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血だらけ婆ちゃん


⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)


これは確か3年前、
僕がまだ大学2回生の頃の話である。

その日の夜、
僕は家の近くを少し散歩していた。

おそらく大学のサークルのメンバーと
近くの食堂に晩ご飯を食べにいき、
その帰りに散歩がてら
ウロウロしていたのだろう。

僕がその時に住んでいた周辺地域は
すごくワクワクしながら散歩ができた。

京都には
日本でも有名な神社やお寺が
沢山あるのが理由の1つである。


僕の家の周りにもいくつかあった。


その1つ、
北野天満宮という神社は
学問の神様である
菅原道真公が祀られている神社で
年間を通して多くの観光客が訪れる。

日本全国津々浦々から
外国人観光客まで
シーズンによっては
多くの人々でごった返しているが


夜はひっそりとしている。


夏が訪れる前の
涼しい風を感じながら
鳥居の前を通りがかった。


僕はそこで異様な光景を目にした。


鳥居の前でお婆ちゃんが
倒れているのだ。



え?



時刻は22時頃、



こんな時間に
お婆ちゃんが倒れているなんておかしい
(どんな時間でもおかしい)


僕は恐る恐る近寄った。


そして話しかける。


「あのー大丈夫ですか?」


お婆ちゃんは
倒れているというよりは
こけて、自分の力では立ち上がれない
といった様子だった。


肩を貸し、ゆっくりと
半ば無理やり立ち上がらせる。


お婆ちゃんの顔を見て驚いた。


口の周りが血だらけだったのだ。




「大丈夫ですか!!!」


「こけたんよ。大丈夫」



大丈夫なはずがない。


「家どこですか?
帰れます?救急車呼びましょか?」


「大丈夫。家はこっち」


お婆ちゃんは
目の前にある北野天満宮の
鳥居の方を指さした。


え?


お婆ちゃんそれ神社やで?


「お婆ちゃん!こっちは神社でしょ。
家どこですか?どっちですか?」



正直言うと少し面倒臭かったが
この後怪我されても困るし
心配な事に変わりはないので
送って行こうかなと思った。

「ねえねえ、お婆ちゃん!
教えてください。
家どっちですか?」


「こっち」




毎回毎回神社の鳥居を指差している。


どう言う事なんだ?
ずっと訳のわからない事を言っている。


この人はもしかして
人間ではないのか?



そうだ。
そうに違いない。


何かが人間の姿を借りて
この世にいるんだ。


絶対にそうだ。


僕は確信した。
僕がそう考えたのには理由がある。


その頃、落語研究会に所属していた僕は
ある落語の演目の
練習及び稽古に励んでいた。


『元犬』


そう言うタイトルの落語である。


『元犬』とは
人間になりたいと願う
白くて可愛らしい犬が
毎日毎日、神社にお参りをする。

その願いが通じたのか
ある日、
朝起きると人間の姿になる事ができ
普通の人間と同じように働きに出る


その様子を面白おかしく描いた演目である。


その時期
この落語の事を考えすぎて入り込みすぎて




このお婆ちゃんも
その類なのではないかと
僕は真剣に思い込んだ。


このお婆ちゃんも元は犬で
毎日毎日北野天満宮で
祈っていたのだろう


人間になりたいと


しかしなかなか
なれなかった。


やっとなれたと思ったら
二足歩行に慣れず、
転けてしまった。


そこを僕に見つかったと言うわけだ。


だから家は神社だと言っているんだ。


本気でそう思った。





改めて聞く。


「家どこですか?」

やはり神社の中を指差した。


無理だ

これはもう



と言うか
遠くまで歩く体力も残っていなさそうだ。



北野天満宮の前には
大きな警察署がある。



本当にすぐ前
すぐそこ



警察に連れて行こう


僕はそう決意した。


「お婆ちゃん、一旦警察行きましょ。
僕ついて行きますんで」


「うん」




意外と素直だった。


簡単かよ。


僕は肩を貸し
半ばお婆ちゃんを引きずりながら
警察署へと連れて行った。

連れていくと
警察官の方にかなり
お礼を言われた。


「いえいえ、当然のことをしたまでです」


先ほどまで
あれほど面倒くさがっていたのに
警察に褒められて少し調子に乗ったのか
少しいい人ぶってみた。


「もう大丈夫ですよ。
ありがとうございました。」

「あのー
ちゃんと帰れたかどうか知りたいんで
連絡もらえないですか?」



どうでもいい


正直もうこれ以上関わるのも
しんどいが一応聞いてみた。


電話番号を書くよう言われる。

警察署だから
もちろん紙とペンは用意されている。

僕は何を思ったのか
自分の筆記用具を取り出し、
記入をしようとした。

リュックサックを開ける。


その時だ。


背筋が凍るような思いをした。


リュックサックの中に入れっぱなしの
先輩が僕の家に忘れていった
タバコの箱
バタッと床に落ちたのだ。


その時、僕は未成年だった。
(僕のタバコじゃないよ)


ヤバッ!!!


どうしよ

見られたか?

大丈夫だろうか


あれ?
さっき俺身分証明書出したっけ?


テンパリすぎて
つい先程のことも思い出せない。

(僕が吸ってたわけじゃないよ)


すぐにタバコをカバンの中に戻し
電話番号を紙に書いて

すぐに警察署を出る。


あー危なかったー


何も言われずに無事出ることができ、
少し安心した。
(もう時効だよね。
まあ時効って言っても
別に僕が吸ってたわけじゃないもんね)



あれから3年、
連絡はまだ来ていない。






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