をし、地元に支持された結果でもある。ここにも運営者として、野村綾音さんが軸となっている。
また美馬(徳島県)では、コリビングとして、「のどけや」と「ADLIV」の両施設も評価が高い。こちらはワーケーション向けのサービスである、HafHやADDress、LivingAnywhere Commonsなどとの連携も深めており、日本だけでなく、海外からのワーカーにも支持をされている。ADLIVは公認ワーケーションコンシェルジュとして認定している中川和也さんが運営している。
瀬戸内地方の最大の特徴は今挙げた中に、行政主導の取り組みが真っ先に上がるわけではないということだ。全ての地域で民間が主導しつつ、行政が底を支えているポジションに立っているのがよく分かる。そのため、私自身も全てに施設名と人物名がセットで名前が挙がっているのである。
では、何故そうなっているのだろうか?
2023年3月16日の「コワーキングフェスせとうち」でも感じたことなのだが、この地域は東京などの大都市の資本やコンサル、国の補助、自治体の呼びかけから入ってスタートした、という例ではなく、4県と姫路や美馬は全て「地域からスタートした」というのが最大のミソである。
ワーケーションもコワーキングも多くの地域で長続きしないのは、地域の民間が全く必要としていないものを大都市側が押し付けることが多いと私は感じている。これは地方創生の文脈で「地方の課題はこれだから、これをやった方がいいだろう」と勝手なる推測で始めてしまった例が多く、それ故に地元の民間が求めていないものを作り、それ故にターゲッティングと全然違うものになってしまうのだ。
地域のコワーキングにとって、ワーケーションはあくまでプラスの要素である。地元の場所を運営するためには、まず絶対に地元の利用者が第一である。地元にワーカーがいて、そのワーカーがいる場所に行くからワーケーションの相乗効果が生まれてくる。人によるが、単純に大都市圏向けの綺麗なワークスペースだけであれば、その街のドロップインをリピートする意義がそこまで見出せない。
そして、今回、行政主体だと絶対にできない都道府県を超えた広域で繋がるきっかけを作ろうと、民間主導で「コワーキングフェスせとうち」が行われたのである。
これをよくよく考えていくと、関西地方と瀬戸内地方以外で地域の枠を超えて広域で繋がっていくコワーキングやワーケーションに関するイベントを開催する地域は非常に少ない。あったとしても、どこかの地域に偏ったりしているものが多く、ここまでバランス良く4県の特徴を活かした繋がりは他の地域ではなかなかまだ難しいのではないだろうか?
コワーキング協同組合伊藤富雄さんは2023年のコワーキングのトレンドをこう語る。
地域が主体となることは非常に重要だ。私も様々な地域と伴走する機会が多いが、リードする意識は殆どなく、地域にチャレンジして失敗する経験をさせていく役割だと思っている。
「コワーキングフェスせとうち」も、あったら良いんじゃないか?という発案はしたが、企画には入らずにあくまでサポートとして、告知や声掛けのみ関わらさせていただく立ち位置となった。
「地方は困ってるよね、だからこれをやってあげるね」的なスタンスでは、地域のコワーキングもワーケーションもうまくいかない。地元の方が主体となって形を作り、地域外の人はあくまでファンになるイメージが最も良い流れなのだろう。
これからアフターコロナを迎え、いよいよワーケーションで色々な地域を訪れていく方が増えてくる。未来に向けて、働き方の多様化も起きてきており、必ずしも会社員に拘らないワーク&ライフスタイルも増えてきている。
もう一度言うが、ワーケーションの前に、絶対に地元の利用者が第一である。地元にワーカーがいて、そのワーカーがいる場所に行くからワーケーションの相乗効果が生まれてくる。
ワーケーションに取り組む事業者や自治体はこの順序が地域外から入っているケースが多いが、そこは第一に考えることではない。まずはその地域内での「暮らす」「働く」がどうなっているのかが重要なのである。
瀬戸内に見る、地域コミュニティとコワーキング、ワーケーションの関係性はまさに自然体であり、どの地域にも活かすことができるし、私自身は本来これが目指すべき姿ではないかなと感じている
是非、運営に困っている地域があるならば、まずは瀬戸内地方へ訪れて欲しい。
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