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vol.27:これでいいんだと教えてくれるのは宮藤官九郎であり、松尾スズキであり、大人計画だった

どうも、不定期にもほどがあるエッセイ、さらっと更新です。笑

今期もっとも楽しみにしているドラマ「季節のない街」です。Disney+でご覧になっている方もいるかもしれませんが、現在毎週金曜日の深夜、テレビ東京で放送中です。

この作品全体を包み込む空気感を、どう言葉に表したらいいんだろう、と思っていたんだけど、第4話で「牧歌的」という台詞が出てきて、その言葉の意味を調べて腑に落ちまくった。

牧歌的(ぼっかてき)とは、田園風景や農村生活を美化し、理想化した状態を指す表現である。 この語は、自然と調和した生活や、人々の生活が単純で平和であることを描写する際に用いられる。 牧歌的な描写は、文学や芸術の中で頻繁に見られ、その土地の風景や風俗を詳細に描くことで、読者や観客に穏やかな気持ちを与える効果がある。

Weblio国語辞典より

まさしくこのドラマを(後半どうなるのかはわからないけど)、ひいては宮藤官九郎作品、もっと言えばその宮藤さんが属する「大人計画」の松尾スズキさんの作品の全てが “ 牧歌的 ”なものだと言っても過言ではないのかもしれない。
とは言え、大人計画のお芝居を全部観ているわけではないので、もしかしたら過言かもしれない。

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「季節のない街」初回の「どですかでん~~、どですかでん~~~~」
の車掌さんもそうだけど、第5話で藤井隆さん扮する島さんの「けけけふん!」に関しても、敢えてそれが何の病や発作なのかを、本編の中では追及しない。
それを少々異様に描いてはいるものの、それらはそのコミュニティにおける “日常” であり、覚えたての言葉を早速使わせてもらうが、その描き方がとても牧歌的である。

ただ、その描写に似た人が身近にいたりすると、少し胸がチリチリしたりもする。「けけけふん!」に関しては

「もしかしたら、てんかん発作なのかな…?」

と感じたのですが、その後のドラマ本編の展開のおかげで、胸のチリチリがそれ以上の炎になる事なく鎮火された。

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いかんせん、障害者家族としては、映像作品における “ 障害者がいる世界や日常の描き方 ” に、首を傾げる事が多かったりする。数年前に

「え???こんなに多様性だなんだって言われてるのに、まだ映画業界は障害者差別問題を提唱していかなければいけないの????」

と、憤りすら感じた事があったんですね。

「素晴らしき世界」に関してはライナーノーツ的に音声コンテンツもあったんで、もう全然嫌な気持ちはないんですけど。
「JOKER」に関しては自力で各種インタビュー等そんなに掘り下げてもいないし、今後もおそらく掘り下げるつもりもなくて。

この2作品に共通するのは “バッドエンド” なんですよね。
「季節のない街」との明らかな違いは、そこであって。

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社会問題を提唱する映像作品は数多くある。そこに潜む作品のメッセージの大枠は、概ね「互助」や「共生」だろうと思う。しかし、

「あの人は障害があるんだよ」
「健常者として生きられなくてかわいそう」

そう言った第三者の説明台詞があるだけで、私は萎えてしまう。その世界には既に「大きな差別」が存在している、と。

差別があるとこんなに酷い事が起きてしまう、差別がある事でこんなに悲しい思いをしなければならない。皆は、あなたは、こんな世の中をどう思いますか?という問題提起は、この先ずっと続いていくのかと思うとうんざりするのだけど、残念ながら続いていくんだとも感じている。

何故なら、当事者が自分の生活圏内にいなければ、忘れられてしまうからだ。
その人たちにとっては、当事者の存在すらも “ フィクション ” にカテゴライズされるからだ。
必ずしもそうではないけれど、先述した映画2作品と、最近の作品だと相模原市の津久井やまゆり園での事件がモチーフになった映画「月」を観て

「面白かった」

と感想を述べる人たちは、おそらく障害当事者とは無縁の生活をしている人たちなのかもしれない。各々の語彙力の問題なのかもしれないし、語彙力を失うほどの衝撃を受けたのかもしれないけれど、面白いとは…?と感じてしまう。

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ドラマ「季節のない街」や、ひいては過去の宮藤官九郎作品、その宮藤さんが属する劇団「大人計画」の主宰であり脚本・演出も手掛ける松尾スズキさんの戯曲では、物語の大枠のあらすじには特筆されていない “ ちょっとおかしい人 ” や “ 何らかの病気にかかっている人 ” が登場することが多い。
しかし、そのちょっとおかしかったり何らかの病気の人たちは、周囲の人たちと笑顔で暮らしていたり、時には周囲の人を助ける事もある。時折けむたがられる事もあるが、その場所には優しい時間が流れている。

例えばその人たちに、何かの障害名や病名が明確についていると、視聴者によってはバイアスがかかってしまい、そのドラマの印象が作者の意図しない色に変わってしまう。

宮藤さんや松尾さんの作品の多くは、何の病気かとか何の障害かにフォーカスせず、どんな状況にあっても “ 同じ人間である ” ことが描かれている。牧歌的。そう、大人計画の作品は、もとい大人計画の人たちそのものが、牧歌的なのかもしれない。

ちょっと言葉や描写が刺激的な社会派ドラマを観るのが悲しくなっていた昨今ですが、「季節のない街」を観て、空気感がなんとなく私と弟の日常とリンクした。
「これでいいんだな、というか、むしろこれがいいな。」
と思えた。

<完>

ハードルがあるのは障害者だけじゃない。「私たちは健常者だから」と言うそこのあなただって、職場や家族間での対人関係だったり病気したり大変な事(ハードル)が沢山あるでしょ?という意味で、エッセイのタイトルは「世の中全員、障害者。」と言います。おススメ&サポートして頂けたら嬉しいです。