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〈CLASSICALロングレビュー〉ニコラウス・アーノンクール【2020.2 144】

■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間レヴュー CLASSICAL〉掲載記事。指揮者ニコラウス・アーノンクールの生誕90年記念し2019年12月4日に発売された、彼の遺作となる2枚のディスクをレビューした記事です。


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intoxicate 144


「アーノンクール生誕90年記念〜つねに音楽の本質とは何かを探求し続けたアーノンクールの遺作 」(鈴木淳史)

ニコラウスアーノンクールj

【CLASSICAL】
J.S. バッハ: カンタータ第26番、第36番& 第140番

ニコラウス・アーノンクール(指揮)
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
ユリア・クライター(S)エリーザベト・フォン・マグヌス(MS)カート・ストレイト(T)アントン・シャリンガー(B)
アルノルト・シェーンベルク合唱団
[Sony Classical SICC-30516]Blu-spec CD2 〈高音質〉

ニコラウスアーノンクールj2

【CLASSICAL】
ベートーヴェン: オラトリオ「オリーヴ山上のキリスト」

ニコラウス・アーノンクール(指揮)
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
ラウラ・アイキン(S)ヘルベルト・リッペルト(T) フローリアン・ベッシュ(Br)アルノルト・シェーンベルク合唱団
[Sony Classical SICC-30517]Blu-spec CD2 〈高音質〉

指揮者アーノンクールが亡くなって3年経った。生きていたら90歳。それを記念した2枚のディスクがリリースされる。これらは、CD61枚組の輸入盤BOX『ザ・コンプリート・ソニー・レコーディングズ』に初出音源として入っていたもの。ようやく国内盤のみ、単発で発売となったのだ。両者とも2007年の録音。


 一枚目はバッハのカンタータ集(第26番/第36番/第104番)。アーノンクールには、レオンハルトと共同で作り上げた世界初のカンタータ全集録音(1971〜1989)がある。かつての録音と比べると、表現がぐんと濃くなり、旋律やリズムが波打つような抑揚を帯び、じつにエモーショナルだ。長らく歩みを共にしてきたウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの腕前も段違いに向上、響きを綿密に絡ませ合うアンサンブルは官能的ですらある。


 言葉がそのまま音楽に、音楽も言葉のように雄弁に。この指揮者が長年に渡って追求してきた、声楽と器楽による一体化が、まばゆいばかりに現実となった演奏でもある。


 もう一枚は、ベートーヴェンのオラトリオ《オリーヴ山上のキリスト》。オラトリオと銘打ちつつ、オペラのようなドラマティックな歌唱が要求され、この作曲家ならでは、暑苦しいほどの真面目一本槍なところも。中途半端にお行儀のいい演奏では、いささか凡庸な作品にも聴こえてしまいがちだ。


 こういう曲こそ、アーノンクールの出番。真面目さを通り越し、狂気さえはらむ解釈が生き生きと輝く。強烈に叩きつけられる金管、地獄が語られるときのトーン・クラスターを思わせる衝撃など、雄弁な表現の連続だ。それでいて、声部の処理など手際がよく、作曲家のオーケストレーションの見事さも浮き彫りに。楽聖唯一のオラトリオなのにあまり演奏されないこの大作は、みるみるうちに生気を帯び、ギラギラと力強いコーダを築くのだった。こりゃ傑作だ。


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