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A Study on Listener-centered Communication Support in the 1vN Environment

2022年度研究会推薦博士論文速報
[コラボレーションとネットワークサービス研究会]

越後 宏紀
(ソフトバンク(株))

邦訳:1vN環境での聴き手を主体としたコミュニケーション支援の研究

■キーワード
コミュニケーション/オンラインプレゼン/ICT教育

【背景】1vN(1人対多数)環境のコミュニケーションは複雑
【問題】聴き手が語り手にフィードバックしづらいという問題
【貢献】ICT機器を使用した聴き手が主体となる1vN環境の実現

 僕は授業中に手を挙げて発言するのが苦手でした.それは緊張や不安,間違えたときの恥ずかしさといったネガティブな感情を持っていたからです.

 なぜ先生は教室にいる児童生徒に手を挙げさせて,意見を求めるのでしょうか.その理由の1つとして,先生が一方的に教えるのではなく,児童生徒が自分自身で意見を持ち,その考えた意見を他の児童生徒と共有し,教室全体で授業を展開していきたいという意図があると考えます.

 プレゼンテーション(以下,プレゼンとします)も教室の授業と共通点があります.プレゼンは発表者が多数の聴講者に対して一方的に話していますが,聴講者が理解してもらえるように話さないと意味がありません.聴講者がうなずいていることを確認したり,聴講者と目があったりすることで,発表者は自身のプレゼンが聴講者に届いているかどうかを確認するのです.

 このように,授業やプレゼンのような環境(「1vN環境」と呼びます)において,児童生徒やプレゼンの聴講者のような「聴き手」を主体としたコミュニケーションについて僕は研究してきました.

 まず,オンラインの1vN環境では,そもそも語り手と聴き手のやりとりが起きる前に,「なかなか聴き手側が集中して聞くことが難しい」という問題がありました.YouTubeを代表とする動画配信サイトを視聴することに慣れている聴き手にとっては,語り手が単調で淡々と話す授業や発表は集中して聞くこと自体が難しいのです.そこで,オンラインであることを有効活用したプレゼンスタイルを提案しました.提案したプレゼンスタイルは,発表者の目線やジェスチャー,表情が聴講者に伝わりやすく,印象の良い発表であることを実現しました.

 次に,オンラインと対面のどちらの状況でも挙がっていた問題が,「聴き手の反応が語り手に伝わらない」ということでした.授業やプレゼンでは,聴き手のあいづちやうなずき,感嘆,笑い声といったフィードバックを語り手が把握しづらいという問題がありました.そこで,デジタル機器を利用して「うんうん」や「すごい!」といったボタンを押すことでリアルタイムにフィードバックができるシステムを開発しました.このシステムを使うことで,聴き手は簡単にフィードバックでき,自分の意見を伝えるハードルを下げることが可能となりました.

 3つ目として,小中学校の授業を対象として,「手を挙げて発言する以外に教室全体で意見を共有して理解を促進することが難しい」という問題がありました.手を挙げる以外の解決として,僕はiPadを代表としたデジタル機器を活用し,これまでの授業形態をいかしたままリアルタイムに共有することを可能としたデジタルノートを開発しました.このシステムを利用することで,児童生徒がデジタルノートに書いていた意見をリアルタイムに先生と共有し,先生はその意見をもとに授業を展開することが可能となりました.

 これら大きく3つに分け,人間のみでは解決することができなかった1vN環境のコミュニケーションの課題について,デジタル機器を活用したシステムを利用することで解決するための方向性を示しました.

■Webサイト/動画/アプリなどのURL
個人HP:https://www.hiroetty.com/

(2023年5月17日受付)
(2023年8月15日note公開)

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 取得年月日:2023年3月
 学位種別:博士(理学)
 大学:明治大学
 正会員

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推薦文[情報環境領域]コラボレーションとネットワークサービス研究会
学会発表や教育現場の授業,オンラインのライブ配信のような,1人の語り手に対して聴き手が複数人いる環境のことを「1vN 環境」と定義し,語り手と聴き手のコミュニケーションの課題に着目してコミュニケーション支援について論じた論文であり,GN・HCI分野および教育環境の改善・発展に大きく寄与する論文である.

研究生活  
「俺はドラマ・マンガの主人公だ」

これは僕の人生のマインドです.

いや,自意識過剰かよ.自己主張すごいな.と思うかもしれませんが,そういうことではないです.「なにかトラブルが起きたとしても,それは作者(神)が面白い展開にするために入れた課題である」「全然関係なさそうな事象でも,たまに振り返ると伏線になる」といった思考をすることで,ネガティブなことも前向きに捉えることにしている,ということです.

実際に博士課程での研究生活では,トラブルがたくさんありました.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で研究がすべて白紙になるし,研究も思うように進まないし,論文を書いても書いても不採択だし,諸々の都合で所属研究室が変わるし…….

もちろん,トラブルが起きたときは落ち込むこともありますが,「この展開を俺はどう解決する? どうしたら面白い?」といった思考に切り替えることで,乗り越えてきました.

皆さんも,一人ひとりが主人公です.これからどのようなストーリーを描きますか?