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エンゲージメントとインタラクション状態遷移に基づく接客ロボットの半自律的制御手法の確立

岩﨑雅矢

(大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻 特任助教)

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遠隔操作ロボット
フィールド実験
マルチモーダル会話分析

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【背景】初心者ユーザの遠隔操作によるロボットでの接客は困難
【問題】操作者にロボットの操作経験や知識が必要
【貢献】初心者ユーザ向け接客ロボット遠隔操作システムの開発と有効性の検証

 実店舗における接客ロボットは人による接客では実行不可能な部分を補える可能性があるという理由から,さまざまな店舗に配備されてきた.しかし,このようなロボットでは,他人と社会的な相互作用が可能であると感じられる程度である社会的プレゼンスの弱さが原因で多くの場合人に無視されやすいということが問題になる.また,ロボットが自律的に実際の環境で起こるすべての出来事に適切に対応することは現在の技術では困難である.これらの問題は人がロボットを遠隔操作することによって解決可能であるが,操作者がロボット操作に関する経験やロボットの使用環境に関する知識を豊富に有している必要がある.そこで本研究では,そのような経験や知識のない初心者ユーザによる操作でも簡単にロボットの社会的プレゼンスの改善と訪問客の購買活動の促進ができるような接客ロボット遠隔操作システムを開発することを目的とした.

 この目的達成のため,まずはロボットの社会的プレゼンスを改善し,人の注意を引きつけることができるロボットの行動について調査した.京都の商店街にある七味専門店にロボットを置き,訪問客と会話させ,言語情報だけでなく,視覚や聴覚など,複数のコミュニケーションチャンネルで知覚可能な非言語情報も合わせて行うマルチモーダル会話分析をする実験を行った.そして,そこで得られた知見が実験室の統制された環境でも有効であるかの検証と,人のロボットに対する主観的な印象の統計的な評価に関する実験を行った.これらの実験から明らかとなった結果として,人とロボットの相互作用において人の行動に対するロボットの知覚能力を示すことがロボットの発言に対する人のうなずきや返答を促すということが分かった.さらに,この知見に基づいて実店舗で用いることができる自動挨拶機能をデザインするため,訪問客のロボットへの注目の度合いを示すエンゲージメントという概念を導入した.そして,リアルタイムにセンサによって取得される,客とロボットのアイコンタクトの有無,客とロボットの距離,客がロボット接近しているかどうかなどの訪問客の非言語情報からエンゲージメントの程度を推測することによってエンゲージメントが十分に高いタイミングでロボットが自動的に訪問客に挨拶する機能を開発し,実店舗におけるその有効性を示した.

 次に,初心者ユーザによる操作でも訪問客の購買活動を促進できるようにするため,訪問客とロボットの相互作用の典型的な流れを状態遷移モデル化することによってロボットの操作を簡単化した.まず今回実験を行った店舗における典型的な接客の流れを複数の段階に分割し,各段階における訪問客とロボットの相互作用を状態として定義した.そしてそれぞれの状態において適切なロボットの行動を決定することで,初心者ユーザでも簡単に操作できるようにすることを可能にした.そして,このモデルに基づいた操作システムの実店舗での有効性を調査し,さらに当該操作システムを実際に初心者ユーザに使用してもらう実験を行った.その結果,実店舗における客ーロボット相互作用を状態遷移モデル化することによって初心者ユーザによる接客ロボットの遠隔操作でも訪問客の購買活動を促進させることが可能であるということを示した.

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(2021年5月31日受付)
(2021年8月15日note公開)

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 取得年月日:2021年3月
 学位種別:博士(工学)
 大学:大阪大学

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推薦文:(ヒューマンコンピュータインタラクション研究会)
本論文は,実店舗と実験室での実験から,接客ロボットの社会的プレゼンスを改善可能なロボットの振る舞いを明らかにし,客ーロボット相互作用の状態遷移モデル化によって初心者ユーザのロボット操作でも客の購買活動を促進できることを示した.本論文の内容は国内外の学会発表における受賞歴があることからも推薦に値する. 


岩﨑雅矢(正会員)

研究生活:私は子供のころからアニメやSF映画に登場する未来に憧れ,そのような世界に登場するアイテムや世界観を実現することに携わりたいと思っていました.私の研究室では興味のあるテーマについて研究させてもらうことができました.そして,私の研究テーマは実際の店での接客ロボットの研究に決まりました.このような実証実験は非常に未来の世界観を身近に感じやすいものだったので,楽しみながら研究することができました.ところが,研究というものがどういうものかさえ知らない当時の自分にとっては,学術的な研究として成立させることは非常に困難でした.しかし,指導教員の先生などたくさんの人に助けられながら少しずつ研究を進めていくことができ,研究スキルを得ただけでなく人間としても成長できたと思います.これは自分が興味のある研究だったので乗り越えられたのだと思います.これから博士課程に進む人や博士進学を考えている人もぜひ自分が楽しいと思える研究を見つけてほしいと思います.