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Cellular Operator Data Driven Solutions for Public Unlicensed Networks

2022年度研究会推薦博士論文速報
[モバイルコンピューティングと新社会システム研究会]

Manas Kala
(大阪大学 特任助教)

邦訳:公衆無認可ネットワーク向けの携帯電話事業者のデータ駆動型
ソリューション

■キーワード
Cellular network/Machine learning/5G NR-U

【背景】モバイルデータ需要に対応するため,アンライセンスバンドでのセルラーネットワークが必要とされている
【問題】Wi-Fiやレーダなどの既存技術とセルラーネットワークが共存することでネットワーク性能に悪影響がある
【貢献】アンライセンスセルラーネットワークの解析と性能最適化

 NTTモバイルやソフトバンクモバイルなどの携帯電話網は,通信に電波を必要とします.この電波は,図-1に示すように,免許制と非免許制の帯域に分けることができます.免許制の帯域では,携帯電話事業者が独占的に営業する権利を有します.スマートフォン1台あたりの世界月間平均使用量は,2023年で約19GB,2028年末には46GBに達すると予想されています.モバイルデータの消費量が増加の一途をたどっているため,ライセンスバンドでは足りなくなっているのです.しかし,つい最近まで,モバイルネットワークではライセンスバンドのみが使用されていました.セルラー技術の進歩に伴い,現在では携帯電話ネットワークに電波スペクトルの非ライセンス帯を利用することが可能になりました.その結果,5Gや6Gのモバイルネットワークでは,免許不要の帯域が重要な役割を果たすことになります.

図-1  Radio Spectrum for Cellular Communication

 Wi-Fi,Bluetooth,レーダ,放送サービスなど,すでに存在するいくつかの無線技術は,免許不要の帯域で動作しています.このため,セルラーネットワークにとって,無線環境は複雑で予測不可能なものとなっています.たとえば,セルラー機器とWi-Fi機器からの送信が衝突することがあります.その結果,両方のネットワークのユーザのサービス品質が悪くなります.

 アンライセンスバンドにおけるセルラーネットワークの新たな課題は,データ駆動型のアプローチである機械学習によって最適に解決されます.機械学習は,ネットワーク性能の分析・予測に利用できます.また,ボトルネックの発見やネットワーク性能の向上にも役立ちます.

 5Gおよび6Gセルラーネットワークの機械学習ベースのソリューションを見つけるには,既存のアンライセンスネットワークのデータを収集し,抽出することが非常に重要です.結局のところ,機械学習モデルは,それが供給されるデータと同じくらい信頼できるものでしかありません.しかし,ネットワーク監視アプリケーションのコストが高く,新しいネットワークの地理的な存在も限られているため,セルラーネットワークデータへのアクセスは限られています.さらに,収集した免許不要のセルラーネットワークデータを分析するために,機械学習に基づく新しい方法論を構築する必要があります.図-2に示すように,これらの方法論は,モバイルユーザがより良い経験をできるように,ネットワークのパフォーマンスを改善するのに役立ちます.

図-2  Radio Spectrum for Cellular Communication

 私はこれらの課題に取り組み,ハイレベルな解決策を図-2に示しました.シカゴの大手携帯電話会社であるAT&T,T-Mobile,Verizonの3社のアンライセンスセルラーネットワークからデータを収集しました.また,コンピュータビジョンと光学式文字認識を用いてデータ抽出システムを設計しました.機械学習により免許不要のネットワーク性能を分析・最適化する方法論を提案しました.たとえば,モバイル機器によるセル選択が,エンドユーザが享受するネットワーク帯域幅に与える影響について研究しました.また,機械学習により,モバイル機器が免許不要の携帯電話ネットワークに接続するのにかかる時間を短縮できることを示しました.これらの貢献により,携帯電話会社は現在および将来の免許不要帯域の可能性を引き出すことができます.

■Webサイト/動画/アプリなどのURL
Cellular Dataset: https://ieee-dataport.org/documents/unlicensed-cellular-operator-dataset-public-laa-networks

参考文献
研究成果として,以下の論文や会議資料が発表されました.
1)Kala, S. M., Sathya, V., Dahiya, K., Higashino, T. and Yamaguchi, H. : Mitigating Trade-off in Unlicensed Network Optimization through Machine Learning and Context Awareness, $${{IEEE}}$$ $${{Access}}$$, Vol.11, pp.7873-7891 (2023), DOI: https://doi.org/10.1109/ACCESS.2023.3235882
2)Kala, S. M., Sathya, V., Dahiya, K., Higashino, T. and Yamaguchi, H. :  Identification and Analysis of a Unique Cell Selection Phenomenon in Public Unlicensed Cellular Networks Through Machine Learning, $${{IEEE}}$$ $${{Access}}$$, Volume 10, 87282-87301 (2022).
DOI: https://doi.org/10.1109/ACCESS.2022.3199409
3)Kala, S. M., Dahiya, K., Sathya, V., Higashino, T. and Yamaguchi, H. : LTE- LAA Cell Selection through Operator Data Learning and Numerosity Reduction, $${{Pervasive}}$$ $${{and}}$$ $${{Mobile}}$$ $${{Computing}}$$, volume 83, 101586 (2022).
DOI: https://doi.org/10.1016/j.pmcj.2022.101586
Srikant Manas Kala, Vanlin Sathya, Kunal Dahiya, Teruo Higashino, Hirozumi 4)Kala, S., M., Sathya, V., Dahiya, K., Higashino, T. and Yamaguchi, H. : Op- timizing Unlicensed Coexistence Network Performance Through Data Learning, in $${{Proceedings}}$$ $${{of}}$$ $${{the}}$$ $${{Mobile}}$$ $${{and}}$$ $${{Ubiquitous}}$$ $${{Systems}}$$: $${{Computing, }}$$ $${{Networking}}$$ $${{and}}$$ $${{Services}}$$ $${{(MobiQuitous}}$$ $${{2021)}}$$, Vol.419, pp.128–149 (Jan. 2022),
DOI: https://doi.org/10.1007/978-3-030-94822-1_8
5)Kala, S. M., Sathya, V., Yamatsuta, E., Yamaguchi, H. and Higashino, T. :  Operator Data Driven Cell-Selection in LTE-LAA Coexistence Networks, in $${{Proceedings}}$$ $${{of}}$$ $${{the}}$$ $${{International}}$$ $${{Conference}}$$ $${{on}}$$ $${{Distributed}}$$ $${{Computing}}$$ $${{and}}$$ $${{Networking}}$$ $${{(ICDCN}}$$ $${{2021)}}$$, pp.206–214 (June 2021).
DOI: https://doi.org/10.1145/3427796.3427818
6)Kala, S. M., Sathya, V., Seah, W. KG, Yamaguchi, H. and Higashino, T. : Evaluation of Theoretical Interference Estimation Metrics for Dense Wi-Fi Networks, in $${{Proceedings}}$$ $${{of}}$$ $${{International}}$$ $${{Conference}}$$ $${{on}}$$ $${{COMmunication}}$$ $${{Systems}}$$ & $${{NETworkS}}$$ $${{(COMSNETS}}$$ $${{2021)}}$$, pp.351–359 (June 2021). DOI:https://doi.org/10.1109/COMSNETS51098.2021.9352925

(2023年6月5日受付)
(2023年8月15日note公開)

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 取得年月:2023年3月
 学位種別:博士(工学)
 大学:大阪大学

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推薦文[情報環境領域]モバイルコンピューティングと新社会システム研究会
本取り組みは,免許不要帯のネットワークに対し,実世界でのネットワークデータを収集し,これらを分析することで,今後のネットワークの状況を予測し,ネットワークを最適化する新しい手法を提案しています.また,テストベッドを開発するだけでなく,他の研究者の参考となるような,ネットワークのデータセットを公開しています.

研究生活  博士課程の学生にとって最も重要なのは,(a)適切な研究分野,(b)心強い指導教官,の2点です.修士課程では,Wi-Fiに関する研究をしていました.博士課程では,拡張現実,ライダー,ディープラーニングなど,新しい技術を追求したいと思いました.欧米の大学でもチャンスはあったのですが,Wi-Fiに限定されていました.新しい分野の研究を指導してくれるのは,指導教官の山口先生と共同指導教官の東野先生だけでした. 当然,迷うことなく大阪大学の山口研究室に所属することになり,これは大正解でした.残念ながら,私の博士課程はCOVIDパンデミックから始まったので,研究テーマを免許不要の携帯電話ネットワークに変更しなければなりませんでした.指導教官である山口教授やシカゴ大学,インディアナ大学,IITデリーの共同研究者のおかげで,興味深い研究成果を上げることができました.博士課程ではほかにもいくつかの困難がありましたが,指導教官や研究室のメンバ,友人からのサポートがあったため,何とか乗り越えることができました.技術研究は充実した経験になるので,若い学生には技術研究をするよう勧めています.