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真っ白なささやき 【ユーモア】

「頑固な汚れ」。きっとこの言葉は昔コピーライターが考えついたものだろう。今では日本中の人たちが、洗濯しても落ちない類の汚れはこう呼べばいいことを知っている。

その言葉の登場以降、私たちの敵は明確になった。そう、敵の名は「頑固な汚れ」。我々の祖母を、母を、そして私たちを悩まし続けてきた頑固な汚れを洗い落として、より快適で、より良い生活へと向かおう。さぁそこで二つのスペシャリスト集団が我々に解決策を提案してくれることになる;

洗剤業界と、洗濯機業界だ。

それぞれは日々しのぎを削り、開発を重ね、現時点で考えられうるベストなテクノロジーを(程よく定期的に更新しながら、)コマーシャルを通してお茶の間に紹介してくれる。我々は家で洗濯機を回している間、テレビの前のソファーに座ってそれを観ていればいいだけだ。

思うに、彼らは決してアップルのように、(※以下「」内は筆者作)「今だから言うが... スティーブがサンフランシスコでiPhone 3G の基調講演を行っている段階で、実は僕らのパロアルトの開発チームにはもう指紋認証システムを成功させたiPhone 5sがあったんだ。iPhone 3Gよりもっと大きく世界を変えてしまう、飛びっきりエキサイティングなものがね。僕たちはこの技術を世界中のユーザーに見せたくて見せたくてウズウズしていたよ。だって5sのリリースまで厳密にはまだ2モデルもiPhoneの進化を待たないといけなかった。」、なんてことを悪びれもせず言うようなマネはしない。きっと洗剤研究者も、洗濯機開発チームも、日本のどこかにあるとても清潔なラボで昼夜消費者のシャツを綺麗にするための研究、開発に没頭しているのだ。そして彼らはきっと、現時点でベストな技術の効果を正当に世に問い、その商品が普及することで得られる売り上げの一部を次回作「もっと汚れを綺麗に落とせる技術」の開発費に充てていてるのだろう。なぜなら前作と次回作の「間のヤツ」をせっせと買うほど、我々も呑気ではないからだ。

しかし筆者はその考察の中にある疑問が湧いてくることを抑えることができない:

もし仮に、「汚れが本当に綺麗に落ちる洗濯機」が登場すれば、洗剤は別にそこそこしか綺麗にならいものであっても構わないのではないか?あるいは「あらゆる汚れが落とせる洗剤」が誕生すれば、我々は10年前の洗濯機を使い続けても、洗濯物は文句なしの綺麗さになるのではないだろうか?そしてそんなものが登場してしまった暁には、両方使ったらもう洋服は、とんでもなく綺麗になってしまうのではないだろうか?

でもそれはまだ先の話だ。だからそんな世界がやって来るまでもう少しだけ、今ある洗濯機に、今売っている洗剤を、今日も入れようと思う。もう少しだけ、頑固な汚れと、戦おうと思う。真っ白な未来がきっと少しずつ少しずつ、近づいて来ていることを信じて。

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