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Actuated Walls as Media Connecting and Dividing Physical/Virtual Spaces

2022年度研究会推薦博士論文速報
[ヒューマンコンピュータインタラクション研究会]

大西 悠貴
(シンガポールマネジメント大学 博士研究員/
東北大学電気通信研究所 学術研究員)

邦訳:物理/バーチャル空間の接続と分離を媒介する可動壁に関する研究

■キーワード
Human-Computer Interaction/空間インタフェース/ロボットディスプレイ

【背景】空間を分け隔てる身近な壁の機能を考える
【問題】壁の静的な性質が用途や機能を限定している
【貢献】自律移動機能を導入した可動壁メディアの実現

 「壁」は私たちがいる生活空間を形成している身近な物体である.建物の外壁のように外の世界と室内を隔てるだけでなく,たとえば,私たちは日常的にパーティション等によって空間を複数に分割して個別の室内空間を作ったり,逆に,それらを取り除いて1つの大きな結合空間を作るなどしている.このとき,パーティションは個別の物理空間の境界となっている.また一方で,テレビやパソコンなどのディスプレイを通してバーチャル空間の映像を見る機会もある.このとき,ディスプレイは私たちがいる物理空間と画面の中のバーチャル空間との境界となり窓のように情報を媒介している.これらをまとめると,パーティションやディスプレイをはじめとした「壁」は,人間の活動を支援するものとして使われ,さらには物理空間同士または物理空間とバーチャル空間といった複数の空間を媒介するメディアとしての役割を担っていると言える.

 本研究では,これらのように空間を分け隔てる機能を持つものを広く「壁」として捉えた上で,空間に偏在している壁の機能と人間の活動の関係性に着目した.これまでの一般的な壁は,通常静止した状態で配置・使用されるため,絶えず変化する人間の活動に柔軟に適応することは難しい.そのため,個々の壁の用途や機能はごく限定的にならざるを得なかった.

 そこで,新たに自律移動機能を導入して可動壁とすることで,壁の性質を拡張して人間の活動に合わせて柔軟に適応することを可能とし,物理空間同士または物理空間とバーチャル空間とを接続・分離するメディアとしての機能を強化できると考えた.この考えに基づき,本研究では可動壁メディアという新たなコンセプトを提案し,その有効性を確かめるべく,物理空間と物理空間,および物理空間とバーチャル空間を繋ぐ以下の2つの可動壁メディアの実例を検討した.

  1. 高さを自在に変更可能な自走式パーティション型ロボット群を用いたインタラクティブな作業空間構築インタフェース$${^{1),2)}}$$

  2. バーチャルコンテンツの情報をより豊かにユーザに提示するための擬似触覚提示ロボットディスプレイ$${^{3)}}$$

 1つ目の研究では,ロールスクリーンを用いたパーティションにアクチュエータを導入し,自走・伸縮機能を持つパーティション型ロボットを実装した.また,それらを複数台同時に連携制御するアルゴリズムや操作手法を実装することで,ユーザの作業状況に応じて,空間内で所望するパーティションのレイアウトを簡易的かつ迅速に設計し,自動構築することを可能にした.

 2つ目の研究では,ディスプレイ内のバーチャルコンテンツとインタラクションする際の擬似触覚を,ディスプレイの自走機能により強化することを試みた.視覚的なコンテンツの変化量の不一致を利用した従来の擬似触覚提示(Pseudo-haptics)を拡張し,コンテンツを表示しているディスプレイの奥行方向の移動量を操作することでユーザにリアリティの高い擬似触覚を提示することを可能とした.

 以上の提案手法は,共通して「壁」の性質をより動的なものへと拡張し,動的に変化し得る人間の活動に応じた,空間の接続・分離を可能とした.可動壁メディアのコンセプトは,ユビキタスコンピューティングのビジョンとも親和性が高く,今後さらに人と空間のインタラクションを設計する上での基礎的な考え方になると思われる.

■動画URL(YouTubeチャンネル用)
https://youtu.be/LCCvpnw1tEw
https://youtu.be/fDWvzDFSZds

参考文献
1)Onishi, Y., Takashima, K., Higashiyama, S., Fujita, K. and Kitamura, Y. : WaddleWalls: Room-scale Interactive Partitioning System using a Swarm of Robotic Partitions. In Proceedings of the 35th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology  (UIST '22). ACM, New York, NY, USA, Article 29, pp.1–15 (2022).
2)Onishi, Y., Takashima, K., Fujita, K. and Kitamura Y. : Self-actuated Stretchable Partitions for Dynamically Creating Secure Workplaces. In Extended Abstracts of the 2021 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI EA '21). ACM, New York, NY, USA, Article 294, pp.1–6 (2021).
3)Onishi, Y., Takashima, K., Fujita, K. and Kitamura Y. : BouncyScreen: Physical Enhancement of Pseudo-Force Feedback. 2021 IEEE Virtual Reality and 3D User Interfaces (IEEE VR’21). Lisboa, Portugal, pp.363-372 (2021).

(2023年6月6日受付)
(2023年8月15日note公開)

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 取得年月:2023年3月
 学位種別:博士(情報科学)
 大学:東北大学

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推薦文[情報環境領域]ヒューマンコンピュータインタラクション研究会
壁や壁面ディスプレイは,我々の生活の中で空間を作ったり写したりするさまざまな役割や機能を持っています.本論文では,その壁に自走機能を導入して,空間を好きなように仕切ることができるロボットパーティションや手で触らずとも力を感じることができるロボットディスプレイなど,興味深い成果が報告されています.

研究生活  高校生のときに人間とコンピュータの共生に興味を持ったことがきっかけでHCIに携わることを決め,コンサート演出やサイネージに大きなディスプレイが使われていることに関心があったことから本研究テーマへと繋がりました.研究を始めてからの数年間では,本当に多くの経験を得ることができたと思います.特に,国内・国際学会での研究発表を始め,海外大学の先生との共同研究や国際学会での運営ボランティアなど,研究室内外で得られる学生や研究者の方々と繋がる機会は,日々研究を推進させる大きなモチベーションになっていました.自身の経験を振り返ると,博士課程修了までの6年間で,研究テーマはもちろん,自分自身ともじっくり向き合うことができ,かけがえのない時間となりました.これまでご指導いただいた先生方,ならびに携わってくださった皆さまに深く感謝しています.