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〈CLASSICALお茶の間ヴューイング〉クロノス・クァルテット(KRONOS QUARTET)プレヴュー

■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間ヴューイング〉に掲載されたクロノス・クァルテット(KRONOS QUARTET)プレヴュー記事です。

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intoxicate 146


クロノスa

AT Tlive© Mary Cybulski.

ライヒやライリーが最も信頼を寄せる
インディー・クラシックの先駆者が17年振りの来日!

text:小室敬幸

※こちらの来日公演は中止となりました
https://wmg.jp/feature/kronos-quartet/

 正直なところ、もはや日本には来てくれないものだと思っていた。1986年に発売されたアルバムに収録されたジミ・ヘンドリックス〈パープルヘイズ〉で一斉を風靡し、1989年にはライヒの《ディファレント・トレインズ》を録音したアルバムがグラミー賞を受賞。本来はクラシック音楽のなかでも保守的なイメージが強いはずの弦楽四重奏という編成が、前衛芸術も停滞し始めた1980年代以降に古臭いものにならずに済んだのは、少しも大袈裟ではなく、彼らクロノス・クァルテットの存在なしには考えられない。昨年も、故ルー・リードの妻として知られる前衛芸術家ローリー・アンダーソンと共演したアルバムがグラミー賞を獲っており、結成から現在に至る47年間、常に現役のフロントランナーとして走り続ける驚異のグループなのだ。


 インディー・クラシックなるジャンルが話題になったのは、せいぜいこの10年ほどだが、クロノスはそれ以前の30年間以上、いわゆるクラシック音楽の王道たる古典派・ロマン派の作品には手を出さず、現代音楽のメインストリームばかりを演奏するわけでもなく、第1ヴァイオリンのデヴィッド・ハリントン独自の優れた審美眼により、真の意味でジャンルにとらわれず(それは彼らが現在進めるプロジェクト「未来のための50曲」で選んだ50人の音楽家を見れば明らかだろう)、様々な音楽を演奏し続けてきた。17年ぶりの来日で披露される6公演でも当然、その姿勢は徹底されている。


 5つのセットリストが組まれ、Program 1 ~ 3では、クロノスのために書かれたライヒ作品(傑作中の傑作《ディファレント・トレインズ》を含む!)に、グラスやライリーといったミニマル勢。そしてクロノス結成のきっかけを作ったジョージ・クラムの《ブラック・エンジェルズ》と、アメリカの巨匠作曲家の名曲を軸にしつつ、クロノスがこれまで弾いてきた1000曲以上の楽曲から組み合わされている。そのヴァラエティの豊富さは半端ではなく、エヴァリー・ブラザース、ジャニス・ジョプリン、ジョン・コルトレーン、マヘリア・ジャクソン絡みの楽曲に、エジプトのクラブミュージック、カナダのインディー・ロック、南インドの民族音楽、コンゴの爆音トランス、イヌイットの喉歌……といったバックグラウンドをもつ音楽家の楽曲が取り上げられる。


 Program4では更に変わった趣向がとられており、サム・グリーンが監督した2018年のクロノスのドキュメンタリー(日本語字幕付き)に、グリーンの朗読とクロノスの演奏によってリアルタイムで音が付けられていく。ライヴ・ドキュメンタリー&パフォーマンスという前代未聞の公演形態ではあるが、クロノスへの理解を深めながら、前述したような多様な演奏レパートリーを十全に堪能できる。Program5では、ミニマルの伝説的巨匠テリー・ライリーによって2002年に作曲された80分にもわたる大作《サン・リングズ》が日本初演される。この作品はNASAが宇宙船のプラズマ受信機で40年間にわたり録音してきた「宇宙の音」とクロノスが共演するという趣向になっており、後半には合唱も加わることで非常に大きなスケールを誇る、実に感動的な音楽だ。昨年、待望のCDが発売されたばかり。満を持しての日本初演は、絶対に聴き逃がせない。


 ありとあらゆるアーティストのなかで、クロノス・クァルテットほどボーダレスに音楽を取り上げている団体は存在しないのではないか? 基盤こそクラシック音楽にあるのは間違いないが、同時に彼らは既存のクラシック音楽の枠には一切はまらない存在でもある。まるで音楽の博愛主義者であり、真の世界主義者(コスモポリタン)でもある。もし、あなたがジャンルにとらわれることなく音楽を楽しみたいと願っているのであれば、クロノスのライヴにこそ足を運ぶべきであろう。17年ぶりのチャンスを絶対に逃すべきではない!


■クロノス・クァルテット (KRONOS QUARTET)プロフィール
サンフランシスコを拠点に1973年に結成、現在もなお全世界で年70公演を超える演奏活動を繰り広げている、最高にユニークで、唯一無二の画期的な弦楽四重奏団。デイヴィッド・ハリントン(芸術監督& vn)ジョン・シャーバ(vn)ハンク・ダット(va)サニー・ヤン(vc)


クロノスj


【CD】
『スティーヴ・ライヒ:ディファレント・トレインズ エレクトリック・カウンターポイント』

クロノス・クァルテット、パット・メセニー(g)
[Nonesuch/ワーナーWPCS-16027]


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