7月21日(火) ~シュンの日記
父ちゃんは取扱説明書もきれいにとっていました。少しずつ、じっくり読みます。「CCD-V700」と書いてありました。20年以上前のビデオカメラらしいです。でも充電すればバッテリーで動くし、まだ使ってない8ミリテープもたくさんありました。
カメラは重いけど、グリップベルトで右手をこていすればだいじょうぶです。ちょうど親指のところに赤い録画ボタンがあって、うっかりさわらないようにスライドカバーもあります。ひとさし指と中指のところには、ズームボタンがあって、押す強さでズームのはやさも変わります。あと左がわにもアイリス、シャッタースピード、ゲイン、フォーカス、ホワイトバランスとかちょうせつするボタンがあるのです。どれもまだいみは分からないけど、こういうところが最高にカッコいいと思います。
ぼくはさっそく、庭のゲンを撮ってみました。
ゲンはふしぎそうに鼻をクンクンさせながら近付いてきました。近すぎてピントが合いません。
「ワンって言って! ワンって!」
でもゲンは、こんな時だけほえません。
つまらないので浜辺までおりて海を撮りました。海のすぐ向こうには福岡タワーとかドームとかあって、夜はSF映画みたいな大都会です。こっちはヤシの木が生えたキャンプ場しかありません。だから、かんこう客が来るんだと父ちゃんは言います。ぼくからしたら、あっちの方がよっぽど楽しいのに、何でわざわざ何もないところに来るんだろうと思います。
夏休みになるともっと来ます。人が多いとじゃまだから、あんまり来ないといいです。
きょうはまだ誰もいなかったので、波とか、うもれた貝がらとか、カモメとか撮りました。カメラで見ると、今までどうでもよかったものが、何でも新しく見えてきました。
と中で雨が降り出したので、急いで坂をのぼって家に帰りました。カメラがこわれたら、大変だからです。
そして、ぼくは晩ご飯の料理をしている母ちゃんを撮りました。母ちゃんは、がめ煮を作っていました。ぼくはしいたけがきらいだと言っているのに、母ちゃんはいつも入れてきます。「今日のはおいしかけん」って。そんなことで、ぼくがしいたけを好きになると思ったら大まちがいだ。
夜は、説明書をずっと読んでいました。分からない言葉は、辞書で引いたりしました。使い方は、だいぶ分かってきました。
「あんた、勉強はいっちょんやらんくせに、ずいぶん熱心やね」
母ちゃんが言いました。ぼくが「エジソンもこげな感じやったっちゃろ?」と言ったら、笑われました。
「シュンはエジソンやらならんでよか。ルーカスになれ」
父ちゃんがうれしそうに言いました。ルーカスって誰だっけ。
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