見出し画像

【Remboato】「流水不腐」を体現するカルテットが本格始動!nagalu レーベルからファースト・アルバム『星を漕ぐもの』をリリース

画像1

Remboato。左から、藤本一馬、福盛進也、栗林すみれ、西嶋徹

「流水不腐」を体現するカルテットが本格始動!
nagalu レーベルからファースト・アルバム『星を漕ぐもの』をリリース

interview & text:佐藤英輔 

ギターの藤本一馬、ピアノの 栗林すみれ、ダブル・ベースの西嶋徹、ドラムの福盛進也。そんな面々からなるカルテットがレムボートだ。そのグループ名は 、“手漕ぎ舟”を意味するエスペラント語とのこと。4人は各々が出した曲を介し、抑制された美としなやかに広がる感覚を併せ持つ表現を送り出している。そのデビュー作は福盛進也のnagaluレーベルからの第3弾となるもので、レーベルの常で特殊パッケージを施された2枚組としてリリースされる。もう一つのジャズ表現のあり方も提案も抱えるレムボートはどのように始まり、そのデビュー作はいかなる指針で作られたのか。リーダーがいない4人対等であるグループらしく、インタヴューにはメンバー全員で応じてくれた。

——レムボートが組まれたのはいつ頃なのでしょう。
福盛「去年ぐらいからですかね」
栗林「去年の1月だったか一馬さんとデュオをやって、その日に徹さんが聞きに来てくれたんです。それで、同じ日に公園通りクラシックスで(佐藤)浩一さんとデュオをしていた進也さんに電話をしたんですよ。そして、この4人でもやりたいねという話になったんです」
福盛「ああ、それがきっかけか」
栗林「そして4人で1回目のライヴをやって、2回目をした時には、これはレコーディングしたいなという話が出ていたと思います」
——やはり、福盛さんとそれぞれ皆付き合いがあって……。
西嶋「僕はすみれちゃんと一緒にやったことはなくて、一馬くんと一緒にやると聞いて見にいった時に、初めて会ったんです」
栗林「私の配信ライヴにコメントをくださったりして、会いたいなと思っていたんです。その時、会う事ができました」
藤本「僕と徹ちゃんは6年ほど一緒にやらせてもらっていて、また進也君もカルテットで一緒にやったりして、いろいろ網の目が重なっていく感じで繋がっていきました」
——福盛さんと栗林さんは、どんな感じで知り合ったんですか。
福盛「亡くなったウォルター・ラング(1961年5月13日〜2021年12月16日。ECMから出た福盛進也トリオ『フォー・トゥー・アキズ』の一角を勤めた)とすみれちゃんと僕で、ミュンヘンでやったのが最初です。それは、2019年かな」
栗林「以前オーストラリアのジャズ・フェスに出た時にウォルターは別のバンドで出ていまして、その際にウォルターが<いいねえ、ミュンヘンに来る時があったら一緒にやろうよ>と言ってくれたんです。その後、イタリア・ツアーに行く際にウォルターに連絡したらやろうと言ってくれて、その時に進也さんと一緒にどうかと提案されて3人でライヴをやりました。進也さんとは、その時からのお付き合いです。進也さんと一馬さんと徹さんはよくやっているので、彼らとやっと会ったよと進也さんに電話して、私と進也さんのデュオをやるライヴの予定を決めるところ、この4人でやっちゃえと流れでそうなりました」
福盛「なんか、すぐに盛り上がったよね」
栗林「それで4月にクラシックスでやって、またもう一回やって……」
——それが昨年ということで、レムボートは結構できたてほやほやなんですね。最初にこの4人でやった際、それぞれどんな感想をお持ちになりましたか。
栗林「目茶目茶、楽しかったです」
福盛「どこも時短営業している時期で、早い時間帯にやったんですけど、音楽的にそれもなんかしっくりきましたね。ふわーという不思議な感覚を覚え、気持ち良かったです」
栗林「私は目の病気をしていて調子が悪かったのにも関わらず、すごい気持ち良く演奏できたんですよ。この体調だとちゃんと演奏できないのではないかと思っていたところ、本当に気持ち良く、幸せに演奏できたんです。そして、3人のことが本当に大好きになりました」
——なんか、いい話ですね。普通だったらできないようなところ、この4人だと気持ち良く演奏できてしまったというのは。
栗林「普段は演奏を聞き返したりしないんですが、これは聞きたいと思える演奏でした。癒されるというか。やってやろう感が皆無なんですよ。だからリラックスして聞けるんですがイージー・リスニングではないし、芯があるので聞いていて幸せになるなあと思いましたね」
西嶋「なんとなくふわーとしていて、気持ちいいなと思いましたね。今は世の中が普通の状態ではないので、そんな際に当たり前のように音楽に集中して向かい合える事が幸せだなと思えました。すごいニュートラルな感じで引っかかるものが何もなくすうっと音楽に入っていけたんです。なんか温泉に入る感じ、でした」
藤本「僕も最初から気持ち良かったですね。皆素晴らしいコンポーザーでもあるので曲を皆で高め合うというか、その中にインプロヴィゼイションも当たり前のように入ってくるんですが、そうしてサウンドを編み上げていくのはすごい幸福な体験でした。4人で、一つの物語を作っていくようなライヴでしたね。このカルテットは全員がリーダー。それぞれの曲を演奏し合うことで同じ綱を渡り、全員でゴールを目指していくという感覚に幸せを覚えますね。全員がリーダーである事が、この4人だと自然に成り立ちますね。今はこうして話をしていますが、普段は口にしているわけではなく、4人が自然にそこにいる事を暗黙で認め、こういう立ち位置を得ているという感じです。最初ライヴをやった際に、そう思いました」
福盛「2回目のライヴをやった時も、皆違う曲を持ってきたんです。各々このグループに合う曲を持ってきて、なんか固まった感じがありました」
——2回目のライヴを終えた頃には、これはずっとやっていきたいという共通認識があったわけですか?
福盛「僕はそこまで深くは考えませんでしたけど、これは録った方がいいという助言もありましたし、これは録りたいなという欲も出てきて、この4人の関係を残したくなりました」
藤本「進也君がnagaluを立ち上げた事もあり、レコーディングできたのはうれしかったですね」
——レムボートという名前がいいですよね。意味は分からなくても、語感の部分でこの音楽性といい感じで重なると思います。
藤本「それは、徹ちゃんがつけてくれて」
西嶋「皆でグループ名を付けましょうとなって、いろいろ案を出したんですけど……」
福盛「もともと、徹さんの"星を漕ぐもの"という曲がこのグループを象徴する曲だと4人とも感じていたんですよ」
西嶋「2回目のライヴをやる時、この4人でやりたいなと思い持っていった曲ですね」
——レムボートは4人で曲を出しあっており、本当に対等な関係を持つカルテットであると思います。通常アルバムを聞くと誰がリーダーかと推測できるものが多いですが、『星を漕ぐもの』の場合はそれが不明、もしくは聴く人によりリーダーだと思える人が異なると思います。結果、本当に自由な関係で音を出しているなと思いますね。
藤本「それは良かったです」
——皆さん、いろいろな活動をしていますが、これはレムボート向きだなと感じる曲はどういう傾向にあるものでしょう。
栗林「説明できないけど、それはありますね。曲を書いた時、これはこの3人との音で聞きたいと感じるんです」
西嶋「“星を漕ぐもの”はこのグループでやるつもりで書きましたが、具体的にこう演奏してもらおう、とは考えていませんでした。でもこの4人での演奏をまずは聞いてみたかった」
——他の3人がいい感じで広げてくれるだろと予感できるような曲という事ですね。
西嶋「そうですね。この4人で演奏することで初めて自分にもその曲のことがわかるんです。」
福盛「僕の曲の場合、今作には2曲入っていて二つとも書き下ろした曲ですね。このグループを始めた時に書いた曲で、意識的に書いたと記憶しています。というのは、一馬さんと徹さんとは藤本一馬カルテットや自分のグループで一緒にやっていたりもしていて、一方レムボートではピアノがすみれちゃんになって違う景色が出てきますから、すみれちゃんのピアノで聞いてみたいなと思うような曲を書きました」
栗林「私の“おかえり”という曲は進也さんに書いた曲でした。進也さんとレコーディングするなら、これは入れたいと思いましたね」
——ピアノ、ギター、ベース、ドラム。nagaluの発売アーティストのなか、レムボートは一番常識的な編成を取っていますよね。他の作品はもっと様々な編成により録られているところ、レムボートはジャズ・カルテットという編成を取りつつ、それが導くような常識的な音にはなっていません。そこらあたりの指針というか、さじ加減はよく出てきたなと思ってしまいます。
栗林「進也さんが普通のドラマーではないですし(笑)。私の場合、皆を好きなのであって、楽器の編成で集まったとは思っていません。人ありきだと思いますね」
藤本「この4人には、どこか導かれる感じがありますね」
——譲り合いというのとも少し違いますが、レムボートには絶妙の重なりあい方がありますよね。
栗林「普通にしていて、そうなるからすごいなと思います」
——だから、自然に情景や情緒が浮き立ち、楽器音を重ね合った先に一編のストーリーが浮き上がるんだと思います。
福盛「曲の構成や編成はnagaluの中では一番ジャズっぽいのに、この4人で演奏するといわゆるジャズにはならず、新たな可能性を示すことができる。そこが魅力でもあり面白さだと思います」
——だから、ジャズの概念に凝り固まった人にnagaluの美点を伝えるには、レムボートは一番適した存在かもしれません。同様にオルタナティヴであっても、他のアルバムは弦楽器や肉声なども入る様々な編成によって表現されているところ、『星を漕ぐもの』はきっちりカルテットで事にあたりつつ、もう一つの局面を出していますから。
栗林「なんだかんだリーダーとしてアルバムを作ろうとすると、こういうものをやりたいという個人のコンセプトに基づいた曲をやろうとし、それに従い皆が向かう形になります。レムボートだとそれが全くないというのは、自由だなと思いますね。4人でただ演奏してこうなるというのは、自分がリーダーになり責任を持って作るという事とは、全然違う楽しさがあると思います」
——重なりの妙から、絶妙な力の抜き方を覚えたりもしてしまいます。 インタープレイの緊張感は随所にあるのに、全体的には優しく包まれるような感覚を得る事ができます。
藤本「安心して、身を委ねられるというのはあるかもしれないですね。4人がそれぞれに出した音を許容でき、それに身を委ねながら演奏していますから」
——余韻とか余白という部分に、皆さんが自覚的である事もモノを言っているのかもしれないですね。
藤本「音の響きとかを共有できる安心感があります。それって、あえてエゴをなくそうというよりはこの4人でやるとそういう状況に導かれるということかもしれませんね」
西嶋「いい日本酒を飲んだ時に水みたい、と言ったりするじゃないですか。これ見よがしに美味しいでしょという感じではない、味わいがあると思います」
——そして、皆それぞれに滋味に満ちた曲を出していますよね。それを元に素直に音が重ねられているので、ぼくは聞いていてあまり編曲という概念も感じません。一応作曲者がリーダーシップを取るという部分はあるんですか。
藤本「一応、どういう曲ですという説明はしたりしますね。イントロはこういう感じで始めようかとかいう段取りはあるんですけど。あとは、皆におまかせです。それで済むというのはいいですよね。言うことがあまりない、というのは」
——レコーディングもすんなり進んだという感じですか。
藤本「そうですね。もう少しテンポが早いほうがいいんじゃないかということがあったとしても、そこも段取りの範囲ですね」
栗林「今作では自分の曲だけれど自分は演奏していない曲があります。自分が入る必要を感じないほど、素敵に演奏してもらえて、こんな人達に出会えてなんて幸せなんだろうと思います。」
福盛「レムボートはすべてにおいて決まるのが、早いんですよ。それは、アルバムのデザインもそうでした」
——皆で語りつくさない美もあるとも思います。だからこそ、どんどんその魔法は持続していくし、聞き手の想像性が入り込む余地も出てきます。
栗林「いいバンド。皆、最高だと思います」
福盛「ウォルターとやった時から、すみれちゃんの印象がすごい変わったんです。すみれちゃんがどんどん進化している感じが、僕は面白いなと思っていますね。だから、このアルバムに収められたすみれちゃんとは違う、この先のレムボートで出てくるだろうすみれちゃんの姿がすごい楽しみです。そういう意味でも、『星を漕ぐもの』は今でしか録れなかったものなのかと思っています」


画像3

■レムボート (Remboato)
現在のジャズ・シーンにおける重要プレイヤー/コンポーザー4名藤本一馬 (g)、栗林すみれ (p)、西嶋徹 (b)、福盛進也 (ds) が集結したスーパー・グループ。2021 年 3 月よりこのメンバーで活動をスタート。透明感に溢れる叙情的かつ骨太なサウンドは、ライヴを重ねるたびにスケールを増してきている。nagalu レーベルのコンセプトである「流水不腐」を体現するカルテット。


画像2

『星を漕ぐもの』
Remboato:藤本一馬(g)栗林すみれ(p)西嶋徹(b)福盛進也(ds)[Nagalu NAGALU005]2CD
12/20発売

LIVE INFORMATION

Remboato『星を漕ぐもの』リリースコンサート
〇2/27(日)15:00開場/ 15:30開演
【会場】公園通りクラシックス
http://koendoriclassics.com/
〇3/18(金)19:15開場/20:00開演
【会場】荻窪ベルベットサン
http://www.velvetsun.jp/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?