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Motivational Techniques that Aid Drivers to Choose Unselfish Routes

邦訳:運転者が利他的な経路を選ぶことの動機付けを支援する技術

Briane Paul V. Samson

(デ・ラ・サール大学 コンピュータ科学部 助教授)

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自動車運転
ナビゲーションシステム
利他的行動
動機付け

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【背景】カーナビが提案する最短経路を多くの運転者が選ぶことによる交通渋滞
【問題】一部の運転者に非利己的な経路を選んでもらう仕組みの解明
【貢献】個人の状況や性格に応じて利他的行動を促す対話型カーナビの提案

 カーナビの普及により,多くの車が提示された最適経路を選び,そのことでかえって交通渋滞が起きてしまう問題が深刻になっている.都市での渋滞を減らすには,一部の車にはあえて少し遠回りの経路で走ってもらうことを促すような次世代カーナビの実現が求められる.本博士論文では,運転者ごとの急ぎ具合や提案された道への慣れ等に応じて「ちょっと遠回り」な経路を選んでもらうことを促す対話技術の研究開発を紹介する.

 本研究はまず,現在の一般的なカーナビゲーションシステムを利用する際の運転者の行動観察から始めた.すると,運転者は必ずしも提示された最短経路をいつでも選ぶわけではないことが確認された.システムから提示された経路を運転者が選択するか否かは,提示された経路が慣れた道かどうか,そして,そのときの急ぎ具合に大きく依存することが分かった.その結果に基づき,運転者の性格,経路への慣れ,そのときの状況(目的地へ向かう目的等)に応じて,利他的な経路を選択してもらうための動機付けデザインを試みた.

 具体的には,運転を始める前の複数経路を提示するシステムと,運転中に音声で経路案内するシステムを試作し,その効果をシミュレーション実験した.運転前の複数経路提示システムでは,利他的経路(少し遠回りな経路)を選ぶことによる渋滞緩和への貢献や,利用者自身の慣れた道の割合の表示の仕方がどのように利用者の判断に影響を与えるかを調べた.その結果は,利用者の性格に関係することが窺える結果となった.

 運転中の音声ガイドシステムは,最適経路,慣れ親しんだ経路,混雑回避のための迂回経路の3種類の経路を推薦する3つの音声エージェントを用意し,彼らが運転者の前で会話することで,間接的に運転者の利他的経路選択を促すものである.このシステムの特徴は,複数の選択肢を展示して利用者自身に選択権を委ねること,それら選択肢各々の観点の違いをエージェント間のおしゃべりというカジュアルな表現で運転中の利用者に提示することである.

 本論文が扱うのは何気ない人間の心理であり,運転中の状況や運転者の性格などさまざまなことに依存する.したがって,単純に複数手法を比較して明確な差が出る分かりやすい結果が得られるような内容ではなく,無意識の行動による定量的変化,行動変化のパターン分類,そしてその背景にある理由の聞き取りといったさまざまな角度での分析が重要である.本研究で確認された知見(慣れ親しんだ道は選ばれやすい,他者への貢献が読み取りやすい情報提示が効果的である,といったこと)そのものは結果的には単純な内容であるが,実際の自動車内の観察,オンライン実験,運転シミュレータによる実験といった複数の実験プラットフォームの実装,複数の被験者実験の統計的分析を通して,身近な市民科学的トピックを対象とした研究手法を確立した貢献は大きい.

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■Webサイト/動画/アプリなどのURL
https://brianesamson.com/

(2021年6月17日受付)
(2021年8月15日note公開)

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 取得年月日:2020年9月
 学位種別:博士(システム情報科学)
 大学:公立はこだて未来大学

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推薦文:(ユビキタスコンピューティングシステム研究会 )
都市での渋滞を減らすには,一部の運転手にはあえて少し遠回りなルートで走ってもらうことを促すような次世代カーナビの実現が求められています.本博士論文では,運転者ごとの急ぎ具合や提案された道への慣れ等に応じて「ちょっと遠回り」なルートを選んでもらうことを促す対話技術の研究開発を紹介しています.


Briane Paul V. Samson

研究生活:私の博士論文のテーマは,ドライブナビゲーション利用者の「動機づけ」をデザインすることです.私自身が毎日のように経験しているフィリピンの交通事情の悪さがこの研究テーマの動機になっています.私の目標は,運転者の利他的な行動を促す新しいナビゲーションシステムを実現することです.角康之研究室に所属したことで,自分の研究テーマを自由に定義でき,HCIの分野にどっぷり浸かることができたのは大きなメリットでした.そのことで私の専門知識は大きく成長しました.博士課程において一番苦労したのは,さまざまなHCI研究方法論を独学で学ぶことでした.授業がないため,自分の学習プランに自信が持てませんでした.しかし,私の指導教員はとても親しみやすく,自分の進路を決めるために貴重な指導をしてくれました.これから博士課程に進む皆さんは,自分の進むべき道が分からなくても気を落とさないでください.迷ったときには,指導教員に相談することを恐れないでください.彼らはあなたが成功するために存在するのですから.しかし,彼らに頼りすぎないことも忘れてはいけません.特に留学生の場合は,研究室外の人たちとのつながりも見つけることが重要だと思います.