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嗚呼、出町柳

⭐️⭐️⭐️
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僕は右手の中指
第一関節にイボがある。

結構前から
一緒に生活してきた気がするが
最近大きく、かたく
そして黒くなってきた。

少し前まで

「これ何が原因で出来たんやっけなー」

と理由を模索していたが

つい先日
その原因を思い出した。


これは僕が大学に入って間もない頃の話

京都の街を
ウロウロしてみたいと思っていた僕は
授業が早めに終わった日、
京都市バスを使って出かけることにした。

出町柳駅前というバス停で降りる。

京都のバスは便利だ。
どの街でもだいたい行ける。

周辺を歩いていると
目の前に鴨川が現れた。

大きな橋がかかり
学生や家族がチラホラ

河原に座ったり
等間隔に並んでいる石の上を
ピョンピョン飛びはねたり


平和な街だなぁ。

それが
僕の第一印象だった。

橋を渡りきると
アーケードのように
道に屋根が現れた。

商店街のようになっているのだろうか。

さらに進む

すると
本格的に商店街らしくなってきた。

肉屋や八百屋
団子屋など
昔ながらの店舗が立ち並んでいる。

こんなに店が残っている商店街も
今時は珍しいんじゃないだろうか。

お肉屋さんにコロッケが売っていた。

僕は商店街の
お肉屋さんのコロッケが
好きすぎる。

買わずに
通り過ぎることなどあり得ない。

100%買う。

すぐにその店に吸い寄せられたが

非常に魅力的な
別のある提案が僕の中に思い浮かんだ。

もしかしたらコロッケを
最後にとっておいた方が
いいんじゃないだろうか?

商店街をいろいろ回って
他にも食べ歩きできる店が
沢山あるだろう。

いろいろ食べて
最後に残した
コロッケを楽しむ

こんな至福の時が
あるだろうか

僕は人生ではじめて
コロッケを通り過ぎ

商店街を進んだ。


途中
古い文房具屋に入る。

比較的新しい今時の文房具から
少し茶色くなっている
昔の文房具まで

品揃えがいい。

せっかくだし
なにか買っていこうか

僕はあることを思い出した。

そういえば
一人暮らしをはじめて間もない僕の家には
電卓がない。

電卓はなにかしら
生活に使うことがあるだろう。

買って行こう

店内の
色々な電卓のボタンを押してみる

その中から一番押し心地の良かった
1つを選び
レジに持っていく。

親切そうな
おじいさんが袋に入れてくれた。

まさか商店街で最初に買うものが
ガチガチの文房具だとは思わなかった。



グウゥゥゥゥゥ

お腹が鳴った。

はやく何かを
お腹に入れたい

歩いていると
お惣菜屋さんだろうか
だし巻き卵が
売っているのを見つけた。

こんなに美味しそうなことが
あっていいのだろうか

黄色く輝いたボディーを
見つめる。

しかしこれは
食べ歩きには向かないだろう。

おそらく
晩ご飯を迷った主婦が
1品買っていくタイプの惣菜である。

僕はだし巻きをスルーした。

しばらく歩く。

ここまで腹が減っているのは
久しぶりだ。

しばらく歩くと
和菓子屋さんがあった。

僕は甘党だ。

余裕で1日ケーキ3個とかいく

これはもしかして
先にスイーツいくのあり?

まだちゃんとした
ご飯を摂っていないが

全人類が今まで守ってきた法則に反して
先に甘味を摂取しても
いいのだろうか

ちょっと待てよ?

それよりも
この極限まで腹が減った状態で

このままで
コロッケを食うというのは
どうだ?

最高の食材が
最高の状況によって
最強になるんじゃないだろうか。

和菓子屋をスルー

お肉屋さんに着いた。

コロッケを
やっと食える。

壁にかけられた
メニューを見る。

コロッケ、メンチカツ、ビーフカツ、トンカツ、串カツ、唐揚げ、唐揚げ串

全部美味い。

まだ食べてないけど
もはや全部美味い。

「コロッケください」

元気よく店員さんに伝えた

「はい、コロッケねー」

「すいません、あと唐揚げ串もお願いします!」

2つで250円

ほぼ唐揚げの値段だ。
コロッケ70円が安すぎる。

揚げたてのコロッケと唐揚げを
袋に入れてもらい、受け取った

「ありがとうねー」

僕は店を離れると
河原の方に行くことにした。

あっちで食べるほうが
絶対に気持ち良いだろう。

しかし
我慢できない。

よだれがたれてくる。

よし!
唐揚げだけ先食おう

ほんである程度
お腹落ち着いた状態で
コロッケを食おう。

そう決めた僕は
少し行儀が悪いが
歩きながら唐揚げを頬張った。

うまい

コロッケのほうが好きだが
もちろん唐揚げも好きだ。

新鮮な鶏肉を使っているのだろう。

1日に何個も色んな肉を揚げているであろう
店主が丁寧に仕上げた唐揚げが
旨くないはずがない。

それを食べ終えると
さっき通ってきた橋の上まで来た。


さっきよりも飛んでいる鳥の数が
増えた気がする。

平和だ。

いよいよコロッケにありつける。

僕は心躍らせながら
袋からホクホクのコロッケを取り出した。

その瞬間

近くにいた鳥が

ビューと勢いよく飛んできて
僕の手に激突した。



痛!!!!!



コロッケが
地面に落ちた。

ボトッみたいな
パタッみたいな

鈍くて悲しい音が小さく聞こえた。

「大丈夫ー??」

後ろにいたマダムが叫んだ。

人生の中で
あまりマダムが叫ぶ状況に
直面することもないだろう。

珍しい

言うてる場合か!

右手中指が
小さく腫れている

クチバシが当たったのだ。



コロッケーーーー!!!!



嘘やろ?

あんなに楽しみにしてたのに?

「大丈夫?」

マダムは心底心配そうだった。

「あんたそれはやく洗っておいで」
「消毒しい!」
「クチバシなんかどんなバイ菌ついてるかわからんで!」

マダムは矢継ぎ早に僕にそう伝えた。

確かに。

僕はすぐにトイレへ向かった。

悔し涙を堪えながら手をゴシゴシ洗う。

指を負傷したことも
もちろん腹が立ったが

コロッケを奪われたことが
一番悔しかった。

あんなに楽しみにしていたのに。

どこが平和な街や!
さっきの俺の発言撤回!

しかもさ、
せめてちゃんと獲れよ!

あんなけ美味しそうなコロッケやからさ
旨そうやなって思うのはわかるよ?

美味しそうやなって

しっかり奪えよ!

何を地面に落とした上に
俺に怪我さしとんねん。

後々調べたが
あの鳥はおそらくトンビだ。

ネットで

「出町柳  トンビ」

と検索すると
多数の被害報告が出てくる。



「トンビがタカを生む」
という言葉がある

僕を襲ったあのトンビが
優秀な子どもを
生んでいるかもしれないと思うと

今になってまた腹が立ってきた。


僕の指には
まだ
黒く
かたく
おおきい
イボが残っているというのに。

なんか苺の
「あまおう」みたい

あまおうは
あかい
まるい
おおきい
うまい
の頭文字を組み合わせたものだと
聞いたことがある。

僕のイボは

くろい
かたい
おおきい
うまない

「くかおう」


後日
僕が所属していたサークルの
出町柳に住んでいる同期に
この事件を報告してみた。

彼は
ただただ爆笑していた。

なに笑とんねん!


出町柳とんでもない街やなホンマ!



嗚呼、出町柳

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