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〈CLASSICALお茶の間ヴューイング〉村上敏明インタビュー【2020.2 144】

■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、テノール歌手・村上敏明さんのインタビューです。

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intoxicate 144


村上敏明a

東京文化会館で5月28日に、日本人テノールの全盛期めがけて「テノールの饗宴」で4人が集う

interview & text:池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)

 大昔だと藤原義江、少し前なら五十嵐喜芳や田口興輔、ここ30年ばかりは福井敬…と、日本国内でスターの座を射止めたテノール歌手は声の質や重さと関係なくイタリア物もドイツ物もフランス物も日本の創作オペラも、それこそ「A からZ まで」を歌わされ、働き続けてきた。だが最近は時代やジャンルごとの発声や歌唱法が厳密に規定される。確かな専門領域を備えたテノール歌手への需要は一段と高まり、万能選手の時代が終わりを告げつつある。

 東京文化会館などが主催、2020年5月28日に同会館小ホールで開催する『テノールの饗宴』に集う4人も「東京音楽コンクール入賞者」という以外、声の重量や音色、「歌役者」のキャラクターには共通点よりも相違点の方が多い。

 最年長の村上敏明は第3回コンクールの声楽部門3位で藤原歌劇団所属。2007年に旧ソ連のモルドヴァ共和国で開かれたマダム・バタフライ世界コンクールに優勝して以来、「万能テノール最後の1 人」としてイタリア物だけでなく、新国立劇場の委嘱新作『紫苑物語』(西村朗作曲)をはじめとする創作歌劇の分野でも活躍してきた。最近は『アイーダ』(ヴェルディ)のラダメスなど重たい役にも進出、リリコにスピントが加わった状態だが、2020年2月の藤原歌劇団公演『リゴレット』(同)ではレッジェーロなマントヴァ侯爵を歌い、軽く転がる声の健在も立証した。

 「主役にばかり拘らず、新国立劇場のカヴァー(控え)や小さな役なども積極的に引き受け、世界一線の外国人ゲスト歌手のそばで色々と吸収できたのが今の自分の糧になっています」と打ち明ける。

 第6回の優勝者、与儀巧は二期会会員。村上と与儀の2人は筆者も本選審査員の立場で聴いたが、他の声楽コンクールでの審査経験も含め、プリモ(主役)ではなくセコンド(準主役か脇役)のレパートリーだけを歌って第1位を獲得した歌手は後にも先にも与儀だけだ。柔らかく伸びてニュアンスに富む歌いくち、声の色からキャラクターを造型できるのが強みであり、2014年の二期会『イドメネオ』(モーツァルト)の題名役で大きな成功を収めた。沖縄県出身。びわ湖ホールでは蛇皮線を弾きながら宮古島出身のソプラノ、砂川涼子と『島唄』を共演したことがある。

 第10回2位(最高位)の宮里直樹も二期会会員で4人中唯一、ウィーン国立音楽大学への留学経験を持つ。声の傾向は村上に近いが、イタリア物の舞台では若く潤いに富む美声が次第に熱を帯び、とてつもなくドラマティックな瞬間に至る即興性に魅力がある。東京芸術劇場と白河文化交流館コミネス、金沢歌劇座が共同制作した『ラ・トラヴィアータ』(ヴェルディ)でも起用されたアルフレード役は目下、宮里の当たり役といっていい。ベートーヴェンの「第九」交響曲の独唱でも明るいだけにととどまらず、きちんと言葉を語りながら芯を通す解釈が高い評価を得ている。

 第16回2位の小堀勇介はフリー。昨年(2019年)の日本音楽コンクールで第1位に輝いた。新国立劇場オペラ研修所からイタリアへ渡りペーザロのアカデミア・ロッシーニアーナに学び、夏のロッシーニ・フェスティバルにも出演したベルカントテノールの新星だ。昨年は藤原歌劇団『愛の妙薬』(ドニゼッティ)のネモリーノ、同歌劇団と二期会、新国立劇場共催の『ランスへの旅』(ロッシーニ)のリーベンスコフ伯爵などで傑出した歌唱を披露した。筆者は藤山一郎を思わせる甘美な声の小堀が福島県の先輩である作曲家、古関裕而の代表作《長崎の鐘》に最適であると考え、ある演奏会にかけたところ客席の号泣を誘った。まだまだ潜在能力がある。

 4人の曲目は「早い者勝ちで決めた」(村上)が「お互いの声質が微妙に異なるので、喧嘩は起きなかった」という。ピアノには声楽ジャンルのスペシャリスト江澤隆行を配し、万全の態勢だ。

 「東京音楽コンクールの素晴らしさは、入賞後に多くの演奏機会を設けてくれることです。《第九》のソロだけでも十数回、歌わせていただいたでしょうか」と、村上は感謝する。今年7月24日には障がいを持つ方や年少者(今回は4歳以上OK)など、コンサートに行くのに不安を感じて躊躇している方が不安なく楽しめる東京文化会館の新しい企画『リラックス・パフォーマンス』にも出演する。


■村上敏明 (Toshiaki Murakami)プロフィール
国立音楽大学声楽学科卒業。第3回東京音楽コンクール声楽部門第3位。第9回マダムバタフライ世界コンクール・グランプリをはじめ、15の国際声楽コンクールで優勝または上位入賞。人気実力ともに、日本を代表するテノール歌手として、活躍の幅を広げている。藤原歌劇団団員。


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