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一夜漬け(レム睡眠とノンレム睡眠のあいだに)

試験勉強の取りかかりはなかなか踏ん切りがつかない。ふだんから勉強が習慣化していないと、その一歩は恐ろしく重い。

高校時代の私にとって、机とは勉強するところでなく、教科書をおいておく台だった。そんな私の試験前夜はつぎのようなものだった。

21:00から勉強しようと夕食の前から決めていた。世にいう一夜漬けだ。

20:54に観ていたテレビが終わると、よろよろと机の前についた。机の上を片づけたところで、ふと部屋に散らかっている洋服が気になった。きれいな部屋でなければ勉強に集中できない。

さっとすませて机にもどるはずが、気づけば掃除機まで引っぱり出していた。「何時だと思ってるの!」と母の怒声がひびく。私はきゅるると掃除機の尻尾しっぽをまるめた。

掃除機を仕舞って部屋に帰ってくると、今度は本棚に目がいった。漫画が巻数順にならんでいない。これでは集中できないと、本棚の整理に取りかかった。

懐かしくてページをめくっていると、いつのまにか『金田一少年の事件簿』に熱中していた。「この事件だけ……」と思って読みすすめるが、本を閉じたときには23:25になっていた。

2時間半もロスしてしまった! あわてて机の前に座る。23:30スタートに仕切りなおしだ。

あと5分あるので、音楽を1曲きこう。勉強する自分を鼓舞こぶするため、中島みゆきの『ファイト!』なんてぴったりだ。

陶酔して聴いていたら、終わったのは23:32だった。この曲は7分近くあるのを忘れていた。……しかたない。23:45から開始することにしよう。

気分が乗って『糸』とかほかの曲も聴いていると、気づけば0:00になっている。思わずあくびがもれた。これでは勉強に身が入らない。早起きしてすっきりした頭で取り組むことにした。

人間は90分サイクルでレム睡眠とノンレム睡眠のセットをくり返す。前者では眠りが深くなり、後者では眠りが浅くなる。ノンレム睡眠のときだとパッと目を覚ますことができるわけだ。
90分サイクルを2回で、3:00に起きることにしよう。

そう思って、アラームをセットしようとすると、時計の針は0:14を指していた。これでは2時間45分しか寝られない。
すぐに眠りにつけるともかぎらないので、余裕をもって3:30起きに変更した。ベッドに横になったとたん寝落ちした。

目が覚めたのは4:45だった。無意識のうちにアラームを切っており、3回目の90分サイクルに入っていたようだ。

眠気覚ましのコーヒーを飲みながら、勉強のプランを練りなおす。まず古典は捨てる。数学は公式だけ学校で覚えることにして、すぐに倫理の暗記に取りかかろう。やけっぱちだった。

つぎの日もこんな具合だった。夜、机にむかって勉強をはじめるが、まもなくパジャマの毛玉が気になりはじめる。毛玉取り器を持ち出して30分かけて刈りとった。
だが、そこで止まらず、布団の毛玉にまで手を出してしまう。さらに1時間を浪費した。

そんなこんなで一夜漬けはあきらめ、英語は早起きして教科書の和訳だけ覚えることになった。

そんな試験勉強をつづけていたら、赤点を連発するのも当然だった。

春休みに進級のかかった再テストを受けることになった。春休みなので時間はたっぷりある。さすがに、このときばかりはまじめに勉強した。
再テストの前日までには完璧かんぺきに仕上げたが、やはり落とし穴はその前日にあった。

その夜、明日の最終チェックをしようと机についたが、どうも眠たい。風呂に入って眠気を覚ましてから取り組むことにした。
風呂上がりコーヒーをごくごく飲むと、総仕上げに取りかかった。すべて順調に運んでいた。

歯車が狂ったのはそろそろ眠りにつこうとベッドに入ったときだった。コーヒーが効いて目がぱっちりさえていた。
とうぶん眠れそうにないのでラジオをつけた。ふだんは聴かない『aikoのオールナイトニッポン』に耳を傾けた。

眠くなったら切り上げるつもりが、結局、最後まで聴いてしまった。明日は7:30起きなので、4時間半しか寝られそうになかった。コンディションに不安を感じながら眠りについた。

目が覚めたのは12:00すぎだった。母の「ごはんできたわよ」という声で起こされた。
「なんで起こしてくれんかったん?」と責めてもあとの祭り。そもそも赤点も再テストのことも母に隠していたのだから。

先生には「再テストに来ないなんて前代未聞だ!」と怒られた。なんとか仮進級させてもらって、4月に再々テストを受けた。放課後だったので寝すごすことなく無事合格できた。
学生のみなさん、勉強は計画的に。

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