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Computational Carpentry : Material- and Fabrication-aware Design Systems

2022年度研究会推薦博士論文速報
[コンピュータグラフィックスとビジュアル情報学研究会]

ラルスン マリア
(東京大学 五十嵐研究室 特任助教)

邦訳:計算木工:素材および製作プロセスを考慮したデザインシステム

■キーワード
デジタルファブリケーション/ユーザインタフェース/コンピュータグラフィックス

【背景】環境負荷の低い素材としての木材の可能性
【問題】木材の非均質性による設計・加工の困難性
【貢献】木材の非均質性を考慮した設計・加工手法

 3Dプリント技術は,デジタルファブリケーションと呼ばれる大きな研究分野の一部です.デジタルファブリケーションとは,仮想空間上の造形物を現実空間に生成する技術のことで,つまりコンピュータで計算・設計した造形データを,コンピュータから工作機械へ伝え,ものづくりをします.機械としては3Dプリンタが有名ですが,切削加工やレーザカットなど,多様な生成方法があります.

 博士課程では,木材を使ったデジタルファブリケーションに焦点を当てました.木材は,金属やプラスチックと違い,不均質な性質を持っています.まず,見た目の美しさと物理的性能には不均質な木目模様が影響しています.そして,直方体などの板状に切り出す前の天然木の外形は,有機的で不規則です.このような木材の不均質性を考慮し,素材の情報をどう製作に取り込むかを模索しました.このビジョンに基づき,1)継手,2)枝,3)節目に関する以下の3つの事例研究を立ち上げました.

1:木工継手のインタラクティブな設計と製作
 木工継手とは,木片同士がうまく組み合うように素材を削り出し,立体パズルのように木片を繋げる,釘やネジを使わない技術です.そのため,接合部は機能的で美しいと評価されています.しかし,接合部分の形状は幾何学的で複雑さを伴い,さまざまな条件を同時に考慮する必要があるため,一から形状を設計するとなると簡単にはいきません.たとえば,耐久性を高めるためには繊維の方向と接合部の形状との関係に配慮することが重要です.しかも手持工具による製作は依然として時間がかかる作業です.こういった制約を失くすため,木工継手を設計・製作できるインタフェースを開発しました.

2:不規則な形状の枝を利用して構造物の製作
 樹木から得た天然の素材は,有機的で不均質な外形をしています.不規則な形状は,通常,製造や建築に使用するために,直方体など定寸法の板に加工されてしまいますが,この事例研究では,材料の標準化を避けるアプローチを検討しました.3Dスキャン,コンピュータによる計算・設計,デジタルファブリケーションといった最新技術を駆使し,多様な形状に対応できる製作方法を発案しました.本システムでは,素材収集から設計,そして加工までをサポートします.具体的には,自然に湾曲した枝の利用に着目し,枝の選択と設計の工程を自動化して,曲面の立体構造物の製作を実現しています.

3:節目を持つ無垢材の質感をモデル化
 木には固有の年輪模様があり,これは幹が成長するにつれ層が重なって形成されます.この木目は,木材の外観,性能,機能に影響を与えます.研究では,このような木材の独特で不均質なパターンのモデル化に焦点を当てました.木材の特徴である節目は,幹から成長する枝が年輪に複雑な歪みを与えることで生じます.特に,節目のモデル化は重要な科学的貢献と言えます.

まとめ
 研究では,木材の持つ不均質性を活かし,設計目標との間で相乗効果を追求することを提案しました.開発したインタフェースやシステムは工法技術の拡大に貢献し,さらに,金属やプラスチックのような再利用できない建材に代わる魅力的な選択肢を提供します.

博士論文に含まれる3つの事例研究を表す画像.1:TSUGITE,2:BRANCH,3:MOKUME

■Webサイト/動画/アプリなどのURL
個人ページ: http://ma-la.com/
研究ページ1: http://ma-la.com/tsugite.html
研究ページ2: http://ma-la.com/procedural_knots.html
研究ページ3: http://ma-la.com/swirl.html
 
■動画URL(YouTubeチャンネル用)
https://www.youtube.com/channel/UCp5XJWNvFxWtLXmGJ150gsA

(2023年5月29日受付)
(2023年8月15日note公開)

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 取得年月:2023年3月
 学位種別:博士(情報理工学)
 大学:東京大学

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推薦文[メディア知能情報領域]コンピュータグラフィックスとビジュアル情報学研究会
近年,感性的なデザインを計算により実現する計算設計が盛んに研究されています.しかし,計算設計された形状や機能を現実の制約の中で製造するのは依然困難です.本研究では,不均一で扱いづらい木材を用いた計算製造に着目し,入手が容易なものの製造上の制約が多い装置に対応した設計・製造ワークフローを実現しました.  

研究生活  私は日本の伝統的な木工に魅了されて,この研究テーマを設定しました.特に,職人がなぜ数ある木片の中から特定のものを選ぶのか,美しく複雑な伝統的木組みはなぜそのようにデザインされるのか,その実用的な理由を理解したいと考えました.また,金属やプラスチックに代わる未来の素材として,木材は持続可能な素材であるという確信がありました.このような動機を出発点に,具体的なテーマを試行錯誤の過程で設定していきました.

最後に,博士課程に進む学生の方たちへのメッセージです.良い指導教官を見つけ,自分が情熱を傾けるアイディアに従い,世界をより良くすることができると信じてください.あとは,時間と労力をかけて批判的に考えれば,物事はうまくいくはずです.課程は長期に及ぶので,その間,プログラミング言語の習得や,学会での発表といったやりがいのある短期目標を立てることが効果的です.日々のモチベーションを維持するのに役立ちます.

この研究は,(株)メルカリR4DとRIISEとの共同研究である価値交換工学,JST ACT-Xの成果です.ご支援に深謝の意を表します.また英日翻訳者,關根香野氏にも感謝します.

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