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PhrasePlus!企画 1

⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)


毎年恒例

去年何着てたんや!
寒すぎるやろ!
太陽全然仕事せえへんやん!

の時期になってきましたが
皆さんいかが遅ごしでしょうか



今回は先週、記事の中でもお知らせした
ショートショート企画第1弾です。

ちなみにその時の記事がこちら
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僕のスマホに入っている
アプリを使って出てきた
この世には存在しない言葉で
何かしらの物語を考えると言う企画です。


ちなみにこんな感じで出てきます。
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最初はその単語をそのまま
タイトルにして
投稿しようと考えていたのですが
隠しておいて
最後にその単語を発表した方が
いいのではないかと考え、
その方式を
採用させていただくことにしました。

ほとんど何も調べず、
完全に僕の知識と偏見、イメージだけで
書いていくので

何言うてんねんそんなんあり得へんやろ

などのご意見は一切受け付けません





それではスタートです






午前3時ごろ目覚めた敏三は
顔を洗うため、洗面所の扉を開けた。

鏡には浅黒く、
深いシワが刻みこまれた男の顔が写っている。

仕事柄、朝は早いが
ほぼ毎日のことなので慣れてしまった。

蛇口をひねる。

この季節には冷たい水を
何度も指先で確認しながら手際よく
ちょうどいい温度まで調節して
掬い、顔に三度かける。
ふうと一息つくと横にかけてある
タオルでゴシゴシと
顔についた水滴を拭った。

部屋に戻る。

カレンダーの前に仁王立ちをして
数字の一つ一つを睨みつけた。

今日は12月12日
今月はまだ1つも丸がついていない。

そろそろ本腰を入れないとまずい。

敏三だけでなく家族全員の間に
そのような空気が流れはじめていた。

今まではあんなに仲が良く
平和な家族だったのに

パジャマを脱ぎ捨て仕事着に着替える。
前日に、妻である亮子が用意してくれていた
3つの大きなおにぎりを鞄に入れると
敏三はそのまま勢いよく家を飛び出した。



5分ほど歩くと仕事道具を置いている
小屋に着いた。


中に入り、右手で釣竿左手でバケツを持ち
外に出たところである事に気がついた。




バケツの中身が綺麗だ。




そうだ、最近はずっと綺麗だ。

敏三は毎日仕事が終わると
釣竿とバケツを洗って
小屋に返すようにしている。

しかし、その日の仕事が忙しく
体が疲れ切っている時は
そのまま戻し
次の日に洗うようにしているのだ。

最近は精神が疲れるばかりで
体力は有り余っているのかもしれない。
毎朝新品のように綺麗なバケツを
見ている気がする。

気合を入れ直し、
次に敏三は船へと向かった。

今日の海は波がなく静かで
鏡面を見ているかのようだった。

今日も釣れそうにないな

少し暗い気持ちになったが、
そうも言っていられない。

船に乗り込むと
その日あらかじめ決めておいた
釣れそうなポイントへと急ぐ。




ポイントに着くと釣竿に手際良く餌をつけ
海へ弧を描くように糸を投げた。



数分後



釣れない。

そろそろポイントを変えようか


そう思った瞬間、
釣竿が少し震えた。


きた


敏三は長年の経験と
感覚から瞬時に判断した。


今のは確実に魚がかかった時の反応だ。

素人にはわからないかもしれないが
俺にはわかる、このわずかな反応を
見逃すか見逃さないかがズブの素人と
プロとの違いなのだ。

リールを丁寧かつ素早く巻き取る

しばらくすると
小魚が海面から顔を出した。



やっぱりだ



釣れることは分かっていた。

小魚を針から外すとバケツの中に放り込む。


今日の1発目


釣れたことは嬉しいことなのだが
敏三としては素直に喜べない
複雑な心境を抱えていた。

こんな雑魚を
いくら釣ったところでしょうがない

もっと大物を吊り上げなければ

家族を食わせることができないのだ。

再び竿に餌をつけ、海に放り込む






数時間後


動きは全くなかった。


そろそろ昼ごはんにしよう。

敏三は船の甲板に腰掛けると
鞄の中から
ラップに包まれたおにぎりを取り出し
一つ一つ頬張る。

食べ終わったらポイントを変えようか


ここが迷いどころなのである

このまま同じ場所にいても
仕方がないことなどわかっているのであるが
ポイント変えても釣れないかもしれない。

自分自身の今日の朝の感覚を信じ、
ここにいるべきなのだろうか。


何十年と漁師をやっている敏三にも
そんなことはわからなかった。



よし、違うポイントに行こう。

敏三は決めた。

他の場所の方が釣れる保証は
もちろんないが
このまま同じ場所に
居座り続けるのも精神衛生上よくないし
ポイントを変える事によって
気分転換になるかもしれない。

そう決意して船を操縦する。





数時間後


広い港には暮れかけた日に照らされた
敏三の背中が一つ

その手にはわずかな魚が放り込まれた
バケツの取っ手が握り締められている。


今日もほとんど釣れなかった。


帰って家族にどんな顔をしよう。




家に着くと、妻の亮子が出迎えてくれた。

「ただいま」

「おかえりなさい。
今日はどうでした?」


長年寄り添った妻の
この少し不自然な敬語が
今日は少し皮肉に聞こえた。


「あまり釣れなかった。」


そう答えるしかなかった。


手を洗うと晩ご飯の前に
カレンダーの前に立つ


もう何日も丸がついていない。

何十年も漁師をやってきて
ここまで丸がつかない事があっただろうか





数分後

食卓にはいくつかのおかずとご飯が
並べられ、それを亮子と敏三
その一人息子の健一が囲んでいる。
健一はまだ小学5年生だ。

「ねえ、お父さん今日も釣れなかったの?」

「少しは釣れたよ」

「釣れたよって、
小さいのばっかりでしょ?
ああいうのはほとんど売れないって
お父さん前言ってたよね?」


何年も漁師の息子を経験してきたせいか、
大分と知識がついてきたみたいだ。

余計な事を教えてしまったと
敏三は少し後悔した。

「ちょっと釣り方を
変えてみたらどうですか?
こんな日が毎日続いていますし」


家族の言葉一つ一つが
耳に突き刺さってくる。


お前たちは何もわかっていない素人だ
俺のやり方があっているはずなんだ。


「カレンダーもずっと
丸がないままじゃないか!
父さん、あれって
沢山釣れた日に丸をつけてるんだよね?
僕ちゃんとわかってるよ」


居心地の悪くなった敏三は
早々に食事を済ませ、
風呂に入って眠りについた。





次の日



朝起きた瞬間から釣れる気がしない。



支度を素早く済ませ、
いつも通り仕事場へと出掛けた。



毎日確認する事はないが
今日は久しぶりに地図を押し入れから
取り出してきた。


己の勘が冴え渡らない毎日を過ごすうちに
自分でもよくわからなくなってきた。

果たして今日決めた場所に行ったとしても
ちゃんと釣る事ができるのだろうか

不安を抱えたまま船に乗り込み、
ポイントへと操縦する。


着くと、釣竿を海に投げる


何千回何万回とこの作業を続けてきたが
ここまで釣れないと
感じた日があっただろうか



釣れるような予感が1ミリたりとも
感じられないのである。


昨日の家族の言葉も相まって
敏三は精神的に相当追い込まれていた。

もう後がない

今日はなんとしてでも釣り上げなくては





数時間後


決意虚しく、その日も敏三は
数匹の魚しか釣り上げる事ができなかった。


広い港をトボトボ歩く
敏三の小さな背中を
暮れかかった日が悲しく照らす。


家に着くと誰もいなかった。

カレンダーの前に立つ


どうしよう

もはやこのカレンダーなど
意味が無いのではないかとすら
思えてきた。


どうしても釣れない


どうあがいても釣れない


どうすればいいんだ?


頭が真っ白になりかけたその時、
無意識に敏三の手が動いた。


近くのマジックペンを手に取り、
12月13日の欄に大きく丸をつける。


その瞬間、我に帰った。


なんて事をしてしまったんだ


嘘の丸をつけることなど
本来あってはならない事である


しかし、しょうがなかった。

もうこうするしか精神をたもつ方法が
なかったのだ。


「ただいまー」


亮子が帰ってきた。



すぐにマジックペンを元あった場所に戻し、
食卓の椅子に腰掛ける

「お、おう、おかえり」

「あら、今日は早いわね」


「う、うん
今日は沢山釣れたから…
早めに引き揚げたんだ」

「え!沢山釣れたの!
良かったわ!私心配してたのよ
あなたどうかしちゃうんじゃないかって
釣れたのね!本当によかった」


久しぶりに見た妻の笑顔

そうか

大漁だとこんなに喜ばれるのか


簡単な事だったんだ



「ただいまー」


健一が帰ってきた。


「おかえりなさい!」


「あれ?どうしたの?
2人ともそんなにニタニタして
なんか良い事でもあったの?」

「あんた聞いてよ!
今日お父さんがね
沢山魚釣ったのよ!
久しぶりだからお祝いしないとね!」


「え!お父さんホントに!
よかったね!僕も心配してたんだよ!」



久しぶりの家族団欒


よかった


これで良かったんだ。


釣れなくたっていい
まだ貯金も少しはある
ついていい嘘だってあるんだ

これで良かったんだ。




数日後、夕暮れ時

その日も敏三はバケツを片手に
港をトボトボと歩いていた。



あの日を境に家族の仲は更に良くなった
依然、魚は全く釣れていないが
まだバレていない


ただ、いつまで誤魔化せるか


こんな状況をずっと続けるわけにはいかない

あの2人もそこまで馬鹿じゃない


絶対にいつかはバレる。


どう誤魔化そうか




家に着いた。


「ただいま」



「あら、おかえりなさい!
ご飯の支度できてるわよ
健一も待ってるし先に食べましょう」


食卓に着くと
そこには豪勢な料理が並べられ
亮子と健一が食べたそうに
ちょこんと座っている。


「うん!食べようか」


3人で揃って食べはじめる。


最近のいつも通りの食事風景

これがいつまでも続けばいいのになあと
ふと考えていると
健一が口を開いた。


「あのさ、ちょっと話があるんだけど」

「どうしたの急に!
また自分の部屋が欲しいって話?」



「そんなんじゃないよ。
ねえ、父さん!」

急に名前を呼ばれ、ドキッとする敏三

「僕見ちゃったんだ。
学校の帰り道、船から降りて歩く
お父さんの姿
見るつもりはなかったんだけど
あそこ通学路だからさ
お父さん、
本当は魚全然漁れてないんでしょ」


見られていたのか

敏三は恥ずかしい気持ちで
いっぱいになった。


「ねえ、お父さん
そんなに無理しないで
隠し事はやめてよ
魚が全然とれなくたって
お父さんの稼ぎが少なくなったって
僕も働くからさ」


「そうよ!
私だってパートの数を
増やせばいいだけなんだから!
そりゃ調子が悪い日もあるわよ
隠さなくたっていいじゃない」


自然と3人には涙が溢れていた。


やめよう


嘘の丸を描くのは


嘘などつかず、
大漁の日を待とう。


健一が壁にかけてあるカレンダーを
外した。



「これ僕が預かっとくね。
見たら嫌な気持ちになるでしょ?
だから僕が持っとく。

もし、
次に大漁の日が来たら

もう一度ここに掛けて

みんなで一緒に丸を描こう」


「なんだそれ!
その言い方だったらもうしばらく
俺が調子悪いみたいじゃないか!」


敏三の発言で家族全員が笑う



少しだけ元通りの家庭が戻ってきた気がした




(完)


タイトル
『大漁カレンダー』

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