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僕バスとめれるんで 下

⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)


(昨日まで)
 大学の落語研究会に所属していた僕は
ある日、
同期と後輩の3人で余興先に向かっていた。
場所は滋賀県甲賀市、
目的地に向かう途中のバスで
自分たちと同年代の大きな荷物を持った
謎の大学生風男子3人組を見つける。





目的地の最寄りのバス停に着くと
賛助先のおじさんが迎えに来てくれていた。




「こんにちは!」




元気よく言うとおじさんが


「遠いところありがとうございます。
落語研究会の方と
マジック研究会の方ですね」




マジック研究会???



なるほど。
そういうことか


賛助はよく
他のジャンルの人たちと
一緒になることがある。
(マジックの他にも歌やダンスなど)


今回もそれだった。



「どうぞどうぞこちらへ」



周りの家よりも
比較的大きめの民家に入ると
和室に案内された。


「じゃあ人数分弁当用意してますんで
本番までにお食べください
どうぞごゆっくり」



なるほど
ここが控え室になっていて
ここで着替えやら何やらを済ませ、
ご飯を食べるということか。



着物に着替えると途端に食べづらくなるので
そのままお弁当を食べることにした。



蓋を開ける。


ちなみにその時の弁当の写真がこちら

       ↓
       ↓
       ↓

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カメラロールを振り返っていたら
たまたま出てきた。


これだけ豪華なこともまあないので
記念に残しておいたのだろう。


この箱に加えて、ご飯と味噌汁的なものが
ついていた気がする。



あ、これ当たりやな



僕は確信していた。

確実に当たりの賛助だ。



せっかく呼んでいただいているのに
当たりとかハズレだとか言うのは
本当に失礼だと言うことは
わかっているのだが
こればかりはしょうがない。


こういう出てくる弁当など
待遇がいい場所に限って
落語もよくウケるし
皆優しい。


態度の悪い賛助先ほど
飯も出ないし、ウケもしないし
交通費もおひねりも何も出ないのだ。


ダメなところはとことんダメ





「今日なんのネタする?」


同期が聞いてきた。


「まあ秘伝書かなぁ」


『秘伝書』とは僕の鉄板ネタの一つで
「これさえ読んだら、人間一生安泰に暮らせる」
と謳って怪しい本を売りつける店主と
騙されてその本を買う青年のやりとりや
様子を面白おかしく描いた落語の演目である。


「また、秘伝書かい!」


そう、同期の言うとおり


僕はほとんどの賛助でこの
『秘伝書』という演目をかけてきた。


便利なのだ。


短いし、お年寄りから子供までウケるし
簡単なのだ。





ご飯を食べ終わるとトイレに行く。


着物に着替えると
途端におしっこをしづらくなるのだ。
(着物って不便だよね。)



途中、今日の舞台、会場が見えた。



結構な人数が集まっていた。



なるほど、
これだけの田舎だ。
娯楽があまりないのだろう。

学生の落語やマジックでも
楽しみになる気持ちもわかる。




帰ってきて着替えを済ませ、
しばらく待機だ。



「おい、今日の会場良さそうやぞ!」



後輩と同期に伝え、順番を決める。


確かその時は
後輩、同期、僕の順番だった。



そして開始時刻が訪れた。



その日は確か敬老会か何かの集まりだった。



30〜40人の老男女が
僕たちの落語を見た後
マジックを見る。
(老男女なんて言葉ホンマにある?)



後輩の落語がはじまる。

同期と一緒に見守ることにした。


「まあまあウケてるなぁ」


「なんかマクラ(落語前のフリートークみたいなやつ)の
入り方が良くなってるよね。」





謎の先輩風





後輩の落語が終わった。



次は同期の出番だ。



ウケている。


過去2回の賛助記事を読んでくださった
皆さんは
やっとウケたんか良かったね
と思われるかもしれないが
この同期は落語はいつもウケてるのだ。


稀にスベるだけで普段はずっとウケているのだ。



終わった。



最高に温まりきった会場



僕の出番がきた。



マクラもそこそこに
落語に入った。



わろてるなぁ。

みんなわろてる。



ウケを気にしながら落語をすると
集中力が切れてしまうことがあるのだが
今回は余裕を持って
周りの様子を見渡すことができた。



何人かツボに入って
笑い転げているおばあさんがいる。



爆ウケ



終わり



ええ賛助やなぁ。



控え室に戻った。


私服に着替える。


マジックの音が微かに聞こえる。


そちらも盛り上がっているようだった。



「いやぁ今日はみんなウケて良かったね」




同期も後輩も嬉しそうだった。





「失礼しますー。」


バス停まで迎えにきてくれた
おじさんが入ってきた。


「皆さんありがとうございました。
みんな喜んでくれたみたいで良かったです。
あのね、
そこでちょっとお願いがあるんですけど
この後ビンゴ大会があるんですけど
良かったらMCをしてもらえないですか。」



着物を畳む手を止めた。


おじさんの視線が完全に僕の方に向いている。



え、俺?



まさかの名指し?


「僕ですか?」


「はい、
是非写楽斎さん(僕の落語の時の名前)に
お願いしたいなと思いまして」



「まあ…
わかりました。やらせていただきます。」



本来、うちの落語研究会では
落語以外の依頼は基本的に断っていた。


しかし、これだけいい会場だし
まあいいだろうと判断し
MCを引き受けることにした。


と言っても台本などがあるわけではないので
完全にフリーでいくしかない。


会場に戻ると
全老男女に
ビンゴカードが配られはじめていた。



なかなか全員に行き渡らない。



「はいどうでしょうか皆さん!
ビンゴカードの方はきましたか?
もうビンゴカードきたよーって方は
とりあえず真ん中あけましょか
真ん中
ここはもう開けちゃっても問題ないんで」



伝えるのむずー



全然言うこと聞かんやんけこいつら
(お年寄りはちゃんと敬いましょう)



「もう大丈夫でしょうか!
じゃあ行きますよ!」



機械のボタンを押すと
ランダムで数字が出てくる。


「はい出ました!32!
32あるよーって人は開けてくださいね。
どうでしょうか
この時点でもうビンゴだよーって人います?」






数字一発目からビンゴ者を募るというボケ
ややスベり






「はいどんどん行きますよー」



しばらく経って
最初のビンゴ者が出た。


「はい、おめでとうございます!」



賞品は
洗剤5個、ティッシュ2箱


なんじゃそりゃ!



景品がバリバリの生活用品



次の数字が出ると
すぐに次のビンゴが出る。



賞品は
洗剤4個、ティッシュ3箱



何がちゃうねんそれ!



どう差別化してんねん意味わからんやろ



同じような賞品ばかりが沢山登場したのち、
ビンゴ大会が終了した。


「はい、以上ビンゴ大会でした!
ありがとうございました!」




終了



変なビンゴ大会はあったが
全体的にとてもいい賛助だった。





控え室に行くと
また違うスーツを着たおじさんが立っていた。



「はじめまして」



名刺を渡された。



見て驚いた。


その地域の区長だった。


「非常に良かったですよ。
また是非、お越しください。」



区長直々にご挨拶に来てくれるなんて
今日は本当にいい賛助だ。



感傷に浸っていると


「写楽斎さんやばいです。」


と後輩が話しかけてきた。


「どうしたん?」


「僕、夜バイトがあるんですけど
今の時間やとギリギリで
次のバス乗らないと間に合わないんですよ
出ましょう」


「え、そうなん?ほなまあ急ごか」



急いで支度をしなければいけなくなった。


カバンに着物などを詰めていると
区長が僕に話しかけてきた。


「あの〜大丈夫ですよ。」


「何がですか?」


「僕、バスとめれるんで。」


「え?」


「バス会社に連絡して
時間遅らせるよう言うときますわ。」





すごい



バスをタクシーみたいに扱ってる!



そんなことが可能なのか


「ホンマですか?ありがとうございます。」


「いえいえ、わざわざ来ていただいたので
このくらいはさせていただきますよ」




区長のファインプレーにより
僕たちはスムーズに帰ることができ、
後輩はバイトに間に合うことができた。

学生相手でも真摯に向き合って
問題を解決してくれる
そんな区長の姿勢に感動した瞬間だった。

























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