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【マイケル・リーグ ロングインタヴュー】グループ一丸で原点に帰り、大車輪。異能クリエイター率いる、スナーキー・パピーのめくるめく今が浮き上がる。

photoby_Brian Friedman

 グループ一丸で減点に帰り、大車輪。異能クリエイター率いる、スナーキー・パピーのめくるめく今が浮き上がる。

Interview&text:佐藤英輔
 
 マイケル・リーグは強い音楽愛や好奇心、そして確かな音楽観や趣味性を高い次元で折り合わせる活動をずっと続けているベーシスト、バンド・リーダー、プロデューサーだ。そして、かような彼の才覚を知らしめる、メインの活動母体となる大所帯バンドがスナーキー・パピーである。その新作『エンパイア・セントラル』は、かつてのスナーキー・パピーのホームであったテキサス州ダラスで録音されている。新たなフェイズを求めてバンド・メンバー全員で2010年に引っ越して以降ニューヨークを拠点に置いてきている彼らだが、2016年作『クルチャ・ヴルチャ』を作る際にもテキサス州のメキシコ国境近くに構成員全員でわざわざ向かい録音しているリーグにとって、彼が大学時代から住んだテキサス州という土壌は特別なものなのだろう。
 アルバムは、すべて新曲ながらライヴ録音でレコーディングされている。それも演奏力の高さを謳歌するかのようにライヴ・レコーディング作をいくつも発表している彼らだけに驚くには値しないが、そうした“わざわざ”が綱引きしあった『エンパイア・セントラル』は様々な音楽語彙を俯瞰する文字通りのフュージョンを作り出すスナーキー・パピーの確か再スタート作となっている。なお、この質疑応答はツアーを直前に控えた9月上旬にメールによりなされた。
 
――かつてのホーム、テキサス州ダラスに戻り、スタジオ・ライヴを⾏った理由を教えてください。また、『エンパイア・セントラル』というアルバム・タイトルについても教えてください。
「僕たちのバンドとしてのサウンドを形成してくれたこの街に、敬意とオマージュを捧げたいと思いったんです。まさに、里帰りのような感覚でした。“エンパイア・セントラル”とは、僕たちが結成されたデントン(リーグたちが通ったジャズ教育過程の高さには定評がある北テキサス大学がある)とその後すぐに引っ越したダラスを結ぶ高速道路の出口のことなんです。出口標識にその名前があるのを見ると、いつも好奇心を刺激されます。そして、それは歴史的に見てもテキサスには音楽帝国があるという事実と関係していると思います。だから、僕たちはテキサスにふさわしいものを提供したいと思ったんです」
 
――原点に帰ったことと、Covid-19 のパンデミックを間においていることは関係がありますか。感染症が落ち着き、また我々は新たなスタートを切ったという⼼持ちも感じます。
「不思議なことに、そうでもないのです。関係があるとすればパンデミックの間、メンバー個々人が独自に勉強し、成長したことです。プレイヤーとして、作曲家として、プロデューサーとして、各人が学んだことをセッションに持ち込んでいたという点だけかもしれません」
 
――ライヴにおける観客は 50 ⼈ほどのようですが、すごい歓声ですね。実際のレコーディング・ライヴはどんな感じで進んだのでしょう。この3 ⽉に何日かにわたって⾏ったようですね。
「観客は常に私たちの演奏の仕方を変化させる存在です。そのため、このような環境でレコーディングを行いました。彼らの存在によって録音中は、必要以上に考えすぎないようにすることができます。とにかく、ひたすら観客のために演奏しました。それが、音楽に与える影響はとても大きいですね」
 
――新作には、19 ⼈もの奏者たちが参加しています。これが現在のスナーキー・パピーの構成員であると取っていいのでしょうか?  2019 年スタジオ録音作『イミグランス』とほぼ同じ顔ぶれで、ドラマーが⼀⼈変わっただけですよね。その事実は、スナーキー・パピーの強固な地盤を伝えるもののようにも思います」
「この19人が、現在の活動メンバーです。他にもルイス・ケイトー(リーグの別プロジェクトのボカンテに参加しているマルチ奏者)、エリック・ハーランド(何よりチャールズ・ロイドの屋台骨を支える敏腕ドラマー)、ニッキー・グラスピー(ニューオーリンズものに強い女性グルーヴ・ドラマー)など、必要に応じて入ってくる奏者はいますが、この19人がいわばフルタイム“のメンバーです」
 
――今作は2枚組です。様々な指向を持つ曲が結びついて⼤きな環を作っているような思いも得てしまい、2枚組である必然性を覚えます。当初から2枚組にする予定だったのでしょうか?
「まったく違います(笑)。できるだけ多くの曲を録音して、そのうちの6〜8曲くらいをリリースするつもりだったんです。でも、みんなそれぞれの曲がとても気に入っていたので、このまま倍にして全曲リリースすることにしたんですが、そのようにしてよかったと思います」
 
――12 ⼈もの⼈が書いた曲が収められており、まさしくグループの総⼒で作ったアルバムであると思えます。選曲の観点、アルバムの全体の⽅向性はどのように定めたのでしょう?
「ダラスが自分たちにとってどういう意味を持つのか、よく考えて作曲するようにと伝えました。その結果、12人のバンド・メンバーが曲を提供したんですが、予想以上に統一感のあるレコードになったと思います。もちろん、リハーサルが始まればサウンドはガラリと変わり、完成度も高まったわけです」

Photo by Francois Bisi

――かつて東京でインタヴューをした際に、あなたはPCで克明に図式化されたチャートを⾒せて、曲を説明してくれました。誰々⾵では なく、いかにもスナーキー・パピーらしいアンサンブルとソロが拮抗する曲群で成り⽴つ今作においても細かいチャートは存在しているのでしょうか。
「実は、レコードのミキシングが終わるまで、チャートや楽譜は作らないんです。例えば楽譜は、あくまでも曲を覚えたい人たちのために用意するだけなんですよ。スナーキー・パピーのメンバーはすべて耳で聞いて覚えるので、そのシステムはとてもうまくいっています」
 
――このレコーディングの映像作品も出るんですよね。
「フォーマットはそのままに、美学を大きく変えようと思いました。監督はヘプ・ホルバ、撮影監督はダビッド・ベルトネスと、それぞれ別の人を起用しています。2人ともスペイン北東部のカタルーニャ出身ですね」
 
――スナーキー・パピーを20年近くやってきていて、スナーキー・パピーとして全然変わっていないこと、逆に変わってきたことをそれぞれ教えてもらえますか。
「日々探求し、成長し、向上していこうとする気持ちは、スナーキー・パピー結成後ずっと変わっていません。一方、変わったのはバンド・メンバー間のケミストリーと繋がりですね。私たちはもう家族ですよ」
 
――もうすぐアメリカや欧州のツアーが始まりますよね。それは、例により構成員をうまくローテーションさせながらこなしていくという感じでしょうか?
「はい。19人のミューュージシャン全員がステージに立つわけではありませんが、毎回10~11人くらいのミュージシャンが参加しますよ」
 
――今後、どんなふうに活動していきたいですか。また、予定しているサイド・プロジェクト があったりするのでしょうか。
「もうすぐワールド・ツアーがあるので、次のアルバムまではそちらがバンドのメインになります。サイド・プロジェクトとしては、最近は何よりもプロデューサーとして活動しているのでその仕事が中心になりそうです。とはいえ、自分のバンドであるボカンテもありますし、『ソー・メニー・ミー』(2021年)に続くソロ・アルバム第2弾を作りたいという気持ちもありますね」


■スナーキー・パピー (Snarky Puppy)
ダラスのノース・テキサス大学出身のマイケル・リーグが大学の仲間と結成、その後は30 名前後のミュージジャンが流動的にアルバム/ ツアーに参加するまでに成長したコミュニティ型バンド。2021 年『Live at the Royal Albetrt Hall』でグラミー賞Best Contemporaryinstrumental ALBUM を受賞し、計4 回のグラミー・ウィナーに。

『エンパイア・セントラル』
Snarky Puppy
[GroundUP Music/コアポート RPOZ-10078]2CD

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