〈CLASSICALお茶の間ヴューイング〉佐渡裕インタヴュー【2020.4 145】
■この記事は…
2020年4月20日発刊のintoxicate 145〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、佐渡裕のインタビューです。
intoxicate 145
未来への希望に満ちた、スーパーキッズ・オーケストラ
17 年間の想いを込めた初のアルバムをリリース
interview&text:原典子
指揮者、佐渡裕が“もっとも愛情を注いでいるオーケストラ” と語るスーパーキッズ・オーケストラ(以下、SKO)が、結成17 年を経て初となるアルバムをリリースする。兵庫県立芸術文化センターのソフト先行事業として2003 年から活動をスタートしたSKO は、小学生から高校生までのトップクラスの弦楽器プレイヤーからなるオーケストラ。音楽監督の佐渡とともに、かけがえのない時間を重ねてきた。
「ここにきてSKO が成熟してきたな、メンバーたちがSKO を誇りに思えるようになったなと感じたので、今の時点での音を残すことにしました。もともと兵庫県立芸術文化センターは、1995年の阪神・淡路大震災からの復興のシンボルとして2005 年に開館したわけですが、次の世代とつながっている劇場であることを知ってもらうために、開館に先がけてSKOを結成したのでした。最初は子どもたちに“最高の思い出に残る夏休みを作ってあげよう” という思いで企画したのですが、はじめてみると僕自身がすごく面白くなっていって。というのも、オーディションに受かって全国から集まってくるメンバーたちは、生まれ育った場所も、年齢も、習った先生も違う。はじめはみんなバラバラで、大きな壁が立ちはだかっています。だからこそ、お互いに耳を傾け、しっかり自分の意見を言わなければならない。そうやってひとつの音楽を作り上げていく彼らの姿を見ていると、つくづくオーケストラってそういうものだなと。音楽の根源的なものに触れられるような気がするんですよね」
コンサートのいちばん最初に演奏するSKO のエンブレムのような曲だというホルストの《セント・ポール組曲》をはじめ、モリコーネの《ニュー・シネマ・パラダイス》、グリーグの組曲《ホルベアの時代より》など、収録曲は十八番ばかり。一曲一曲に子どもたちの思い出が詰まっている。
「17年の間にSKOもどんどん変化していきました。なかでも大きな出来事だったのが、2011年の東日本大震災後に東北を訪問したことでしょう。たくさんの人が亡くなって、“ 僕らになにができるんだろう? ” と無力感に苛まれていたとき、釜石市の旅館の女将さんから“ ぜひ来て演奏してほしい” と手紙をもらったんです。行けたのは震災から5ヶ月後の8月でしたが、まだまだ沿岸部は酷い状況で、メンバーたちにとっては衝撃的な光景だったと思います。津波で犠牲になった方々のために海に向かって献奏し、避難所だったお寺や体育館でも演奏しました。女将さんをはじめ地元の方々は本当にあたたかく迎えてくださって、SKOの演奏を聴いて涙を流したり、手が痛くなるほど拍手をしてくださいました。“ 震災後、はじめて歌を歌いました” という方もいらして、“ ああ、音楽ってこういうときのためにあるんだ” と思いましたね。それはメンバーたちも同じだったのでしょう。あの2011年の東北訪問から急激に音楽のレベルが上がりました」
バッハの《シャコンヌ》はいちばん新しいレパートリーだが、そこには20歳で世を去ったメンバーへの思いが込められているという。
「コンサートマスターをしていた菜々子ちゃんというメンバーで、SKOが大好きな子でした。彼女が亡くなってから、《シャコンヌ》をオーケストラ版に編曲して演奏しようと思い立ちましたが、ものすごく難しい曲なので練りに練って、最初にコンサートで取り上げてから2年かけて録音までこぎつけました。苦しい音からはじまり、さまざまに変化していくこの曲には、祈り、苦しみ、喜び、悲しみ、人生のすべてが入っています。音楽を愛し、闘病中も1度も泣き言を言わなかった菜々子ちゃんを思いながら演奏しました」
SKO以外にも『佐渡裕ヤング・ピープルズ・コンサート』『サントリー1万人の第九』『題名のない音楽会』など、若者のためのプロジェクトや音楽普及活動に数多く携わってきた佐渡は、「教師の一家に生まれたからか、自分で選んだ道じゃないけど、自然とそういう流れになっていった」と笑いながら語る。教える者と学ぶ者、その両者から生まれる輝きが、このアルバムには未来への希望となって満ちあふれている。
■佐渡裕 (Yutaka Sado)プロフィール
京都市立芸術大学卒業後、バーンスタイン、小澤征爾に師事。2015年9月より名門トーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任し、欧州の拠点をウィーンに置いて活動。毎年一流オーケストラへ多数客演を重ねている。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者を務める。
『TEENAGERS 佐渡裕&スーパーキッズ・オーケストラの奇跡』
佐渡裕、加藤完二(指揮)
スーパーキッズ・オーケストラ
[avex-CLASSICS AVCL-84107]
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