見出し画像

Hearing Assistance for Single-Sided Deafness: Development of the System and Evaluation Methods for High Acceptability

2023年度研究会推薦博士論文速報
[ヒューマンコンピュータインタラクション研究会]

高木 健
(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 特任助教)

邦訳:片耳難聴者に受容されやすい聴覚支援のためのシステムと評価手法の提案

■キーワード
片耳難聴/ウェアラブルデバイス/技術受容

【背景】片耳難聴者は雑音の中での聞き取りが難しい
【問題】既存の補聴器は4%の片耳難聴者しか使っていない
【貢献】聞こえを補助する新たなシステムとその評価手法を提案した

 100人に1人いると言われている片耳難聴者は,聞こえにくい耳からの聞き取りやガヤガヤした場所での聞き取りが難しく,コミュニケーションを思うように取れずに社会参画に不自由を感じ,生活の質の低下が課題となっている.片耳難聴者に用いられることが多いクロス型補聴器(聞こえにくい耳から聞こえる耳へ音を送る耳掛け型補聴器)は生活の質を向上させることが知られているが,見た目,使い勝手,聞こえやすさの課題により,その普及率はわずか4%にとどまっている.私自身も10歳のときに片耳難聴になり,特に大学生になり多くの人とかかわる機会が増えたときに,コミュニケーションの課題を感じ,この研究に取り組むことにした.

 本研究では,メガネと一緒に使えるデザインによって日常生活に溶け込むウェアラブルデバイスであるasEars(図a)を提案した.片耳難聴者は特に難聴側から来る音の聞き取りが難しいため,asEarsは難聴側の音を聞こえる耳に伝え,聞こえる方の耳で聞き取れるようにした.また,asEarsは従来の補聴器と異なり,耳の軟骨を振動させることで音を伝える,軟骨伝導を用いることで耳を塞がずに音を伝え,補聴器によって蒸れて痒くなる課題や,音がこもったように感じる課題を解決した.しかし,軟骨伝導を用いるために,スピーカを痛くならないように安定して固定することが非常に難しく,メガネに埋め込むような設計では個人に合わせて位置調整することができなかった.そこで,メガネに後付けするような設計を考案し,容易に位置調整ができるようにした.

 次に,提案したasEarsが実際に良いものであるかの評価を,実験室(図b)の中と,日常生活の両方で行い,クロス補聴器と比較をした.まず実験室の中では,聞こえ方に関する評価を行った(客観評価).何も装着しないとき,asEarsをつけたとき,クロス補聴器をつけたとき,それぞれにおいて聞き取りテストや音の方向を当てるテストを行った.その結果,クロス補聴器をつけることで聞き取りやすくなる条件とasEarsをつけることで聞き取りやすくなる条件はほぼ同じであることが分かった.音の方向を当てるテストに関しては,asEarsをつけることで悪化することが多いことが分かった.

 日常生活における評価では,片耳難聴者が実際に使ったときの感じ方を評価した(主観評価).10名の片耳難聴者に協力してもらい,asEarsとクロス補聴器を2週間ずつ使ってもらい,毎日アンケートと日記を記入してもらった.統計解析の結果,asEarsの方がクロス補聴器よりも満足度が高かった.そしてデバイスの有効性,周りの人から装着するべきだと思われる度合い,使いやすさが片耳難聴用の機器の満足度に寄与することを明らかにした.

 本研究によって,提案したデバイスasEarsはクロス補聴器と似た性能を持ちつつも,ユーザにはより受け入れられやすいということが分かった.また,本研究をとおしてどうすればより良いデバイスができるかの方針も得られたため,今後さらに使いたいと思えるようなデバイスが実現できる可能性が開かれた.

■Webサイト/動画/アプリなどのURL
https://www.kentakaki.com

■動画URL(YouTubeチャンネル用)
https://www.youtube.com/watch?v=8NgLqkmGxjY

(2024年5月31日受付)
(2024年8月15日note公開)

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
 取得年月:2024年3月
 学位種別:博士(工学)
 大学:東京大学

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

推薦文[情報環境領域]ヒューマンコンピュータインタラクション研究会
賑やかな場所で会話をしづらい片耳難聴者のために,当事者でもある著者は日常生活に馴染みやすい骨伝導眼鏡型デバイス「asEars」を開発した.4週間にわたる日常生活での質問紙や聞き取りテストを通じてasEarsの有効性や満足度の高さを示した.さらに質問紙の結果を聞き取りテストで説明するモデルも提案した.

研究生活  私自身は昔から電子工作やプログラミングが好きな中高生でしたが,面白いガジェットを作るのが好きで,研究には最初興味はありませんでした.ものづくりの力で片耳難聴である自分の生活を良くしたいと思い,asEarsは大学3年生のときに作り始め,当初はすぐに完成すると思いました.しかし,作ってみると解かないといけない課題がとても多く,気づいたら研究になっていました.会社と違って何をするかのテーマを自分で決め,自分の知的好奇心のままに研究ができるのは博士課程の醍醐味だと思います.また,研究で有名な研究者と対等に議論できることはワクワクします.例えるなら推しの歌手とおしゃべりできる感じでしょうか.研究生活を成功させるためには,好きなことをやることも大事ですが,それ以上に自分に合った環境のところを見つけることが大事だと思います.指導の多さ,同じ分野の人が集まっているかどうか,ノルマの厳しさなど,どちらがいいのかは人それぞれ違うと思います.