見出し画像

ウェアラブルデバイスのための人体スケールの無線給電・読み取り

2022年度研究会推薦博士論文速報
[ヒューマンコンピュータインタラクション研究会]

高橋  亮
(東京大学 特任助教)

■キーワード
ウェアラブルデバイス/無線給電/無線センシング

【背景】ウェアラブルデバイスの普及
【問題】ウェアラブルデバイスのバッテリ問題
【貢献】人体上のウェアラブルデバイスへの安全で高効率な無線給電・読み取り

 人の体に身につけられるほどの小型で軽量なウェアラブルデバイスは,日常生活の中で自然とARやVRなどのデジタル空間と人をつながる役割を果たすことができます.半導体技術の進歩により,スマートウォッチなど,小型なセンサ,ディスプレイ,アクチュエータが実現でき,これらを身体に装着することが現実味をおびています.しかし,ウェアラブルデバイスが身体,衣服,アクセサリへ内蔵されるためには,これらのデバイスが人の体で動いている際に,同時に給電や通信を行う環境が重要になります.特にデバイスへ直接ケーブルを接続しなくても,無線で電力を送り,さらに通信も行う無線給電・通信技術は,ユーザの動作の妨げにならず自然とウェアラブルデバイスを人体上で駆動できるため,相性が良いです.そこで,体全面を覆うようにこれまでの無線給電・通信技術で用いられるコイルを服へ内蔵し,ウェアラブルデバイスを体のどこにおいても,コイルを用いて無線給電・通信技術を行うことを目指しました.しかし,渦巻状のコイルでは,大きくすればするほど人体との電磁気的干渉が強くなるため,安全ではなくなり,給電・通信時の電力の損失も大きくなる課題があります.

 私の論文では,新たにメアンダコイルとよばれる,衣類全面に巻いても人体との電磁的干渉を回避し,衣類近傍のみに強い電磁界を閉じ込めるコイル構造を提案しました.さらに,ニットマシンでこのメアンダコイルを服に編み込むことができるようにしました.これにより,衣類一体型のメアンダコイルを実現し,世界で初めて,人体上のデバイスへの安全で高効率な無線給電・通信を行うことができる電子服を実現しました.この電子服を身につければ,従来のコイルと比べ,約100倍以上の数W電力を無線で安全に送ることができるため,たとえばポケットの中に入れたスマートフォンやスマートウオッチ,温度・心拍などの生体情報を測る医療用センサ,10個以上のLEDなどさまざまなデバイスを衣類の近くで安全に充電できます.さらには,高感度な無線通信もできるため,デバイスからバッテリをなくしても,衣類型リーダなどを通して,デバイスの情報を読み取ることができるバッテリレスな無線通信も可能となりました.一般的なデバイスは,BluetoothやWi-Fiなどを通してデータを送信するためのバッテリを搭載し,ユーザが定期的に充電することが当たり前です.しかし,小型軽量である一方で,機能としては1つ程度しかないウェアラブルデバイスでは,ユーザは毎日充電してまで積極的に使うことは滅多にありません.ユーザが充電作業を意識せずとも,ウェアラブルデバイスを身につけるだけで勝手に充電され,電力をほぼ消費しない低消費な通信も行うことができる私の研究は,バッテリレスで超小型・軽量なウェアラブルデバイスも実現可能です.さらには,異なる機能を持つ多数のウェアラブルデバイスを装着すれば,デバイスを意識せずともデジタル空間と繋がる,「ウェアラブルコンピュータ」の実現が期待されます.

■Webサイト/動画/アプリなどのURL
ryotakahashi.me
https://ryotakahashi.me/

■動画URL(YouTubeチャンネル用)
https://www.youtube.com/watch?v=0pefaNkhduA
https://www.youtube.com/watch?v=1u3vBoVZhGk&t=41s
https://www.youtube.com/watch?v=S7sJQAP5a7A&t=4s

(2023年6月1日受付)
(2023年8月15日note公開)

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
 取得年月:2023年3月
 学位種別:博士(工学)
 大学:東京大学
 学生会員

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

推薦文[情報環境領域]ヒューマンコンピュータインタラクション研究会
本博士研究では,ニットマシンで編み込むことが可能な衣類一体型のコイルを通じて,人体上のデバイスへの安全で高効率な無線給電・読み取りを実現しました.これにより,ユーザはウェアラブルデバイスを自然な形態で利用しながら,継続的に動作させられるようになりました.

研究生活  初めは,ポケットのスマートフォンを無線給電できる服が作れたら面白いと始めた研究ですが,ニットマシンやコイルの面白さに触れるにつれ,従来のデバイスの価値観を覆すようなさまざまな研究成果を生み出すことができ,大変満足のいく博士生活でした.