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ライダーベルトはクルクル回る、タイヤも回るし地球も回る

 思春期の頃、実力試験前にTV放送版〜旧劇エヴァを観て1週間メンタルをやられた結果、テストもズタボロになった時から、庵野監督の作品は積極的に前のめりで観に行く人間になってしまった。そして今回も例に漏れず劇場へ足を運んだ。大きな愛を受け止めるべく、シン・仮面ライダーを観るために。

 庵野秀明展では「こんなにウルトラマンと仮面ライダー大好きだったんですか……」と絶句するくらい、数々の二次創作作品や持ち物を見つめてきた。シン・ウルトラマン公開後に大盛り上がりしたエヴァンゲリオン学会の考察を読み、「エヴァってつまり庵野監督のウルトラマンだったのか……?」と口をあんぐりと開けていた。これらは勿論、ヲタクの愛にまみれた考察という名の妄想であり、本編とはなんら関係ないことを申し上げておく。

 シン・ゴジラでは冒頭から大量に流し込まれる極太明朝体テロップの数々に興奮し、シン・エヴァンゲリオンではついに様々な事柄において精神が成熟してしまったシンジくんを追いかけて見送り、シン・ウルトラマンは最初はピンとこなかったものの、明確に「誰」に感情移入をすればよいか理解した上で臨んだ2回目鑑賞時には目も当てられないような泣き顔で映画館の席を立つことになった。
 今回のシン・仮面ライダーを見て私はどうなってしまったか。

 鑑賞している時、折に触れて庵野監督の満面の笑みが見えてしまった・・・・・・。

 以下、シン・仮面ライダーのネタバレを十二分に含みます。鑑賞を迷っている方はとにかくまっさらなはじめてを迎えることなんて一度しか無いんだから、とりあえず観に行ってみましょう。感想ブログ読んでる場合じゃないですよ、多分。







 仮面ライダーシリーズは555(ファイズ)しか視聴できていない。弟が日アサ適齢期だった際に、アバレンジャーと一緒に見ていた記憶がある。

アバレンジャー第1話にて登場人物が固有武器を獲得する「アバレスティックが暴れている!」のくだりが面白すぎて、今でも口頭で説明するとゲラゲラして過呼吸を起こしかけることはここでは無関係なので割愛する


 当時から戦隊シリーズと仮面ライダーにはそれぞれ真逆のイメージを持っていた。戦隊シリーズは鮮やかな5色のスーツを纏い、仲間達と喜怒哀楽をともにして絆を深めつつ敵と対峙して退治していくのだが、対して仮面ライダーは孤独だ。バイクには1人しか乗ることはできない。普通の人間は彼について行くことができない。そして死の匂いが濃厚だった。同じ時間帯に、それも子ども達(と大きなお友達)のために用意された1つの枠で放送されているのに、全く真逆のヒーロー像が描かれていた。

 シン・仮面ライダーも孤独だった。孤独であることを良しとして自らそれを選び、結局選ばなかった登場人物もいたが、主人公である本郷は自分では一言も言わなかったけれど、孤独を抱えて孤独を体現する人間だった。協力者と相棒であるサイクロン号もそばに寄り添ってくれたが、片方は手を伸ばした先に失い、もう片方は自らの手で切り札として失った。
 その彼に最後まで視線を合わせてくれた存在が、孤独を良しとする一文字で良かった。一瞬の出来事だったが、お礼を言い、呼び捨てにすることを教えられてそれを実行するやりとりがどれだけ彼にとって得がたいもので、人生において光輝く痕跡になったか。あれが無かったら、泡になって溶けて消えてしまう彼の人生には、本当になにも残らなかったかもしれない。協力関係であり監視される関係である政府筋の記録にひっそりと名前が残るくらいだったかもしれない。

 本郷は失う。父を失い職を失い、普通の人間としての身体を失い、殺人を犯していないという処女性も失い、相棒と愛車と自分自身の身体も失う。でも失うだけの人生ではなかった。彼は選ばれたことで人間性を失わず、仮面ライダーとして走ることができ、なんと最高性能のバイクと人工子宮出身の生体電算機、元人間であり自分に最も近い存在の相棒を3人(?)も得ることができたのだ!
 そして「信頼していない」と突っぱねられた状況から、「プランは信頼する」「あなたを信頼する」「あの子が信頼したお前を信頼する」と、彼が走った分だけ着実に積み重ねてきた信頼も得ることができた。彼は充分にヒーロー・仮面ライダーとしての人生を駆け抜けたのだ。

 本郷が悩む度に私の脳裏には庵野監督がチラつく。スタジオジブリの鈴木プロデューサーがインタビューで口にしていた、「シンジくんは庵野監督そのものでしょ」(※うろ覚えです)という言葉が脳裏をよぎる。庵野監督が丹精込めて描いた、悩める青年がそこにいたからだ。

 しかし本郷は走り続ける。止まることを選ばないからこそ、これだけのものを獲得することができた。そして鑑賞者の心も。
 変身シーンもバイクの変形もライダーキックも、そしてなにより2人の共闘で暗闇にビカリ! と光る眼がカッコ良かったなあ。あのシーンを見るだけでも映画を観に行く価値がある。

 そしてこれらの決めシーンを目にして興奮する度にチラつくのだ、庵野監督の満面の笑みが・・・・・・。

 主人公以外にも魅力的な登場人物は数多く存在する。過去作品とゆかりのあるキャストは勿論、主人公と対峙する政府の男の相棒でもある、ものすごく良いキャラ造形の彼、その針の先のように一瞬で強烈な印象を打ち込んで去って行ったサソリオーグとその手下。
 そしてなんと言ってもハチオーグだ。今作で一番好きなキャラクターは何を隠そうこのハチオーグなのだが、近頃百合の関係性に目覚めしオタクとして、彼女の言動には目を見張ってしまった。そして入場者特典でもハチオーグのカードを引き当てることができたのだが、そこにしか書かれていない彼女のプロフィールを見てまた目が飛び出てしまった。幻想じゃないかもしれない、もしかして本当にそうなのかもしれない・・・・・・恐らく彼女からの矢印の方が強いタイプの・・・・・・。
 よかったね、貴方は泣いて欲しいと願っていたけど、貴方が溶けて消えた後にあの子、泣いてたよ。

 話を戻そう。ツインテールでほのかにマウントを取ってくる、刀を美しく構えるハチオーグに別作品のある女の子を幻視した人はたくさんいるだろう。つまり、彼女を見る時、また監督の顔がチラつくのだ・・・・・・。

 独特のカメラワークで彼らの物語が切り取られる度、美しく交わる線路が映し出される度、地上波での放送を完全に度外視した血飛沫があがる度に、あの眼鏡をかけたもじゃもじゃのご尊顔は姿を現す。
 庵野監督がこの現実に息づく強烈なクリエイターとして我々の心に刻まれている以上、ある意味スターシステム的なキャラクターとして受け入れるしかないのかもしれない。
 
 シン仮面ライダーを見終わると、本郷と一文字は道路の向こうに去って行った。頭の中に浮かぶ庵野監督の満面の笑みは、家に帰ってこの文を書いているとさらに輪郭が濃くなってきた。きっと今夜眠りにつく時も、明日目を覚まして町中でシン・仮面ライダーの広告を目にする時も、レッツゴー!! ライダーキックの音楽とともに、どんどん強く輝く笑顔を主張してくるようになっていくのだろう。
 私はそれを甘んじて受け入れよう。本当にその作品を愛してやまない人が全身全霊で取り組んだ作品を見せていただけたことに、心からの感謝と敬意を。

 恐らく、近年発表された庵野監督のコメントの中で
一番長文だったと思う。シン・仮面ライダーのパンフレットに寄せられた監督コメント。こんな面白い作品と経験をありがとう。本作の制作後は少し休まれるとのことですが、色々な大人の事情が許すなら、休み明けにシン・ウルトラセブンの制作が決定することを願っています。


 最後に「シン」にまつわるしょうもないダジャレを一つ。肉体は溶けても魂は仮面に定着しているということだが、あれはチョウオーグのプログラムを流用してできた芸当なのだろうか。あれが今作をぎりぎりではあるがハッピーエンドたらしめているのかもしれない。そうじゃないとあんな爽やかな曲をエンディングに流せる訳がない。
 つまり、本作のラストではある意味「魂の物質化」に成功していると言えるだろう。シン・仮面ライダーの世界、もしかして今回の出来事を通じてシンギュラリティを迎えてしまっていませんか? 

終!! 




 

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