宗教団体が建てたでかい建物を紹介する本は当然面白い


五十嵐太郎『新編 新宗教と巨大建築 』(ちくま学芸文庫)がとてもおもしろかった。「新宗教」も「巨大建築」もおもしろい題材なのだから、その二つを掛け合わせると、そりゃあおもしろいだろうさ。

天理教やPL教団、大本教など国内の新宗教を中心に、教義や教団の沿革など参照しながら、彼らの建築や都市計画を、読み解いた一冊。たんに建築物を評論するだけでなく、それぞれの教団と社会の関わりについて紐どき、それが建築物にどのように現れているのかをしめす内容になっている。

いちばんページ数を割かれているのは天理教。その都市計画は圧巻で、天理市にある「甘露台」という聖地を中心に、約870m四方に68棟を建て巡らすという広大な「おやさとやかた構想」を1954年から進めているそうだ。2014年の時点で26棟ができているそうで、日本では宗教建築以外では考えられないプロジェクトではないだろうか。そりゃあ、天理市の名前の由来にもなるわな……。「甘露台」のなかにある「ぢば」が天理教の信仰の中心であり、ムスリムがメッカの方向を拝むように、天理教徒は「ぢば」を向いて拝むそうだ。当然、この教義がベースになって「おやさとやかた構想」が計画されている。五十嵐は、彼らの信仰が実際の建築物や都市計画にどのように反映されているかを、具体的に例示しながら丁寧に腑分けしていく。

弾圧された大本教も面白い。建築物はすべて燃やされて、いまは残っていないものの、紹介されているデザインはどれもアッパーでやばい。出口王仁三郎のエピソードもいちいちテンションが高く、怪人ぶりが伝わってくる。このテンションなら、そりゃあアッパーな建物を建てるよなあと、妙な納得感がある。

東京オリンピックの競技場を設計した丹下健三は、実は同時期に創価学会の大石寺本堂も手がけている。両者を比較しつつ、コンセプトやデザインの類似性を指摘しながら、なぜ建築物としての評価が違うのか解説してくくだりは、スリリングだった。オウムの施設に言及した章もよかったな。

比較の対象として、明治以降に建設された寺社や植民地に建てられた神社、モルモン教の教会などが紹介されているのもよい。さまざまな新宗教の概観がざっくりと記されていて、新宗教のガイドとしても読める。難を言えば、もう少し図版がほしかったなあ。ネットで検索して、実物の画像を見ながら読むのがおすすめ。

本書は宗教が軸だが、同時に「巨大建造物を建てる」とはどういうことなのか、その権威性や象徴性について考えさせられる内容でもある。東京オリンピックに向けて、巨大建造物の建設ラッシュはまだまだ続いている。本書を読みながら、建設現場の前を通ると、また違った感慨が生まれるかもしれない。


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