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STORY2:視界も記憶も同時にかき消す深い霧「ホワイトアウト渓谷」


認知症世界。この世界には、深い霧と吹雪が、視界とともにその記憶まで真っ白に消し去ってしまう、幻の渓谷があるのです。

旅の最初に行き着いたところ、そこは世界遺産・ホワイトアウト渓谷。晴れた日には、季節折々の絶景が広がります。しかし、この地の天候は不安定です。ひとたび天気が崩れれば、あっという間に濃い霧がかかり、横殴りの雪が吹き荒れ、目の前が真っ白に染まります。

それと同時に、目に焼き付けたはずの絶景の記憶も、跡形もなく消え去ってしまうというのです。……それが、この地が人々に「幻の渓谷」と呼ばれる理由なのです。

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「目」と「記憶」には、驚くほど密接な関係がある

わたしたちは想像以上に、目に頼って生きています。高級ブランドの瓶に入っていれば、安物のワインも最上級の味に変わります。やらなければならないことも、どこかにメモしておかなければ、ついつい忘れてしまいます。

お気に入りの服も一度クローゼットの奥にしまうと、その存在を忘れて長年着そびれてしまうなんてことも。視覚と人の認知、そして記憶には、密接な関係があるのです。戸棚、扉、冷蔵庫……実は、小さなホワイトアウト渓谷は、日常の隅々に存在します。

旅人の声_story2

その日は、買い物中にトイレットペーパーが切れていたことを思い出し、購入して帰ったのですが……。

家に戻ったところ、トイレの上にある収納棚にトイレットペーパーがぎっしり!「あれ?」「こんなにたくさんあったの?」「だれがいつ買ったんだろう……?」と、わたしにはまったく身に覚えがありません。

「夫が買ったのだ」と思い文句を言うと、そんなことはなく、なんと「先週もその前の週もわたしがトイレットペーパーを買っていた」と言うのです。信じられないことに、どうも本当にわたしが勘違いをして、何度も買ってしまっていたようなのです。

棚の戸を開けるたびに大量のトイレットペーパーを目にしてはいるのですが、戸を閉じて視界から消えると、記憶からも存在が消えてしまうようです。


トイレットペーパーを何度も買ってきてしまう理由

すでに買ってあるものを何度も買ってきてしまうという行為には、さまざまな理由があるようです。

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