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運動会必勝法

スポーツの秋である。

先日、僕は地域の運動会に参加した。大会は地区別に4チームにわかれて行われる。かなり激しい勝負になるのが伝統だ。不真面目な態度でへらへらしていると、味方であっても容赦ないヤジが飛んでくる。

僕は山に住んでいる。参加者もみな、あっちの山やこっちの山から、グラウンドのある山にやってくる。言ってみれば、運動会はそれぞれの山のプライドを賭けた戦いである。

その日、向こう1年間の山の覇者が決まるのだ。

イメージトレーニング

前日から、パン食い競争や借り物競走のイメージトレーニングを入念に行った。特に、借り物競走で指定されそうなもののリストアップには余念がなかった。

恐らく指定されるのはすべて「もの」であろう。誰それの奥さん、とか、〇〇な人、といったようなハラスメントになりそうな選出はしないはずである。

さらに、極端に重たいものや大きなものも除外されるだろう。借り物競走は、指定されたものを探して右往左往するのが面白さの醍醐味であって、力自慢の競技ではない。

何かアクシデントが起こったほうが盛り上がるのだが、残念ながら僕は圧勝してしまうだろう。自分が出場する種目に限っては、とにかく勝ちにこだわって挑みたい、これは真剣勝負なのだ。

大会、開幕

ところが当日、借り物競走は競技種目に含まれていないことが発覚した。僕はとてもがっかりした。それどころか、よりによって地区対抗リレーという花形競技の選手に抜擢されてしまったのである。責任は重大だ。

リレーは勝てば一気に高得点を得られる。そのため、各チームは精鋭の若手を選出する。高校生以上が対象なので、現役の野球部、サッカー部、バスケ部の選手たちと戦わなければならない。

しかし、選ばれた以上、ぶざまな結果を残すわけにはいかない。僕はしっかりと準備体操をし、颯爽とアンカー用のたすきを手に取った。

しかし「君はアンカーではないね」と年長のものにたすきを取り上げられ、真ん中あたりの順番を指定された。納得がいかない、といったような表情をして渋々従ったが、内心ホッとしていた。

一応、念のため「ハムストリングのコンディションがいまいちだな」などといったようなことを、チームメイトたちの前で言いながらストレッチをした。

決戦、地区対抗リレー

レースは各チーム抜きつ抜かれつの、手に汗握る拮抗した展開であった。僕たちのチームは2位で中盤戦を迎えた。ついに僕の出番である。テイクオーバーゾーンをめいっぱい使いバトンを受け取った。

日頃の運動不足が露呈し、コーナーでバタンと転んでいる怠惰な現代人たちを尻目に僕は疾走した。そのあまりの速さは気圧に変化を起こし、局地的な瞬間最大風速を数メートル更新したという。しかし、1位の背中はまだ遠かった。

結果、僕たちは優勝した。僕の後ろに控えていた選手たちは異常なほど足が速く、アンカーにバトンが渡った時はほぼ独走状態であった。アンカーをつとめたものを胴上げしながら僕は、来年のために練習をしよう、と心に誓った。

パン食い競争は未就学児童が対象の競技であった。

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