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拡張身体部位を用いた人間機械系の研究

2022年度研究会推薦博士論文速報
[エンタテインメントコンピューティング研究会]

佐々木 智也
(東京理科大学 先進工学部 助教)

■キーワード 人間拡張/ロボット/ヒューマンコンピュータインタラクション

【背景】ロボットを用いて人間の身体能力を拡張する
【問題】ロボットを身体部位としてどのように設計するか?
【貢献】人間とロボットを接続する操作方法や形状を提案した

 AI,VR/ARを含めたXR,ロボットやウェアラブルデバイスなどの情報技術を用いて人間の能力拡張を目指す研究分野として人間拡張工学がある.人間拡張では,人間の能力を知覚・認知・存在・身体の4つに分類し,それぞれの能力を拡張するテクノロジーを研究している.本研究では,インタフェースを介して人間とロボットを一体化することで,人間の身体能力の拡張を行う.

 ウェアラブルロボットを用いた人間拡張には,Supernumerary Robotic Limbsと呼ばれるアプローチがある.“Supernumerary”は「余分な」,「過剰な」という意味であり,“Limbs”は人間の手足といった「肢」を意味する.よって,あえて日本語にするなら「余剰肢ロボット」となる.英語名を縮めてSuperLimbsと呼ぶこともある.このアプローチでは,ロボットアームを第3,第4の腕として身体に取り付けたり,ロボットフィンガーを6本目,7本目の指として追加したりする.これにより複数の身体部位を操り,作業の効率や質を高める.本研究では,このアプローチをさらに広く捉えて「拡張身体部位」と呼び,人間の身体の一部として機能するロボットを扱う.

 拡張身体部位を実現するためには,ヒトの身体認知に基づくロボット本体の設計や,人間とロボットが相互作用するためのインタフェースの設計が重要になる.そこで本研究では,拡張身体部位を「どのように操るか?」,「どんな形にするか?」という観点から操作方法と本体形状に関する設計要素について,複数のプロトタイプを製作しながら検証した.今回はその中からプロトタイプの1つを紹介する.

 拡張身体部位をどのように操るかを考える上では,入力手法が課題になる.新たに取り付けた身体部位を,従来のロボット操作と同じように手を使って操作してしまうと,部位数を増やした効果が得づらい.そこで,人間の身体が持つ運動の冗長性を活用することでこの課題の解決を試みる.手,腕,肩を含む人間の上肢は7自由度以上あるため,この冗長自由度を入力として用いる.ここでは,肩の動作をセンシングする入力システムを提案した.ウェアラブルカメラと機械学習を用いることで,肩の動きを2自由度の入力として使用できる.この入力は,手先が固定されている状態でも行える.そこで,両手で物を運びながらロボットアームを操作したり,ジャグリングをしながら拡張身体部位を操作したりできることを実演した.

 人間を理解し,情報技術を活用することで,身体機能などの人間の能力の可能性を広げるのが人間拡張である.このような研究は,作業支援や補綴工学といったヒトを助ける用途に加えて,新しい身体的体験や表現を創出するエンタテインメント領域への活用が期待される.

Webサイト/動画/アプリなどのURL
https://www.youtube.com/watch?v=5UTpDwfIn4s
https://tomoya.tech/

(2023年5月23日)
(2023年8月15日note公開)

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 取得年月日:2023年3月
 学位種別:博士(工学)
 大学:東京大学
 正会員
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推薦文[メディア知能情報領域]エンタテインメントコンピューティング研究会
本論文は,第3,第4の腕のような人間が本来持っていない新たな身体部位を構築し,人間の身体機能を拡張するロボットシステムに関するものである.これらは,ロボットの設計だけでなく,新しい身体および体験の設計に関するものであり,将来的なエンタテインメントコンピューティングの可能性を示すものといえる.

研究生活  研究テーマを決める上では,「私はそのテーマについてワクワクするか?」を重視しています.研究活動はある程度時間をかけて取り組むものなので,もしそれが形になったときに自分が楽しいと思えるかは重要です.試行錯誤をしているときは,うまくいかないことも多いですが,完成してロボットが動いている様子を想像することで頑張れました.また,私は博士課程に進んだことで,たくさんの出会いがありました.自分の興味や関心が近い人々と研究の話や議論を重ねられるので,研究者の道に進んで良かったと感じています.私はものづくりが得意な反面,執筆はなかなか思うように進まず,論文を書くのはとても苦労しました.大変でしたが,それも良い経験です.博士進学を考えている人は,ぜひ自身の好奇心を大切にしながらさまざまなことにチャレンジしてみてください!


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