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【第8回】声の使い方ひとつで伝わるものも伝わらない?

みなさま、こんにちは。
第8回講義の振り返りブログを担当する村です。今回の講義では通訳の重要なテクニックの一つ、「声を活用した立体的な表現」について学びました。それでは細かく振り返っていきたいと思います。最後までどうぞお付き合いのほどお願いします。

のっけから個人的な話で恐縮ですが、声の使い方には以前から興味があり、英語朗読のセミナーに参加したことがあります。その時、朗読家の青谷優子さん(以下の参考映像のリンクでYUKIONNA(雪女)の英語朗読をされています!)に「言葉にはそれぞれ意味がある、その言葉の持つ意味を意識して言葉を発しなければ伝わらない。例えば「Happy」という言葉を言うとき。この言葉を日本語に訳すならば「幸せ」という意味。自分が心から幸せ!と言うときに低いトーン、暗いトーンで言う人はいない。それと同じように言葉はただ読むのではなくその言葉の持つ意味を踏まえて発してこそ伝わる。」と言われて目から鱗が落ちたことがあります。今回の講義ではそのことをさらに深く理解することができました。関根先生も講義の冒頭でおっしゃっていましたが、今回の講義のテーマは先生にとっての「秘伝のタレ」であり、なかなか学ぶことのできない奥義とも言えます!それではその秘密を探っていきたいと思います。

声を活用した立体的な表現、とは?

多くの通訳者が訳出をするときに意外と盲点になっており、多くの通訳学校などでは重視されていないけれど大切なテクニック、それが声の意識的な使い分けです。例えば以下のような方法があります。

-速度に緩急をつける(意図的にゆっくり言う部分を持つ)

-声のピッチの上げ下げ(声を高くする)

-言葉の前後に間を置く(タメをつくる、一方のみでもOK)
>どれくらいその言葉にフォーカスして欲しいかによって使い分ける

-(主に声が細い人)声を大きくする

関根先生ご自身、通訳としてどうやったら他にもたくさんいる通訳者から自分に指名がもらえるのか、リピーターがつく理由は?ということを考えられた時に、声を活用した表現というものの重要性に気づかれたそうです。事実、この力を使いこなせるようになったことでクライアント側からの評価が明らかに変わったことを感じられたそうです。ただこのテクニックは主に逐次通訳にて有効な方法とのことでした。同時通訳はやはり時間に追われる面が大きいため、意識的な声の使い分けを行うことはプロの通訳者であっても非常に難しいそうです。

それでは具体的に、どのようにこのテクニックを使うか、使うべき理由など見ていきましょう。

どうして声に立体的な表現を持つべきなのか?

同じ内容を訳出したとしても、全ての情報を一律に扱うのではなく、情報価値の違いをつける(以下の太字部分)ことで、スピーカーが意図していることをクリアに伝えることができるのです。

1, Mike will run to the office today.
(Jackでも鈴木さんでもなくMikeは今日オフィスに走っていくでしょう)
2, Mike will run to the office today.
(Mikeは必ず今日オフィスに走っていくでしょう/意思が感じられる)
3, Mike will run to the office today.
(Mikeは飛行機でも、自転車でもなく走って今日オフィスにいくでしょう)
4, Mike will run to the office today.
(Mikeはオフィスからではなくオフィス今日走っていくでしょう)
5, Mike will run to the office today.
(Mikeはスーパーや映画館ではなく、オフィスへ今日走っていくでしょう)
6, Mike will run to the office today.
(Mikeは明日でも昨日でもなく今日、オフィスへ走っていくでしょう)

声を意識的に使い分けることだけで、同じ文章からこれほどのバリエーションの意図が伝えられるということは驚きではないでしょうか?おそらく英語を話せる方であれば誰しもすでにご存じのことかとは思いますが、それを意識して使うということには計り知れない効果があるのです。

どのように使うのか?

講義中の実習でも使用された以下のような文章があります。

-We want to put a positive spin on it.
-That sounds so negative.

お分かりの通り、二つの文章には全く逆の意味の言葉が使われています。それでは一つ目の[positive]そして二つ目の[negative]を聞き手にクリアに伝えるにはどのようにしたらいいのでしょうか?

答えは声のピッチの上げ下げです。最初の[positive]は明るい展望、良い意味を持つ言葉ですから、その部分を伝えるためには通訳者側も声のピッチをあげる必要があります。逆に[negative]のケースでは意識して声のピッチを下げることによって言葉の持つ悪い印象を聞き手に効果的に届けることができます。また、あえて速度をゆっくりにすることで言葉の意味を明確にすることもできます。

どこに声の表現を足すべきか?

ここまで読んでいただいてお分かりかと思いますが、声の表現を意識すべき場所というのはすなわち通訳者が情報の価値が高い、重要であると考える部分なわけです。実際、どこが重要と捉えるかは正解のない問いであり、通訳者それぞれが答えを出していく問題です。かと言って、一つの文章の中であれも!これも!と声の表現を入れすぎることは、かえって重要な部分が埋もれてしまうことになり、有効な方法ではありません。

忘れずにいるべきことは声の表現とはあくまで「スパイス」「秘密のタレ」であってどれもこれも同じ味付けにしてしまってはせっかくの効果が無くなってしまうものであるということです。ここぞ!というタイミングを逃さないこと、それこそがこの奥義を使いこなす秘訣だと感じました。

今回の講義でも、受講生の中にも元々声の使い分けが上手な人、苦手な人はいますが、最初は上手くいかない人であっても関根先生のアドバイスを受けて表現のやり方を少し変えるだけで明確な違いというものが感じられて非常に興味深かったです。

参考動画

今回の振り返りブログでは主に英語における、声の意識的な使い分けについて記載しましたが、このテクニックは日本語においても活用できます。以下の二つの動画は関根先生にシェアしていただいた、同じ怪談話の「雪女」を声の専門家のお二人がそれぞれ英語、日本語で朗読をされているものです。一緒に引用させていただいた、関根先生のコメント部分に注目していただいて見ていただくと非常に参考になるので、是非お時間ありましたらご覧ください!

英語朗読家の青谷優子さんの「YUKIONNA(雪女)」の英語朗読https://www.youtube.com/watch?v=_GTojj9y8_o

特に4:00あたりから視聴すると、間をとってゆっくり話すことで、あたりには雪女以外に誰もいない静寂が感じられ、そのあと一気に心拍数が上がるようにペースアップします。Remember what I sayのあたりも、Re-mem-berと普通以上に強調して、メッセージを重厚にしている。she turned from him and passed through the door wayはペースアップ⇒長めの間で、主人公の「いま・・・一体・・・なにが・・・?」感を演出。そのあとのsprungも本当に跳ねてる感じがするよね。

声優の熊谷ニーナさんの「雪女」の日本語朗読
https://www.youtube.com/watch?v=TIX6uqlj05I&t=318s

こちらは3:10あたりから聞くと(上の動画と同じ部分)、「~たいそう綺麗であった」で、声のトーン変化により意外性が感じられる。「ただ夢を見ていたかもしれないと思った」では、短いセンテンスで細かいアップダウンを繰り返すことによりdreamyな感じを演出。5:00あたりの「暗がりで手をやって」は前後の間の取り方と声の引きが絶妙。主人公の不安が感じられる。

最後まで読んでいただきありがとうございました!英語通訳塾ブログ、まだまだ続きますので引き続きどうぞよろしくお願いします。

次回もお楽しみに!

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