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#283 学校教育におけるウェルビーイングの大切さ

 「今、あなたは幸せですか」と見知らぬ誰かに突然聞かれたら、怪しい何かを感じるかもしれません。

 私も学生時代、たまたまキャンパスの屋外ベンチで一人でお昼ご飯を食べていた時、同じような質問をされたことがあります。「幸せ」という言葉の持つ違和感は、言葉で表現しにくい何かしら邪悪なものを時として感じる私がいるのも事実。

 キャリア教育という概念があります。自分自身の人生をどう生きるのかを考えることは大切であることに異論がある人はあまりいないと思います。学歴、職業、収入、家庭、老後など自分の「未来」を考えることで、それが学びのモチベーションに繋がります。

 ではなぜその学歴、職業、収入、家庭、老後を得たいのかと問われた時、その根源は、「自分が幸せになるため」となる。この場合の「幸せ」とは邪悪で違和感のあるものではなく、「自分が望む人生を生きること」と定義できるかもしれません。

 今、学校教育においてWell-being(幸福)の重要性が語られています。Well-beingとは「誰かにとって本質的に価値のある状態、つまり、ある人にとってのウェルビーイングとは、その人にとって究極的に善い状態、その人の自己利益にかなうものを実現した状態」と定義されるもので、自己実現をなしえることで人生に充実感を持つことができることを意味しています。

 2023年6月に閣議決定された新たな教育振興基本計画の中にも「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したWell-beingの向上」という2つのコンセプトが掲げられています。教育ジャーナリストの中曽根陽子氏が、ウェルビーイングの向上を教育で実践していくには学校、先生はどうあるべきかについて語っている記事を見つけました。

 中曽根氏は『ポジティブ心理学のエビデンスに基づいたウェルビーイング教育を取り入れると、先生も生徒も幸福度が上がるだけでなく、実は生徒の学力までも上がるというエビデンスがある』ことと、『所得、学歴よりも「自己決定」が幸福感に強い影響を与えていることが国内2万人に対するアンケート調査の結果が示されている』ことに言及しつつ、学校教員がウェルビーイングについて理解し、先生自身がウェルビーイングであることが大切であると述べています。

 記事の中で紹介されている新渡戸学園は、Well-beingを中心に教育活動を展開。児童・生徒の「意思決定」を尊重し、彼ら自身の決定が自らの進路(キャリア)に非常に良い影響を与えているとのこと。

同学園中高の副校長である山藤旅聞(さんとう・りょぶん)氏は

「自分の生き方に責任を持って決めていく生徒たちのウェルビーイングはすでに高いのではないか。そういう生徒たちの決定を、大人たちが自分の価値観にとらわれず子どもたちの未来を応援していくことが大切だ」

と語っています。

同記事の中で日本私学教育研究所 理事・所長及び東京私学教育研究所所長である平方邦行氏のコメントが紹介されています。

「教師が生徒に抑圧的なコミュニケーションをすれば、それは必ず生徒の自己否定感につながり、心の中に鬱屈したエネルギーがたまる。それが暴力や逃避、無視、責任転嫁にもつながりかねない。学校がウェルビーイングな場であるためには、コミュニケーションを大切にしなければならない。また、それぞれの学校の究極な魂が込められているのが建学の精神なので、そこを大事にすることが、子どもたちの精神的支柱になります」(平方先生)

私は著書『授業展開の手引き〜勉強を学びに変えるメソッド〜』の中で、児童・生徒の学びを促進するためには、彼ら自身が「学びの意欲を再発見すること」が大事だと書いています。

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 他者に決定された物事にはやる気は起きないし、時にそれは耐え難いストレスになってしまう。自分の意思決定に従い、学びを進めることができれば、当然モチベーションは上がるし、その結果自分のやりたいことや得意なことが見つかっていく。それは自己肯定感や自己有用感に繋がっていき、結果としてWell-beingの状態に近づいていくのだと思います。自分の「心の声」を聞き、その声にしたがって動くことを支援する環境が、「これからの学校」に求められていくのだと思います。


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