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人間の身体の内的変化に着目した社会的つながりを活性化させる環境知能システム

2022年度研究会推薦博士論文速報
[エンタテインメントコンピューティング研究会]

御手洗 彰
(京都大学医学部附属病院 医療情報企画部 特定助教)

■キーワード
環境知能システム/ヒューマノイドロボット/生体信号

【背景】環境を知能化し,ユーザを支援する環境知能システム
【問題】従来の環境知能システムは個のユーザに着目
【貢献】他者とのつながりを考慮した環境知能システムを提案

 あらゆる人工物がネットワークに接続され,人々の行動や環境情報を多様なセンサを用いた収集することで,人工物の自律的なユーザ支援を行う環境知能システムの実現が目指されている.環境情報からさまざまな情報を得ることで,街頭に配備されたロボットがより賢くふるまうことができるようになったり,環境自体が知能化して人々を支援することができるようになることが期待されている.しかし,既存の環境知能システム研究ではシステム機能の研究が主流であり,支援対象であるユーザの視点はあまり考慮されていない.また,これまでのシステムは支援するユーザを世界から独立した個の人間として捉えていた.しかし,人間は個として独立した存在ではなく,他者や事柄,環境など周囲とのつながりやかかわりがあり,生活している.それにもかかわらず,現状の環境知能システムは,それらを考慮していない.このような背景から,本研究では,人間の社会的なつながりを支援するような環境知能システムの実現を試みた.

 社会的なつながりの活性化のためには,周囲も含めた個のユーザの理解が重要である.従来の研究では主に人間の外的変化(加速度やカメラ情報)が着目されてきた.しかし,人間の理解を考えると,身体の内的変化も重要であると考えられる.身体の内的変化とは,表情といった外観に現れない人間の内的状態の変化を指し,たとえば情動状態に伴って変化する生体信号などが挙げられる.そのため,本研究では人間の身体の内的変化に着目した環境知能システムによって,人の社会的な活動への動機の向上を実現することを目的とする.

 人間の身体の内的変化には無意識的なものと意識的なものがある.無意識的な内的変化とは,外的要因によって無意識的に変化するものであり,情動状態の変化が挙げられる.この変化を理解することで人間の社会的つながりを活性化し得る要素が得られる.次に,意識的な内的変化とは,内的要因によって意識的に変化させるものであり,身体動作(生体信号としては筋電位の変化)などが挙げられる.これはユーザの自発的な意思で起こるものであり,状況によっては社会的つながりの活性を阻害する可能性がある.

 本研究では,複数人の社会的活動において無意識的な内的変化を分析することで,社会的つながりを活性と内的変化の関係性および環境知能システムによるユーザ支援がユーザの社会的つながりの活性化に貢献し得るかを調査した.また,意識的な内的変化によって社会性を阻害せず入力可能なインタフェースを実現した.

 以上の研究によって,本学位論文では社会的なつながりを活性化し得る環境知能システムの実現可能性を示した.本研究では,特にエンタテインメントに着目して研究を行ったが,社会的なつながりを活性化することは教育や医療などさまざまな分野において応用できるため,幅広い分野に向けて実現可能性を示していきたいと考えている.

(2023年5月25日受付)
(2023年8月15日note公開)

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 取得年月日:2023年3月
 学位種別:博士(先端情報学)
 大学:京都産業大学
 正会員

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推薦文[メディア知能情報領域]エンタテインメントコンピューティング研究会
本論文では,収集した情報に基づいて意思決定を行う環境知能システムに対し,支援対象である人間の身体の内的変化を収集させ,人の社会的活動の支援を目指している.具体的には人の意識・無意識的な内的変化を調査・抽出し,人の社会性を活性させるシステムの介入方法の解明や,社会性の活性を阻害する要因の解決を行った. 

研究生活  私は修士課程を卒業した後,2年間の就業を経て博士課程へ進学しました.進学の一番のモチベーションは研究への興味と,「自分のやりたいことができる環境にもう一度戻りたい!」という思いでした.学術と仕事を比較すると,研究は自身の裁量が大きい分,責任も大きいと感じます.研究の企画から調査,実装,発表まで1人で行う必要があります.これがビジネスであれば企画は上司がしてくれて,調査と実装のみ同僚や先輩と一緒に行って,発表は上司が担当する,なんて流れになったりすることもあると思います.そういった面で就業を経て,研究活動を再開したときには少し大変に感じることもありました.ただ,その苦労を感じる分,自分の「やりたい」が形になったときの喜びはひとしおです.修士課程や社会人で「やりたい」ことがある方,それを見つけたいと思っている方は,「やりたい」を形にできる博士課程を検討してみてはいかがでしょうか.