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Stacked U-NetによるCT再構成

2021年度研究会推薦博士論文速報
[知能システム研究会]

水澤 悟

■キーワード
Deeplearning
U-NetCT再構成

【背景】患者をX線で撮影し,体の断面を再構成し可視化するCT再構成
【問題】CT再構成の速度向上,ノイズ低減,低被ばく化のバランス
【貢献】Stacked U-Netによる高速なかつ高精度なCT再構成の実現

 X線CT画像再構成は,X線検出器をさまざまな角度で対象物に照射して撮影したサイノグラム画像から,断面画像を再構成する処理のことである.検出器に観測されたX線の強度は,対象物の性質に応じて減衰する.減衰の程度は,X線の経路上にある物体の特性に依存する.たとえば,X線の通り道に骨や臓器があると,検出器で検出されるX線の強度はそれに応じて減衰する.つまり検出器は,X線の通り道にある物体のX線吸収の結果を積算して観測する.このようにして得られたサイノグラム画像をもとに,X線CT画像再構成により,対象物の分布を表す断面画像を得ることができる.

 X線CT画像再構成では,再構成速度が早ければ素早く診断ができる,再構成精度が良くノイズが少なければ,疾病を見逃しづらくなる,X線照射数が減れば患者の負荷が減る,といった点がある.そのため再構成速度を早くし,精度を良くし,X線照射量を減らす研究が行われている.

 X線CT画像再構成には,大きく分けて「直接法」と「逐次近似法」の2つ の方法がある.直接法は計算コストが低いが,再構成時の撮影角度が不足すると,得られる画像のノイズやアーチファクトが増えてしまう.逐次近似法は低ノイズ,低アーチファクトの結果を得ることができるが,計算コストが直接法に比べ高い.

 上記直接法や逐次近似法の課題を克服するために,ディープラーニング手法と組み合わせたCTの再構成手法が提案されている.それはディープラーニングにより直接法や逐次近似法の課題をカバーする手法だが,既存手法に加えてディープラーニングの計算を実施するという点において,既存手法よりも再構成の速度が遅くなってしまうのが課題である.またディープラーニングの医療適用上の課題として患者のプライバシーの問題から学習用画像が少ないという課題がある.ディープラーニングは単に画像を多くするだけで精度が上がっていくという利点がある一方,学習用画像がすくないと精度を上げることができず,既存手法に劣ってしまう.

 本研究ではディープラーニングのモデル(Stacked U-Net)だけで直接再構成画像を復元できることを示した.ディープラーニングは線形演算の組合せ1回で解を出すため,繰り返し演算を必要とする従来手法に比べて速度が速い.またディープラーニングの医療適用上の課題である患者のプライバシーの問題から学習用画像が少ないという課題に対しては多くデータが存在する自然画像を用いて学習することを提案した.自然画像で学習を行ったモデルにおいても,医療用画像が復元できることを示し,X線照射量が少ない場合において,定量手法評価や診断用AIを用いた評価により既存手法より優れた結果を示した.

 本研究で示した手法により,少ないX線被ばく量で迅速に診断ができるCT機器の開発が期待できる.

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(2022年5月30日受付)
(2022年8月15日note公開)

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 取得年月日:2022年3月
 学位種別:博士(工学)
 大学:電気通信大学

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推薦文[メディア知能情報領域]知能システム研究会
X線CT検査では,X線の投影データを基に人体断面の再構成を行う必要がある.本論文では,少ないX線照射数で短時間かつ高精度に再構成を行う,深層学習モデルを提案した.この成果により,少ない被ばく量で迅速に診断ができるCT機器の開発が期待できる.


研究生活
  入学試験のときに「テーマがこの状態で進学決めるなんて勇気あるね」と言われたのを思い出します.私は社会人博士として入学し,結局4年かかって博士を取得しました.社会人として働きながら,家庭環境の変化もあり(子供が生まれた!)時間をやりくりしながら取り組みましたが,最初の3年はほぼ成果らしい成果もなく,悶々としていました.4年目に成果がドドドっと出て博士を無事取得でき,“石の上にも三年”という言葉の正しさを知ることになりました.

上記を鑑みると,苦しい博士生活だったかのように思えますが,私としては結構楽しんでいました.一つひとつ自分の考えた課題について手を動かすと,さらに新しい課題や解決策が浮かんできます.その課題や解決策に対してまた取り組むというサイクルを繰り返すと着実に進んでいるのが実感でき,楽しくなります.またその結果が論文や学会などで認められるともうちょっと楽しくなります.博士進学を考えている方にはぜひ,“研究すること自体を楽しんで”いただければと思います.