★「晴れ、曇り、雨」売ります♪

――晴れ、曇り、雨、売ります♪お気軽にお電話ください!フリーダイヤル晴れのち雨まで♪――

 はい?俺はスマホの真下にある広告を思わずに二度見した。だいたい、ネットを見ていて画面に出てくる広告はろくなもんが無い。エロいのがほとんどだ。しかも、必ずタップされるように上手く広告が動くように配置されていて、イライラする。そんな中、動かず真下の方に「晴れ、曇り、雨」売ります♪って広告が置いてあったら、思わず見るだろ。そうでもないのか?俺だけか?アニメーションもない。背景が青で、文字が黒だけ。めちゃくちゃシンプルな広告。
 怪しい、ダメだとわかっていても、俺は思わずタップしてしまった。ま、会員登録さえしなきゃいいだろうって思って。開いたサイトは、これまたシンプルで、――晴れ、曇り、雨、売ります♪お気軽にお電話ください!フリーダイヤル晴れのち雨まで♪――ってだけ。
 えええええー!気になるじゃんか!!シンプルなのは、心理とかをついた戦略なのか!?気になる!
 俺はネットですぐにこのサイトのことを調べたが、どこにも情報が無かった。…気になる。俺は、低気圧偏頭痛持ちだから、毎日が晴れならめちゃくちゃ嬉しい。うーん。どうするか。フリーダイヤルなら安心な気がするんだよなー…。とりあえずその日は電話番号をメモしておいた。
 

 それから数日。その広告を一切見なくなった。…余計気になるじゃんか!俺、誘われてんの?なんの試練だ(笑)!広告のことは周りに聞いても誰も知らなかった。むしろ馬鹿にされたわ。広告が出た画面を撮っておけばよかったなー。きっとレアな広告なんだろうな。
 今日も曇りで頭がズキズキする。頭痛薬も飲み続けたせいで耐性ができて効きにくいし、この痛みが解消するなら…。あー悩む。因みにメモした電話番号を調べても何も出てこなかった。それにしても、この情報社会の中で何も情報が無いのって逆にすごくないか(今思えば怖いと思うべきだったな)!?
 ――かけてみるか。すごく緊張する。でも、少しだけ、なんだか「自分だけしか知らないんだ」っていう特別感みたいなのも込み上げてくる。

「はい!」
 女性の声だっだ。かけて、音が鳴った瞬間に声がしたので驚いた。
「っ…」
 俺は突然で何も言えなかった。もう少し電話が鳴って、ドキドキしているはずだったから。
「どの天気をお求めですか?」
「え?あ、本当に、天気買えるんですか?」
 女性の声に、本題を思い出した。そうだ、天気を買うんだった。…や、さらっと、「天気買うんだった」って思うのもおかしい話だよな。
「もちろんです。晴れ、曇り、雨、この三種類からお選び頂けます」
 まじか。…まじか。
「えっとじゃあ晴れが欲しいんですが」
「晴れですね。かしこまりました。ご購入理由を教えて頂けますか?」
「えっと、低気圧偏頭痛持ちなので、毎日晴れだったらいいなと…」
 なんだか少し恥ずかしい。病院の診察みたいな気分。って、そんなこと思っている間に瞬時に返事がきた。
「日時を教えて頂けますか?」
「えっ、うーん。とりあえず、天気ってそもそもいくらですか?」
「基本は10分10万円になります」
「じゅ、10万!!!?」
 冗談じゃない!ぼったくりだ!やっぱり、ネット広告の詐欺には気を付けないといけない。
「お気持ちはわかります。初回のお客様は皆さん驚かれます」
 女性は冷静だった。
「ですが、お安い方だと思います。詳細は割愛しますが、天気という自然現象は中身を開くと、とても複雑で、奇跡の重なり合いなんです。つまり、当たり前に「晴れ・曇り・雨」があるわけではないのです。それをご購入出来るのですから大変お得です」
「はあ…」
 といってもピンとこないわ。
「天気を組み合わせれば、虹を作ることもできますよ」
「あー確かにそうですね」
 それは綺麗だな。彼女いないけど、これからは告白前にサプライズで買ってもいいかも。うーん、試しに10分だけ買ってみるか?でも高いなー。
「お客様。今なら初回30分30万円のところ、30分10万円でお試し頂けますよ」
「え!本当ですか!?」
「はい。天気をご購入する機会なんてそうそうないでしょうから、イメージしやすくするためにも、お試しの機会を設けるのは当然です」
「えー悩むー」
 30分10万円か…。高級エステと思えば、高級料理食べたと思えば、一度だけなら…。
「お客様は晴れをご希望でしたね?」
「え、あ、はい」
「多いんです。低気圧偏頭痛持ちなので晴れが欲しいってお客様」
「そうなんですか!えー買おうかなー。いやー悩みますねー(笑)」
「金額が大きいですからね。お気持ちわかります。因みに日時のご希望を伺ってもよろしいでしょうか?」
「え、あ、えっと、曇りの日、ちょっと待ってください」
 俺はすぐにスマホを二画面に切り替えて、天気を調べた。
「今月だったら、今月の28日の…12時とか?」
 28日は仕事で、12時は休憩時間。せめて休憩時間ぐらいは頭痛から解放されたい。
「28日12時ですね。場所はどちらでしょう?」
「えっと、都内の会社なんですが…」
「お客様」
「え?」
 言いかけた途端、すぐにさえぎられた。
「大変申し訳ないのですが、弊社は天気をご提供する際にいくつかルールがございまして…」
「ルールですか?」
 規約みたいなもんか?
「はい。まず、誰にも見られてはいけないということです。会社でしたら誰かの目にとまるかもしれません」
「あー確かに…」
 雨が降ってる中、自分の周りだけが晴れてたり、曇ってたらおかしいよな。
「じゃあ、自分の家だったら大丈夫ですか?」
「はい。しかし、ご自宅も家族に見られる可能性があります。失礼ですが、配偶者はいらっしゃいますか?」
「いや、一人暮らしです」
「それでしたら可能です。ただし、絶対に誰にも見られないことが条件です。宅配も、窓の外にいる人にも注意が必要です」
 なんだかめんどくさいな…わかるけどさ。
「…もし、見られたら?」
 恐る恐る聞いてみた。
「誰かに見られることはあり得ません。なぜなら私たちがご提供している天気は、人工天気なのです」
「へ?」
「よく最近の自動車には、歩行者を自動で見分けるシステムがあります。そちらと似ていて、さらにそちら以上に高性能の予測機能が備わっています。広範囲に渡りアンテナをはり、未来を予測できるのです」
「え、でも予測ですし、外すこともありますよね?」
「いいえ。予測は100か0です。絶対に外すことはありませんし、今まで外したこともありません」
「はあ。それなら安心じゃないですか?」
「はい。しかし、もし誰かに見られそうになってしまうと、そこで天気は消えてしまいます」
「ええええ!もったいない!」
「はい。なので弊社としても、時間いっぱい有意義にご使用して頂きたいと思い、ご購入前にこのように電話で確認しております」
「でも、別に家の中なら大丈夫じゃないですか?宅配も来ないかもしれないし」
「いいえ。確かに予測は出来ますが、確実に誰にも見られないという条件を満たしていないとご提供できかねます」
 あれか、あとで何か言われたりすることを恐れてるのか?
「じゃあどうしたら証明できるんですか?」
「はい。一つ目はお客様がご使用される環境。二つ目は12時でしたら他の日の12時の時間帯。これら二点を、一か月分写真と動画を撮影して頂きます。それらを後日弊社のスタッフがお客様の家まで行き、現場検証とともに確認させて頂きます」
「一ヵ月!?撮れるわけないでしょ!働いてんだから!」
 何言ってんだこいつ!話してる間に何度も割り込みたくなった。最後まで聞いた俺を褒めてくれ。
「一ヵ月撮れなくても、撮れる範囲で構いません。現場で確認するスタッフが、撮れた情報が有意なものか確認いたします」
「はあぁ…」
「また、知人関係・家族構成等、いくつかの質問事項を当日にスタッフとやりとりがあります」
 めんどくさ!!
「んで?それが終わったら?」
「はい。その後、スタッフが弊社に戻り、そこからお客様が有意義にお使い頂けるかどうか会議を開きます」
「はあ」
「そこで、何か足りないものがあれば、その都度お客様と話し合い確認していきます。再度何かの情報をご提供して頂くこともあります」
 待て待て、今は初回30分だけど、これって本来10分間の出来事なんだよな?まあ、金持ちは1時間とか買うのかもしれないけどさ。
「待ってくれ、もし地震とか、俺でも予測できないことが起きたら?地震が起きて外に逃げるかもしれないだろ?」
「はい。その点は大丈夫です。今回の場合でしたら、お客様は先ほどの二点を含め、こちらが確認したい情報を集めて頂くだけで大丈夫です。自然のことは私たちにお任せください」
 ・・・・・・。もう何も言えない。そこまで予測できるなら、普通に使わせろよ。
「えっと、因みに、買った人はどんなことに使ってんの?」
「ご使用例ですね。例えば、梅雨の時期、植物に晴れをご提供されるお客様が多いです」
「植物!?」
 なるほど、って少し感心した。そっか、人じゃなくてもいいのか。
「はい。また、ご旅行に行かれる際に、晴れと雨をご購入して、植物にご提供するお客様もいらっしゃいます」
「それはどうやって証明すんのさ」
「はい。まず、室内に置いて頂くのが大前提になります」
「動物は?猫とかは見るに入らないの?」
「入りません。対象は人間だけです」
「なんじゃそりゃ」
「それか、一番確実なのは弊社に預けて頂くことです。これは先ほど話しました二点の確認を省くことが出来ます」
「え!そうなの!?じゃあ俺も…」
「いえ、人間の場合は弊社を使用することは出来ません」
 また、ぴしゃりとさえぎられた。
「あのさ、人に見られちゃいけないって言うけど、誰かに話すことは言いの?」
「いいえ。天気をご購入したことは絶対に他言禁止です」
「それも証明しなきゃなんないの?」
「いいえ。そちらに関してはお客様にご負担は何もありません」
「なんで?サインとか?」
「いいえ。それは言えません。ですが、その点はお客様はお気になさらないで大丈夫です」
 めちゃくちゃ怪しいんだけど。
「他に気になる点はございますか?」
「結局は当日じゃないとわからないし、確率の問題は解決しないでしょ。絶対なんてないんだから」
「いいえ。絶対はあります。人工天気の予測機能はあくまでも予備でして、実は今まで使用した例はありません。全ては弊社によって100か0か判断いたします」
「えぇ……。根拠は?」
「申し訳ありませんが、それはお客様が実際に体験されてみないと…」
 ようは買えってか。それも何度も。
「わざと人目につくよう、外出する人もいるんじゃ?」
「はい。その為にも当日スタッフがいくつか質問させて頂きます」
「は?それだけでわかんの?」
「いいえ。他にも情報は必要です。今、この電話での会話も情報の一つとさせて頂いております」
「え!」
 もう審査が始まってんの!?やば!
「もちろん、プライバシーは守ります」
 や、もうそんなことはどうでもよくて…。
「あのさ、そのルールってあとどれくらいあるわけ?」
「はい。お客様にお伝え出来る範囲のルールでしたら、あと78種類ございます」
「78!!!!!!?どうやってクリアしてくのさ!」
「それはケースバイケースになります。お客様がいつどこでどのようにご使用頂くかで変わってきます」
「まじかよ…」
 買わせる気あるのか?どんどんイライラが増してきた。
「驚かれるのも当然です。しかし、天気を使用したことで第三者とトラブルになる場合もございます。弊社のモットーは、お客様に時間いっぱい有意義にご使用して頂きたいということです
「はぁ」
 またその言葉かよ。
「いえいえ、恐縮です。――お客様、話がだいぶそれてしまい申し訳ございません。お客様は今月の28日の12時に「晴れ」をお求めですね。しかし、大変申し訳ございませんが、早くても二ヶ月ほどお時間がかかり…」
いりません!!!!!!!!!!!!!!!
 俺は思い切りスマホの通話終了ボタンを押した。めちゃくちゃ痛かった。

 ――ん?なんで指がこんなに痛いんだ?あれ?時計を見ると時間が経っていた。――何してた?スマホなんか持って。
 

 ふとトップ画面に映る天気予報が目にとまった。
「明日も曇りかー。やだな」




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