見出し画像

操作・姿勢推定に基づく静かなウェアラブル端末インタラクション

2022年度研究会推薦博士論文速報
[ヒューマンコンピュータインタラクション研究会]

久保 勇貴
(日本電信電話(株)人間情報研究所 研究員)

■キーワード
入力インタフェース/センシング/ウェアラブル

【背景】体に身に着け利用する小型なコンピュータの普及
【問題】操作回数,動作量,操作端末数の増加
【貢献】操作・姿勢推定活用による操作回数,動作量の軽減

 スマートウォッチやワイヤレスイヤホンといったウェアラブル端末と呼ばれる,自身の体に身に着け利用するコンピュータの利用が進んでいます.これらのウェアラブル端末は,体に身に着け利用する形態であるためにスマートフォンよりも小型であり,また複数の端末を身に着け利用することもあります.これらの特徴から,小型であるウェアラブル端末の操作は,私たちが普段用いている手に持って操作するスマートフォンと比べて煩雑なものとなっています.具体的には,ウェアラブル端末の操作について,操作の回数や動作量,操作する端末数が多くなっています.よって,操作を行うために必要な行動量が増加し,ウェアラブル端末の操作はユーザにとって忙しなく,疲れやすいものとなっています.そのため,操作動作の回数や動作量が少なく済むような,ウェアラブル端末の形態に適した操作方法を検討することが重要となっています.

 本研究では,操作回数,操作動作量が多く,操作が忙しなく騒がしくなっているウェアラブル端末インタラクションについて,これらすべてが少なく済み,加えて,ウェアラブル端末の形態に適する形を考慮した,静かなウェアラブル端末インタラクション(Calm Wearable Interaction)を検討しました.これは,操作回数,動作量が少なくすることによって,操作に伴う忙しなさや周囲からの目立ちやすさを軽減するウェアラブル端末インタラクションのことを指します.本研究を実現するために,ウェアラブル端末インタラクションを3つの主な要素に分け検討を行いました.主な要素は,タッチ操作などの端末に直接触れて行う操作である直接操作,ジェスチャ操作などの端末に触れず行う操作である間接操作,操作する端末を切り替える端末切替操作の3つからなります.これら主なウェアラブル端末インタラクションの各要素において,操作推定および姿勢推定手法を活用し新たなインタラクション手法を確立し,ウェアラブル端末インタラクションにおけるショートカット操作および自動化を可能とすることによって,静かなウェアラブル端末インタラクションの実現を目指しました.

 以下の各研究テーマにおいて,本研究によってウェアラブル端末インタラクションの操作回数および操作動作量を軽減できることをアプリケーション例による具体例を用いて示しました.たとえば,提案手法であるベゼル(画面縁)からベゼルへのスワイプジェスチャであるB2B-Swipeをスマートウォッチ上においてアプリケーションの呼び出しや機能の設定に用いることによって,操作回数や操作に伴う動作量を軽減しつつ操作を行うことができます.

  • B2B-Swipe:ベゼルからベゼルへの1本指によるスワイプジェスチャ
    直接操作における新たなタッチ操作推定に基づく操作回数,動作量の軽減

  • AudioTouch:アクティブ音響センシングを用いたマイクロジェスチャ認識手法
    間接操作における手形状推定手法に基づく操作回数,動作量の軽減

  • SynCro:状況に応じたスマートウォッチ・スマートフォン併用時の情報提示・操作手法
    端末切替操作における操作姿勢推定に基づく操作回数,動作量の軽減

■Webサイト/動画/アプリなどのURL
https://youtu.be/LAc4bu7Pm5M
https://youtu.be/U8Lk4DFJqSo
https://youtu.be/Yx095_8ETEw

参考文献
1)Kubo, Y., Shizuki, B. and Tanaka, J. : B2B-Swipe: Swipe Gesture for Rectangular Smartwatches from a Bezel to a Bezel. In Proc. of the 34th SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI’16 Note), pp.3852-3856 (2016), https://doi.org/10.1145/2858036.2858216
2)Kubo, Y., Koguchi, Y., Shizuki, B., Takahashi, S. and Hilliges, O. : AudioTouch: Minimally Invasive Sensing of Micro-Gestures via Active Bio-Acoustic Sensing, In Proc. of the 21st International Conference on Human-Computer Interaction with Mobile Devices and Services (MobileHCI '19), pp.36:1-36:13 (2019), https://doi.org/10.1145/3338286.3340147
3)Kubo, Y., Takada, R., Shizuki, B. and Takahashi, S. : Exploring Context-Aware User Interfaces for Smartphone-Smartwatch Cross-Device Interaction, Proc. of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies (IMWUT), ACM, Vol.1, No.3, pp.69:1-69:21 (2017), https://doi.org/10.1145/3130934

(2023年6月1日受付)
(2023年8月15日note公開)

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
 取得年月:2023年3月
 学位種別:博士(工学)
 大学:筑波大学
 正会員

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

推薦文[情報環境領域領域]ヒューマンコンピュータインタラクション研究会
ウェアラブル端末とは身に着けて利用される小さなコンピュータのことです.本論文は,ユーザの操作や姿勢(どのように端末を持っているのか)を推定すれば,がちゃがちゃ操作せずともウェアラブル端末を操作できること,すなわち「静かなウェアラブル端末インタラクション」が実現される,というアイディアを示しています.

研究生活  博士後期課程について,私は会社で働きながら取得しました.会社では他分野のプロフェッショナルが連携し成果を創出していくことが多いことに対し,研究室は同分野の同じ背景や知識を持つ同僚,後輩,またプロフェッショナルである先生方と交流しながら成果を作り上げていく点が異なると思っています.研究室のようなコミュニティの一員となって活動する経験はなかなか得難い経験になるので,もし,自身の考えと一致するような研究室があれば,研究室というコミュニティをフル活用できると,とても楽しく充実した時間を過ごせると思います.私自身,先輩や先生の指導のおかげでいくつかの成果を上げることができ,そのほかにも,自身での競争的資金の獲得やその研究プロジェクトの計画や遂行,海外での研究室に滞在しながらの研究活動など,なかなか得難い経験をさせていただくことができました.これらの経験は会社での研究活動にも活かすことができています.研究に興味がある方には,ぜひ自身に合うと思う研究室を見つけて,そのコミュニティを活用しながら楽しく活動いただけると嬉しく思います.