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〈CLASSICALお茶の間ヴューイング〉泉谷閑示インタヴュー【2020.4 145】

■この記事は…
2020年4月20日発刊のintoxicate 145〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、泉谷閑示のインタビューです。

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intoxicate 145


泉谷閑示a  のコピー

©Chizu Wakai

気鋭の精神科医がピアノに向かい“美”を追究したデビュー作

interview&text:山﨑隆一

 ピアニッシモにもしっかり芯を持たせ、香り立つような艶をまとったピアノの音色、余計なものを極限までそぎ落とすことで生まれる独特の間、そして、聴く者を音楽の中に受け入れる包容力。精神科医としてメディアでも活躍する泉谷閑示は、パリのエコール・ノルマルでピアノを学び、ピアニスト/作曲家としての顔も持つ。彼が満を持して臨んだデビュー・アルバムからは、どこを切り取っても心に寄り添うような美しさがにじみ出てくる。


 「聴くたびに違う発見があるアルバムってありますよね。それは演奏に不要なものがないからだと思うんです。そういう演奏が好きだし、意識してピアノに向かいました」


 ヴェルレーヌの詩からヒントを得たという『忘れられし歌』というタイトルの通り、本作の中核をなすのは、歌だ。日本の四季を表す歌を集めたメドレーや《てぃんさぐぬ花》、《五木の子守唄》といった民謡、そして八木重吉と中原中也の詩に自身が曲をつけた小品が並ぶ。特に詩の選択には相当悩んだようだ。


 「カウンセリングの現場では、言葉ひとつが薬にもメスにも、あるいは傷口を縫う糸にもなるわけです。私は言葉だけで治療をしていますので、どうしてもその選び方には慎重になりますね。詩そのものがすでに音楽的なものもありますし、『これは歌ってはいけない』と思うほどの完成された世界観を持つものもある。だからといって『歌いたい』と思えるものでないと曲をつける意味がない。苦労しましたね」


 そうして選び抜かれた詩を含め、歌として表現したのは米良美一と山本耕平。2人とも持ち味を存分に発揮し(特に米良の《てぃんさぐぬ花》と山本の《中原中也の詩による3 つの歌曲》が素敵!)、加えてウェールズ弦楽四重奏団もこまやかな演奏で泉谷の描く音世界を体現している。


 「音楽の奥深くにある静けさというのか、私が表現したい微妙な感覚を、皆さんは瞬時に読み取り、かたちにしてくれました。本当に素晴らしい音楽家たちだと思いますし、レコーディングはまたとない貴重な体験でしたね」


 アレクサンドル・タローのピアノが大好きで、彼が2017年にリリースしたバルバラのトリビュート・アルバムをイメージしたという本作。両者に共通するのは、あくまで歌や言葉の力を主役にしていているところだろうか。


 「自分の存在はできるだけ透明にしたかったんです。リスナーの皆さんが演奏者の自己実現に付き合わされてしまうのは私の本意ではありませんから」


 そこにあるのは聴く者を圧倒する絶対的なものではなく、誰もが内面に持っているであろうささやかな“美”。ひとりの時間に、そっと聴きたいアルバムだ。


泉谷閑示j

『忘れられし歌 Ariettes Oubliées』
泉谷閑示(p)米良美一(C-T)山本耕平(T)ウェールズ弦楽四重奏団
[キングレコード KICC-1503] 


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