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読書(2023/10/26):『鍋に弾丸を受けながら』(1)感想

0.説明

漫画原作者・青木潤太朗
「世界の危険地帯にはなぜかうまいもんがある。落差も激しく20点か5万点くらい。その5万点くらいのものを取材しませんか」
というコンセプトで企画した世界旅行グルメ漫画です。
鍋とか弾丸とかの単語から、イェニチェリ(イスラムスルタン奴隷親衛隊)のことを一瞬連想しますが、そうではないようです。救世軍の社会鍋はさらに関係ないですね。

なお、青木先生は二次元過剰摂取に伴う認識ロックのおかげで誰もが二次元美女にしか見えなくなっているため、作中の登場人物は外形的には全員二次元美女である。というものすごい描写が成されています。剛腕…!

世界旅行とグルメもさることながら、いろいろなトピックがあり、そういう意味でもたいへん楽しい漫画です。

1.世界旅行で価値観の異なる敵対的でない人々と語らうのは貴重な体験である

世界旅行をする動機はたいてい
「世界のオブジェクトには見たこともないものがたくさんあるなあ」
「世界のフードには食ったこともないものがたくさんあるなあ」
「世界のヒューマンには会ったこともない人がたくさんいるなあ」

だいたいこの辺になってくると思われますが、この漫画を読んでいても
「世界旅行で価値観の異なる人々と語らうのは貴重な体験なんだなあ」
というのがひしひしと伝わってきます。

第一話では『マフィアの拷問焼き』という料理が出てきます。
メキシコでは昔マフィアが、敵の処刑の際に自ら燃え盛る火に身をくべさせる、というのがあったとのことです。
なんか、金持ちでちゃんとした服を着ているやつは、簡単には燃えないので苦しむ時間が長いんだそうです。
「金持ちほど長く苦しませること出来て 楽しい」
ガイドさんがそういうが、まあウケルというのはわかんなくはないが、そのう、そういう話を屈託なくされると、だいぶ迫力があるな…という話でした。
(ちなみに肉を綿布に包んで放り込んで焼くと肉が全部レアになる、これが『マフィアの拷問焼き』という料理だそうで、そりゃあ美味いだろうな)
(金持ちでちゃんとした服を着ているやつの死体の肉の焼き加減については考えなかったこととします)

あと、ブラジルのビジネスマンがアマゾンに別荘を持っていて、釣り人である青木先生はお世話になるのですが、そこで出て来る話が
「ここは何も心配ない 人間がいないからね! あなたと私だけ!」
ということです。
軍事政権の影、マフィア、ファビュラ(スラム)に比べれば、クロコダイルやマラリアの方がまだはるかにマシということなのだそうです。
そりゃ、ナイフや銃が不意に出てきて刺されたり撃たれたりして死ぬの、危険でしょうね。

やはり、世の中、広いし、地域が変われば前提条件がまるで違ってくるよなあ。と思いますよ。

あと、会うなら、価値観は違っていても、敵対的でない人々がいいですね。敵対的だと、何かあったら、ナイフや銃や火だるま待ったなしだもんな。(当然こっちは敵意のトリガーを引かないようにはしなければならない)

2.ご当地でないと実質的に不可能な味というものが多々ある

アマゾンでは、本当に完熟した結果日本人が食べるパイナップルとは全然別物になっているパイナップルとか、
カカオに似ていて、ヨーグルトジェラートとグレープフルーツの味と水切りモッツァレラの食感があるクプアスとか、
ジュースにするとヤクルト味のカシュー(先端の勾玉状態の種子の仁が、我々のよく知るカシューナッツですね)とか、
パイン風味チーズケーキ味のジャッカー(パラミツと呼んだ方が分かる人もいるかもしれん)とか、
ご当地でないと実質的に不可能な味の果物が多々あるそうです。
例えばパイナップルだと、輸入品は当然木から切り離すので、その時点で熟成は止まってしまうのですね。
だから、実際に現地に行って食べるしかない。いうことになります。

3.「良くない素材で作ることで化けた超良い加工品」は「良い素材で作った良い加工品」より優れていることが多々ある

また、アマゾンの果物として出て来るのが、なんとパサパサのオレンジです。
もちろんパサパサなのでたいしてうまくないのですが、これには別の利用法があるのでした。
膨大な量のオレンジを用意して、オレンジジュースにするのです。
これが、甘さと酸味のバランスが完璧で後味が爽やかな、全身のビタミン受容体を駆動せんばかりにうまい、最高のオレンジジュースになるのでした。
「良くない素材で作ることで化けた超良い加工品」は「良い素材で作った良い加工品」より優れていることが多々ある。ということですね。
(料理でも時々これがあるので、気を付けないといけないのです。私も自分で作る時は安全牌の食材の中で組み合わせをやっちまうが、それは臆病な姿勢なのであろう)

4.言葉の壁があると懇切丁寧な説明は全部壁に化ける。よって要点を搔い摘むことと言葉を知ることは本当に大事

ブラジルのビジネスマンの親友で共同出資者である釣り名人が、ポルトガル語でいろいろ説明してくれます。
しかし青木先生はポルトガル語が分からないため、その懇切丁寧な説明は全部壁に化けてしまうのでした。
ビジネスマンはその辺分かっているので、翻訳というか、要点だけ端的にまとめて青木先生に伝えてくれます。

私もここ数年数学の独学をしていて、その成果物をワンオフの個人誌にして知人のお子さんや知人のお孫さんにあげていたのですが、
「果たして俺のあげた本、理解不能なものではなかったか」
という反省は常にあります。ちゃんと役に立っていればよいのだが…

あと、こういうことがあるので、あらかじめ言葉を知っておくことは本当に大事ですね。

((2)へ続く)


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