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Studies on Content Analysis and Ordering of Courses from a Knowledge-Based Perspective

邦訳:知識に基づく科目の内容分析と順序付けに関する研究

戴 憶菱

(京都大学学術情報メディアセンター緒方研究室 特定研究員)

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オンライン科目
知識抽出
履修順序

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【背景】科目のデジタル化とオープン化により,自由に科目を受けることが可能
【問題】膨大な科目と多様な学習者の目標とのマッチングが困難
【貢献】科目内容の自動的な知識判定と職業を意識した履修順序付けなどの手法を提案

 大規模公開オンライン講座の進展により,学習者は時間や空間の制限なく学習することができるようになりつつある.その結果,従来の大学での教育と異なり,学習者が定められたカリキュラム以外にも自由に科目を選択して受講することができる.純粋な科目への好奇心,欠けている知識の補足,自身のスキルアップ,就職の準備などさまざまな学習目標が考えられる.学習者のそれぞれのニーズに合う科目が取れる新しい教育環境が生まれると期待できる.その一方,公開されたオンライン科目が多くの教育機関や教育者により提供され,教育の目的,教育の内容や知識の表現は幅広い.科目の知識をまだ身に付けていない学習者にとって,自身の目標に合う科目を識別することはきわめて困難である.こういった問題を解決するため,本研究は目標の明確さによる3種類の学習者を想定して,それぞれのシナリオで科目の識別に関する手法を提案する.

■曖昧な目標を持つ学習者
 なんとなく「計算機科学」に関心がある,あるいは「京都大学がどんな科目を教えているのかな」と興味を持つ学習者が当てもなく科目を検索するシチュエーションが考えよう.このような学習者にとって,まずその分野の全体像や科目の内容を理解する必要がある.1つの科目の内容を理解する,あるいは複数の科目の内容を比較するには共通の分野知識階層が有用である.たとえば,「アルゴリズム」,「情報管理」や「プログラミング言語」などの知識カテゴリを用い,科目内容がそれぞれの知識カテゴリとの関連度を推定することを目標とした.ウィキペディアといった外部の知識ベースを利用し,限られた科目シラバスと知識カテゴリの情報を拡張し,より深層的な関連度を推定する手法を提案した.

■明確な目標を持つ学習者
 すでにあるカテゴリの知識に学習対象を絞った学習者にとっては,その知識を教える科目を効率良く見つけ出すことが大事である.本研究は目標とする知識のカテゴリが科目の受講によって習得できる知識の割合を知識カバレッジと定義した.そして,知識のカテゴリが概念により構成されることから,概念の依存関係によるカテゴリへの重要度を推定する手法を提案した.

■ある職業に興味を持つ学習者
 さらに長期的な目標,つまり,就きたい職に対して,学習目標を達成するには計画的に科目の受講プランを立てなければならない.本研究では,学習目標として与えられた専門用語に対し,科目の依存関係を満たす科目順序を付ける手法を開発した.既存研究と異なり,順序の各位置にある科目がもたらす情報量が最適化される点に優れている.実験では,手法が生成した順序の学習体験への影響も評価した.この結果は,より学習者の個人的なニーズに応えられるモデルの開発に繋がる.

 実験では実際の大学の科目を対象とし,科目の講師あるいは専門家が付与した知識カテゴリに費やした講義時間数,知識カテゴリのカバレッジ,専門用語に対する重要度などを正解データとして利用し,手法で推定した関連度,カバレッジと科目順序の精度を評価した.その結果,学習者が関心を持つ知識を扱う科目の識別ができることが分かった.

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(2021年5月18日受付)
(2021年8月15日note公開)

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 取得年月日:2021年3月
 学位種別:博士(情報学)
 大学:京都大学

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推薦文:(データベースシステム研究会)
大規模公開オンライン講座(MOOC)は多くあり,教育の目的,内容や知識の表現は幅広い.本博士研究は,学習者が目標に合う科目を見つけられるように,科目内容の知識配分の自動抽出,学習者が獲得したい知識がある科目に含まれている度合の提示,ある職業に就くために必要な科目の履修順序付けなどの手法を新たに開発した.


戴 憶菱

研究生活:博士課程は8割自分との闘いだと思います.データを見つめたり,プログラムのバッグを修正したりして,あるいは先行研究を読んだり文章を書いたりして,1日誰とも話さない日もよくありました.大量の考える時間を重ねることこそ深みのある研究ができると思います.しかし,研究の広さをもたらすのは残りの2割の人との交流だと思います.

私は学部時代の卒論をアジアの学会に投稿する機会があり,その学会のバンケットでたまたま話しかけた先生が論文のレビュアーでもあり,論文や実験についていろいろ議論ができて,その後当時の指導先生に紹介したら共同研究者にもなりました.こういう先生や学生などの肩書に関係なくコミュニケーションができる世界って素晴らしいと思いました.そのあとの博士期間を含めて,コロナの影響もあり,学会に参加する数はそこまで多くありませんでしたが,やはり世界中の研究者と交流して刺激を受けることがすごく楽しいと感じました.

また議論が盛り上がる学会に参加できる日を楽しみにしております.