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グラフィカルユーザインタフェース上の表示領域と選択領域が異なるターゲットの選択に関する研究

2021年度研究会推薦博士論文速報
[ヒューマンコンピュータインタラクション研究会]

薄羽 大樹
(ヤフー(株))

■キーワード
グラフィカルユーザインタフェース
ターゲット選択モデル化

【背景】表示領域と選択領域が異なるターゲットが増加
【問題】そのようなターゲットのモデルが存在しない
【貢献】表示領域と選択領域が異なるターゲットの操作時間と成功率の予測を可能にした

 ターゲット選択とは,コンピュータの画面に表示されるボタンなど(ターゲット)をクリックやタップによって選択することである.たとえば,アプリケーションのアイコンを選択することで,そのアプリケーションを起動できる.このとき,PCでは,主にマウスでカーソルを動かしアイコンをクリックすることで,また,スマートフォンでは,指で直接アイコンをタップすることで,ターゲットの選択を行うだろう.

 マウスでカーソルを操作し,ターゲットを選択するまでの時間(操作時間)は「フィッツの法則」で予測できることが知られている.フィッツの法則は,

数式

で表され,$${MT}$$は操作時間,$${A}$$はターゲットまでの距離,$${W}$$はターゲットの大きさ,$${a}$$,$${b}$$は定数である.つまり,近くにあるターゲットや大きいターゲットは速く選択され,距離が遠くなると,また,ターゲットが小さくなると,その分,操作時間が増加する.

 一方で,スマートフォンなどのタッチスクリーンにおいて,指でターゲットを選択する場合,ユーザがタップしたい位置と実際にタップされる位置にはズレが生じる.そのズレを考慮できるように修正されたフィッツの法則は「FFitts Law」と呼ばれる.また,指でのターゲット選択においては,ユーザが画面のどこをタップするのかを予測することで,タップの成功率(ターゲット内をタップできれば成功,ターゲットの外をタップしてしまうと失敗)を予測できる.

 上述のような,操作時間や成功率を予測できる数式のことを「モデル」,モデルを構築することを「モデル化」と呼ぶ.ヒューマンコンピュータインタラクションの分野では,日々,新たなモデルの構築や,FFitts Lawのように,既存モデルの修正が行われている.

 近年のPCやスマートフォンの画面を見てみると,ターゲットの「表示領域」と「選択領域」が異なることが多い.ここで,表示領域とは,ターゲットの画面上に表示される大きさのこと(見た目)であり,選択領域とは,実際にそのターゲットをクリックやタップできる範囲(当たり判定)のことである.たとえば,図のナビゲーションバー Aを見てみると,「Home」というテキスト(表示領域)よりも大きい選択領域が設定されている.

 既存のモデルは,表示領域と選択領域が等しい状況を前提としており,上述のような表示領域と選択領域が異なる状況には適用できない(つまり,操作時間や成功率は予測できない).これに対し,博士論文では,表示領域と選択領域が異なる状況でも操作時間や成功率を予測できるモデルを構築した.それによって,選択領域が増加するほど操作時間が減少することを明らかにした$${^{1),2),3)}}$$ .特に,指での操作においては,表示領域が増加しても操作時間が減少する.また,成功率は選択領域が増加するほど増加することが分かった$${^{4)}}$$.モデルを参考にすることで,これまでよりもより速く・正確に操作できるナビゲーションバーを開発できる.また,モデルを参考に,たとえば,ナビゲーションバーを開発することで,ユーザはより速く正確にナビゲーションバー内のターゲットを選択できる.

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参考文献
1)薄羽大樹,山中祥太,宮下芳明:Motor WidthとVisual Widthが異なる状況下でのポインティング性能,情報処理学会論文誌, Vol.60, No.4, pp.1184-1199 (2019).
2)Usuba, H., Yamanaka, S. and Miyashita, H. : A Model for
Pointing at Targets with Different Clickable and Visual Widths and
with Distractors, In 32nd Australian Conference on Human-Computer
Interaction (OzCHI '20), 1-10 (2020),
https://doi.org/10.1145/3441000.3441019
3)Usuba, H., Yamanaka, S. and Miyashita, H. : Touch Pointing
Performance for Uncertain Touchable Sizes of 1D Targets, In
Proceedings of the 21st International Conference on Human-Computer
Interaction with Mobile Devices and Services (MobileHCI '19),
20:1-20:8 (2019), http://doi.acm.org/10.1145/3338286.3340131
4)Usuba, H., Yamanaka, S. and Miyashita, H. : Modeling
Movement Times and Success Rates for Acquisition of One-Dimensional
Targets with Uncertain Touchable Sizes, Proc. ACM Hum.-Comput.
Interact., Vol.5, No.ISS, Article 487 (Nov. 2021), 15 pages (2021), https://doi.org/10.1145/3486953

(2022年5月11日受付)
(2022年8月15日note公開)

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 取得年月日:2022年3月
 学位種別:博士(理学)
 大学:明治大学

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推薦文[情報環境領域]ヒューマンコンピュータインタラクション研究会ターゲット選択(コンピュータの画面に表示されているボタンなどをクリックする操作)において,ターゲットの見た目とそのターゲットを実際にクリックできる範囲が操作性に与える影響を数式で表すことに成功している.どういうターゲットだとその操作性がどうなるのかが数式から分かるので,本研究成果はきわめて有用である.


研究生活
  博士前期課程からモデル化の研究に興味を持ち,この研究テーマを開始し,5年間の研究生活を経て,博士論文として完成させることができました.学部1年生から博士後期課程に渡ってご指導いただいた宮下芳明先生,在学中に発表した多くの論文にかかわってくださった山中祥太さん,ならびに,研究に携わってくださった方々へ深く感謝します.


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