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日本特有の文化、根回し

こんにちは。アイルランド在住会計士のつぐみです。

今日のテーマは「根回し」。

日本人として、日本企業とグローバル企業の間に立って働くなら、必ず説明しなければいけない機会がやってきます。

日本人の国際的なイメージは総じて良いです。勤勉、まじめ、信頼できる、製品・サービスのクオリティが高い、時間厳守、清潔、品行方正等。

でも悪い面もあります。細かすぎる、真面目すぎる、融通が利かない、そして私が思う最大の悪癖は、「意思決定に時間がかかる」です。

その要因である根回しとは一体何なのか、そしてグローバル環境下で働く際の解決策は何なのか、考えてみたいと思います。

根回しとは

今やWikipediaにも記載されている日本語、根回し。

Nemawashi (根回し) in Japanese means an informal process of quietly laying the foundation for some proposed change or project, by talking to the people concerned, gathering support and feedback, and so forth. 
Wikipedia

みなさんよくご存知のように、根回しとは、正式な承認プロセスを経る前段階に、あらかじめそのトピックについて関係者に情報共有し、事前に合意形成をしておく日本特有の組織文化です。若い会社は欧米よりの文化を持っているところも多いと思いますが、日本の大企業、伝統的な企業では浸透している慣習ですよね。

日本人にとって「会議の用意をする」とは議論やプレゼンの内容を準備したり、形式的なアジェンダを用意したりすることだけではなく、関係者と情報共有し合意を得るという意味であることがよくあります。

日本の伝統的な企業において、会議は形式的な決定の場と理解されています。

かの名台詞、「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きているんだ!」は、警察庁だけでなく、一般の事業会社にも当てはまりそうです。合意は会議室ではなく、現場すなわち会議の裏側で既に取られているのです。

一方で、欧米諸国での意思決定は日本に比較し速く行われ、それが日本人にはろくに検討もせずに決定されたように移ります。
そして以前とあまり状況が変わっていなくても簡単に決定が覆るので、混乱してしまう傾向にあります。

何がこのような違いをもたらすのでしょうか?

いったい何が根本的に違うのか

カルチャーマップをご存知ですか?
INSEAD教授エリン・メイヤー著の『異文化理解力』の中で紹介されている、8つの指標を用いて各国の文化の違いを相対的に理解しようとするフレームワークです。

『異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』
エリン・メイヤー
(最近読んだ中で1番面白かった1冊、読書レビューはこちら)



本書で説明されているカルチャーマップの8つの軸のうち1つは、「決断」に関わる軸です。

異文化理解力より抜粋

一般的には、ヒエラルキーがなく平等主義である文化を持つ国々では、合意による決定がなされ(スウェーデン、オランダなど)、階層主義の国々ではトップダウンによる意思決定がなされます(中国など)。

ご覧のように、日本はダントツの「合意志向」で、スケールの左端に位置します。
しかし日本は、メンバーの合意を重んじる文化である一方で、組織はフラットではなく、ヒエラルキー意識の高い階層主義であることが、他の国との決定的な違いとなっています。

フラット組織での合意は、比較的カジュアルな会議中でも行えるのに対し、日本ではその階層文化によって、担当者間で合意→課長間で合意→部長間で合意→役員間で合意という全員参加型の合意プロセスを経て、決定がなされるのです。

そのため、グループ内でのフィードバックにより何回も階層を往復し、合意の精度は上がるものの、合意形成に時間がかかるのです。

合意形成プロセスとは、①状況の理解、②解決策の同意、③決定、の流れを取ります。
日本では、根回しにより①②は事前に決まっていて、③のみ会議で行われます。

イギリスやアイルランドでは、①はアジェンダなどで事前に共有される場合も多いですが、基本的に②③が会議中に行われます。そして会議には議題の意思決定権限がある人が参加します。

いかにその場で相手とラポールを形成し、説得するか、自分の考えに同意してもらうかが、会議の目的になっています。そして意思決定が行われるのが良い会議とみなされます。

もし迅速な意思決定だけを求めるなら、よりトップダウンである国に軍配が上がります。個人で決定し、みんながその決定に従うのですから。

根回しのメリット

そうは言っても根回しは悪いことばかりではありません。不安傾向のある日本人らしく、現在の不確実性やリスクの度合いをわかる範囲で明らかにし、何層ものフィードバックを得るので、決定事項の精度はあがります。

そして一度意思決定がなされると、グループ全体が同じ方向に団結し進んでいくことができます。

意思決定の見直しは頻繁には行われません。変化の激しい現在、柔軟な意思決定の変更が叫ばれ、日本の意思決定の方法は批判されることが少なくありません。

しかし、一度意思決定がなされると、その実行力は凄まじいものがあります。個人の意思決定に基づくトップダウン式によると、実行段階で何度も出戻り、時間や労力がかかってしまうのとは正反対です。

合意方式、トップダウン方式、どちらの方法も、ビジネスの世界で通用します。しかし関係者全員が、プロジェクトにおいてどのような意思決定方法を用いるのかは、最初に明確に取り決めておかないとなりません。
その認識誤りが、グローバルプロジェクトにおいて後々問題となるのです。

解決策

解決策は相手への理解とコミュニケーションです。

日本側の意思決定の遅さが問題となる前に、相手国に日本の合意プロセスについて理解を得ましょう。
その上で、相手国に合わせて少し早めの合意形成プロセスとするか、相手国に日本のスピードに合わせてもらうか決めれば良いのです。

そして日本に合わせてもらうなら、そのメリットとして、実行のスピードが相対的に速くなるということを示す必要があります。

高齢化、少子化、SDGs、デジタル化、色々な問題が山積みの日本ですが、大きな流れの中では、今方向転換しようともがいているだけかもしれません。

一度意思決定がなされれば、国民全員が同じ方向を向いて、問題解決につながる未来が来るのではないかと私は期待しています。

これから

アイルランドに来た時から私は、日本とアイルランドの架け橋になりたいと思っています。

架け橋になるって一体どういうことなのでしょうか。私は2つの手段があると思っています。

1つ目は、制度的・法的・会計的な違いを日本語もしくは英語で説明すること。例えば IFRS と日本基準を比べると、リース基準が違うだの減価償却の日本の慣習は特殊であるだの、国際的なコンバージョンの流れがあるとはいえ、各国に制度上慣習上の違いは根強く残っています。

ここに解決策を提供するのが私の今の仕事ですが、これらはいずれ AI に取って代わられる時代が来ると考えています。

もう1つの架け橋となる手段は、今回の根回しのような文化や性質の違いを、関係者にわかりやすく説明すること。
このような問題は発生してから問題解決に向かおうとしても、既に遅かったり効果的ではないことがあります。
そもそも本質的にこれらの問題は文化の違いから生じています。自国の文化は、あまりにも人々の無意識に根付いていて、問題が発生するまではなかなか見えてこないからだと思います。
このような双方の違いを関係者に提示して、顕在化させること、それにより両者の歩みを促すこと、具体的な対策を講じること、が求められる役割だと考えています。

日本はこうだから、アメリカはこうだからっていう理由で片付けることは日常的にとても多いし、私もよく使います(反省)。

でもそこから一歩進んだ問題点の指摘と、そのコンフリクトの解決策、もしくは少しでも摩擦を小さくするために何ができるのかを提示することが、海外在住の日本人にできる AI に取って代わられないスキルだと思っています。



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