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Analog Signal Security: Security Threats Caused by Physical Phenomena and Their Countermeasures

2022年度研究会推薦博士論文速報
[コンピュータセキュリティ研究会]

飯島  涼
(産業技術総合研究所 研究員)

■キーワード
音信号/IoTセキュリティ/センサセキュリティ

【背景】アナログ信号を用いたセンサ周辺のセキュリティ脅威が増加
【問題】従来のセキュリティ技術は主にデジタルデータに対して限定
【貢献】アナログ信号を用いたセキュリティ脅威に対する対策技術を考案

 コンピュータの高性能化,小型化により,スマートスピーカ,スマート家電,ウェアラブルデバイスなど,さまざまな種類のIoTデバイスが普及するようになっている.IoT機器の普及に伴い,IoT機器が搭載されたセンサに対する攻撃が多数発見されるようになってきている.センサに対する攻撃は,音・光などのアナログ信号が用いられ,センサに誤った値を入力させる,センサの計測を妨害するなどの被害が生じる可能性がある.これに対して,従来のセキュリティ研究では,デジタル信号に変換された後の信号についての技術開発がメインであり,アナログ信号によって生じるセキュリティ脅威を防ぐことができないケースが増えている.

 そこで,本研究では,1. アナログ信号によって生じるセキュリティ攻撃の評価,2. アナログ信号によって生じるセキュリティ攻撃の対策を目的とした.

  1. 「アナログ信号によって生じるセキュリティ攻撃の評価」では,アナログ信号のうち,音信号に着目し,音によって生じ得るセキュリティ脅威を明らかにし,その性質を調査する研究を実施した.その結果,指向性のある音を用いてスマートスピーカや音声アシスタントに対して,周りの人に気づかれずに音を入力できることを発見した.スマートスピーカなどの発声を限りなく小さくするコマンドを最初に利用することで,周りの人に気づかれず,任意の命令を音声アシスタント上で実行できる脅威となり得る.指向性のある音にのみ生じる音の特徴を検知するシステムを開発し,対策手法を含めて実装した.対策手法はGoogle・LINE社に報告の上,論文発表,NHK・IEEE Spectrumにて報道発表による注意喚起を行った.

  2. 「アナログ信号によって生じるセキュリティ攻撃の対策」では,(1)の研究で得たアナログ信号解析の知見をもとに,音・光など,アナログ信号の種類によらず,1つのシステムで対策を可能にするフレームワークの考案・開発を実施した.従来研究では,各セキュリティ脅威に対して1つの対策が実装されており,すべての脅威に対して実装を行うことは現実的に不可能とされていた.セキュリティ脅威となり得るアナログ信号に共通する特徴を取り出す抽出機能・検知機能をフレームワークとして実装し,その実用性を評価した.その結果,現在対策が実装されていない新たなセキュリティ脅威に対しても本フレームワークによる対策が有効であることを確認した.

 本研究の今後の展望として,ウェアラブルデバイス上で取得可能な生体信号に対するセキュリティ・プライバシー対策として本研究を適用すること,量子コンピュータのハードウェア(制御装置)から生じる電磁波に対して本手法を適用することなどが考えられる.本研究につながる研究事例として,現在,眼電位を用いた認証システムとそのセキュリティ・プライバシー対策についての研究を実施中である.博士後期課程在学中に開拓したアナログ信号のセキュリティについて,今後も研究開発を推進する.

(2023年5月31日受付)
(2023年8月15日note公開)

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 取得年月:2022年9月
 学位種別:博士(工学)
 大学:早稲田大学
 正会員

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推薦文[情報環境領域]コンピュータセキュリティ研究会
本論文は,AIスピーカなどのサイバー空間と物理空間の両方で動作するシステム(サイバーフィジカルシステム)のセキュリティに関して,実践的アプローチで取り組んだ研究です.難易度が高い論文誌や国際会議での採録に加え,テレビや新聞などのメディアやIEEE Spectrumでも取り上げられ,社会に高いインパクトを与えました.

研究生活  もともと音信号の加工や合成などに興味があり,当時セキュリティ分野ではあまり話題になっていなかったことから,新しい研究ができるのではないかと感じ,このテーマでの研究を始めました.あまり前例がない研究で,新規性はあるが意義がない研究に打ち込んでしまったり,論文構想をよく考えずに研究を始め,論文にならない実験をしてしまったりと遠回りしましたが,自分で考えて進める力を身につけるための良い経験になったと思っています.論文を投稿する中で,今後何度もリジェクトされることになるので,何があっても(協力してくれる人が興味を失ってしまったかも,何度もリジェクトされて無能だと思われているのではないか,などの感情的な部分で問題が生じたとしても)自分の研究に対する信念を捨てない気持ちを持って博士後期課程に進むのがいいと思います.今後は,自分の専門や過去の研究成果にこだわりすぎず,常に広く視野を持って新しい技術や知識を学び,研究を続けていきたいと思っています.

最後に,研究室配属当初から,博士号取得まで熱心にご指導くださった森達哉教授に深く感謝申し上げます.