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『ぼくたちの哲学教室』世界で注目の「哲学」が学べる小学校

今回はkayserが担当します。
北アイルランドのある男子小学校では、「哲学」を授業に取り入れ、子どもたちを暴力から守ろうとしている校長先生がいます。

彼の名は、ケヴィン・マカリーヴィー。生徒たちだけでなく、その親も麻薬の売人も彼のオフィスを訪ねたことがあるくらい、その地域社会に多大なる影響を与えている人物です。

そんなケヴィン校長がどんな風に日常の授業を行っているかを追ったドキュメンタリー映画が『ぼくたちの哲学教室』。今世界的にも注目を集めている作品です。今回は、『ぼくたちの哲学教室』の魅力を紹介します。

まずは作品紹介から

『ぼくたちの哲学教室』は、アイルランドでドキュメンタリー作家として活躍するナーサ・ニ・キアナンと25年以上にわたり編集者として活躍してきたデクラン・マッグラの2人による共同監督作品です。

本作に登場するホーリークロス男子小学校のあるベルファストの近くで育ったデクランは、宗教間の分裂と抗争が続くこの地域で、その不安定な情勢を目の当たりにしてきました。98年にベルファスト合意が締結された後も平和が維持される一方で、一部ではいまだに武装化した組織が存在しています。

そんな地域では、10代の若い男性の自殺が後を絶ちません。心理学者からは、紛争を経験したことによるトラウマからきているのではないかと言われています。それは、世代を超え受け継がれている可能性も否定できないと。

そんな環境の中にあるホーリークロス男子小学校では、ケヴィン・マカリーヴィー校長「哲学」の授業を行っています。4歳~11歳が通うこの学校がある地域は、発展が遅れている場所でもあります。犯罪や薬物乱用が街を蝕んでいるのが現状です。

学校を囲む高い壁には鉄条網が張り巡らされ、壁には政治的な落書きが多数みられます。本作の冒頭にも、学校の校門に爆弾が仕掛けられ、生徒たちが避難する様子が登場していました。

「やられたら、やりかえす」

生徒たちは、そう教えられて育ちます。果たして、本当にそれでいいのか。

ケヴィン校長は、幼い生徒たちに自分自身の考え方と向き合い、他者の考えも受け入れることを目指すため「哲学」の授業を行っているのです。ともすれば、それは「自分の命を守る」ことに他なりません。

本作の監督、ナーサデクランもこのケヴィン校長の取り組みを映画化することで、教育がいかに大切か、紛争の苦しい記憶を若い世代が自分の力で断ち切っていく姿を伝えています。

未来は自分自身で作っていける。そんな子どもたちの姿を描いた作品です。

ケヴィン・マカリーヴィー校長とは

エルヴィス・プレスリーが大好きなケヴィン校長の部屋には、エルヴィスグッズが数多く飾られています。愛用のマグカップももちろんエルヴィス・プレスリー。授業の前、生徒たちと笑顔でハイタッチするその姿は、日本の学校での校長先生とはまた違った印象です。

そんな気さくなケヴィン校長自らが担当するのが「哲学」の授業。毎回、あるテーマを用い、生徒たちが自分たちの考えを発表していきます。

それぞれの発言した言葉を代表の生徒がホワイトボードにまとめていき、授業の最後にどんな意見が出たかおさらいするというもの。

ケヴィン校長自身もこの地域で育ったひとり。若い頃は、自身の拳で親しい人たちを守ってきました。それが生きる手段であったからです。

しかしながら、今は恥と自責の念を感じているといいます。そのこともあり、生徒たちに哲学を教えたいという情熱を持ち続けることに。

彼らに感情をコントロールができるよう促しています。どんな状況にあっても、抵抗する力を身につけてほしいと願っているからです。

もし疑問があれば、相手が親やほかの大人であっても質問をぶつけ、自分なりの答えを導き出す。それができれば、自分の未来をも切り開いていけるのです。

学校内でトラブルがあれば、校長室外にある「思索の壁」で生徒たちととことん話し合う、それがケヴィン校長です。

感情のコントロールについて

本作『ぼくたちの哲学教室』の存在を知ったのは、あるニュースで紹介されていたからでした。「哲学」を用いて授業を行う学校があるというところに、非常に興味を持ちました。

日本の漫画でも『ここは今から倫理です。』という作品で、高校生に倫理を教える先生が主人公の作品があります。NHKの「よるドラ」枠でもドラマ化された作品です。

さまざまな問題を抱える生徒たちに、哲学者たちの言葉や思想を教えながら、解決への道をサポートしていくという物語。

哲学の授業と聞いて、ふと『ここは今から倫理です。』を思い出しました。とはいえ、これは高校生が相手のこと。小学生相手には少し難しいのではと単純に疑問を持ちました。

作品の鑑賞後感じたのは小学生とか高校生、大人という年齢的な部分は、本作においてはあまり関係のないことだということ。教育的なアプローチとしては、年齢ごとにやり方があるのかもしれませんが、普遍的なテーマにおいては、関係ないのだと思いました。

特に気になったのが「感情のコントロール」について。これこそ、まさに子どもだけでなく、大人にだって充分に当てはまる大事なことです。

映画の中では、怒りの感情をコントロールする話が出てきます。その怒りのトリガーが何なのか。ストレスを感じた時、人はどうするべきか。答えは、ぜひ本編で!

kayser

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