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【社会起業家取材レポ#15】子供からお年寄りまで関わる人が“ 好き”と暮らせる毎日を自ら歩めるように。


SIACの学生が東北で活動する社会起業家の想い・取り組みを取材する「社会起業家取材レポ」。今回は、SIA2021卒業生の熊坂勇宏さんにお話しを伺いました!


1. 熊坂勇宏さんについて

病院薬剤師として10年間勤務した後、2016年に地元の宮城県登米市に戻り、保険調剤薬局に勤務。2019年、地域医療教育プログラムを提供し、薬剤師の『在宅医療』、『多職種連携』、『コミュニーケーション能力』などを育むため『一般社団法人BEARS GATE』を起業。2021年、薬局ビジネスとソーシャルビジネスを組み合わせた新たな薬局として、『株式会社TUMUGU』を起業。処方箋を受け付ける薬局、在宅の患者にも対応する訪問薬局、地域の社会的挑戦を支援し、人の夢や好き同士を繋げる社会課題の窓口と、3つの事業を行っている。SIA2021卒業生。

▷SIA2021最終pitch動画


2. 取り組んでいる社会課題

地方には、講演会や学生の居場所作り・支援などといった、小さなチャレンジに踏み出すための場所的・人的繋がりを獲得する機会が乏しい。やりたい事がある時にインフラ整備が整っていなかったり、相談出来る人や場所、受け入れる環境がないことが多い。

また、薬剤師や薬局の仕事は閉鎖的で、他職種と連携が十分に取れていない。ロボットやAIの発達によって薬剤師の仕事がなくなりかねない。さらに、地方によっては、医療者の数が少なく、医療資源も少ない上に高齢化が進んでいて、インフラも整っていないため病院まで来られない人が増えている。


3. インタビュー:これまでの歩み&今後の展望

『株式会社TUMUGU』では、「人を、縁を、想いを、未来を、地域を…"つむぐ"」をモットーに掲げ、宮城県登米市でtumugu薬局という名前の小さな薬局を開いています。お薬の処方箋はもちろん、社会に対して小さなチャレンジをしたい時に相談を持ち込める『tumugu処方箋』という処方箋が用意されている所が大きな特徴です。この処方箋に自身の小さなチャレンジを書いて渡せば、相談者のニーズに合った場所や人と繋げる形で小さなチャレンジを後押ししてくれます。

今回はそんな『株式会社TUMUGU』を立ち上げた創業者の1人、熊坂勇宏さんにこれまでの歩みやこれからの目標などをインタビューさせて頂きました!


Q.薬剤師を志した理由は何ですか?
A.身近な職業だったし、人の役に立ってることが分かりやすい職業だと感じたから。

熊坂さんのお父さんも薬剤師。しかし、幼い頃は薬剤師の仕事に対し、「何やってるか分からないけど忙しそう...こうはなりたくないな」と思っていたといいます。子どもの頃はコックさんや消防士、プロレスラーなど様々な夢を持っていたそうですが、根底にはいつも「人の役に立ちたい」という気持ちがありました。大人になり、身近だった薬剤師の仕事を理解し、医療業界の「ありがとうと言って貰ってお金を貰える」という部分に魅力を感じ薬剤師になることを決意したそうです。

薬剤師になったばかりの頃は、起業をすることも・現在のような社会課題を解決するような事業をすることも、考えてもいなかったそう。色んな人と出会い良い刺激を受けたことが新しいカタチの薬局を創るきっかけになりました。


Q.『株式会社TUMUGU』を起業することが出来た最大の要因は何ですか?
A.完全にパートナー(佐藤さん)の存在だと、即答できます!

『株式会社TUMUGU』の共同創業者である佐藤さんとの出会いは、地域の薬剤師の勉強会でした。
佐藤さんとは、互いの価値観が近いだけではなくお互いの長所短所が全く逆だそうです。だからこそ、お互いの足りない部分を補い合うことにより、2人分の力を最大限に活かすことが出来ているのだといいます。
また、2人の擦れ違いによって事業が失敗する事を避けるため、2人だけで合宿をしたそうです。そこで、24時間以上「こういう薬局にしたい」などといった事業の核となる話をお互い腹を割って、妥協することなく語り合ったのだそう。こうしたお互いの想いをSIAプログラムを通して2人で言語化したことで、ダラっと事業を進めて気が付けば5年、10年経ってしまったという状況を防ぎ、一緒にやっていく中で僅かに方針がズレてしまいそうになっても2人で言語化したvisionを思い出して、軌道修正できる関係性を構築した、とお話されていました。

そうして起業したのが、『株式会社TUMUGU』です。
事業の大きな特徴である『tumugu処方箋』は、地域で様々な人と話す中で、魅力的な夢ややりたいチャレンジがあるにも関わらず人的・場所的繋がりが薄くなかなか実行できないという声を多く聞いたことが原体験となったといいます。このままだと小さなチャレンジが消えていってしまうという感覚を得たことがきっかけで課題解決に向けたチャレンジをすることを決意しました。実際、日常に即した食事指導を行いたいという思いに答え「離乳食のおはなし会」を開催することに繋げたり、オーガニックの米粉の良さを広げたいという思いに答えて、オーガニックスイーツを作っている人と繋げたりと実例も積んでいます。まだ沢山のチャレンジを書いてくれることはなく、数件しか『tumugu処方箋』が届かないことは課題だと話されていましたが、チャレンジ支援した一つ一つの事例に対しては確かな手応えを感じていらっしゃる様子でした。


Q.実際に事業を行って良かったことと、現在の課題について教えてください。
A.良かったことは外装・内装の見た目の持つ力を実感したこと。課題は人手不足。

tumugu薬局は、外装や内装をオシャレな感じにしたことで、患者さんが言葉にしなくても普通の薬局と違うと分かる上、処方箋のない人もふらっと立ち寄ってくれるようになったそう。tumugu薬局を運営する中で、「空間」が持つ力を強く感じたといいます。

課題は人手不足。想像以上に事務作業が多く、2人だけで回すことに苦労されているそうです。創業当初は外来の患者さんも飛び込みで来ることが多く、2人とも訪問の患者さんなどに対応するため外に出ている時には患者さんがtumugu薬局に訪れたものも誰もいなくて無駄足にさせてしまったこともあったみたいです。現在は患者さん側が事情を理解し、事前連絡をくれるようになったことによってスケジュール調整が可能になったのだそう。

処方箋受付だけではなく、お店で留守番をしたり、気さくに患者さんと会話したりできる薬剤師に限らない人材や自分たちの感覚が分かる薬剤師などの仲間が欲しいと思う一方、まだ経営2年目であり人件費の問題や、適切な人材をピンポイントで見つける事ができるかというリクルートの問題、また人を雇うという事に対する責任感もあり、採用には慎重になっているそうです。
社会課題に興味を持つ大学生をインターンなどで雇用しても面白そうともおっしゃっていました。


Q.今の目標は何ですか?
A.近々の目標はここ(tumugu薬局)で成功すること。その次は仲間を増やしていきたいね。

熊坂さんは『一般社団法人BEARS GATE』という法人も経営。訪問薬剤管理指導、他職種連携、コミュニケーション能力といったスキルを磨き、地域でやりがいを持って働く医療者、地域から必要とされる医療者を育成する「地域医療教育プログラム」を提供しています。

地域医療教育プログラムでの薬剤師教育を通して、自分たちと同じ考えを持つ薬剤師同士の繋がりを持つチャンスがあるため、その繋がりをしっかりとしたコミュニティにして広げていく、その一方で新たな薬局の形としてtumuguモデルの薬局をビジネスとして確立することで、tumuguモデルの薬局が全国に広がり、tumuguモデルのような働き方をする薬剤師も全国に広がっていくことを引退までの目標としています。


Q. 大学生に対して何かメッセージをください。
A.アイデアをしっかりアウトプットすることが大切!

アイデアがまとまってなくても、人に話すことが大切だそうです。そして、同じことでも繰り返し話すことが大切といいます。
その理由は2つあります。

1つ目は、自分の中でやろうとしている事が整理されていくからです。人に繰り返し話すことで、相手によく伝わった時の言葉や伝え方を自身で気づけるようになり、使う言葉が洗練されていきます。

2つ目は、自分の中でアイデアを抱えたままだと助けてくれる人と繋がるチャンスを失ってしまうからです。アイデアを人に話すことで自分一人では思いつかなかった良いアドバイスをもらえたり、協力してくれそうな人と繋がれる可能性が生まれます。

ぶっちゃけアイデア自体に大きな価値はない!とも仰っていました。
「いいアイデアを温めておきたい」という人はいるけれど、アイデアは行動に移したりカタチにした時に初めて価値が生まれます。そして、カタチにするスピードは常にアウトプットをしている人の方が速いんだそうです。


4. 編集後記

熊坂さんがお話の中でおっしゃっていた、薬局が持つ大きな価値のお話がとても印象に残っています。

「薬局は病気がなくても行ける唯一の医療機関。年齢にも関係なく行くことが出来て相談もできる場所」
という話をお聞きして、

確かに、薬局という場所が街の中で誰もが気楽に立ち寄る事が出来て、小さな相談ややりたいこと、夢の話が出来る場所、それを受け入れてくれる場所になったら凄く良いなと思いました。

そういう家族でも学校でもない第3の居場所が街の中にあること自体が素晴らしいなと思いましたし、もしそうなったらきっと地域のつながりや人のつながりが今よりも強くなって楽しい街になるんだろうなと思いました。

この取材の中で、自分の中にあった薬局のイメージが「病院の隣で薬を受け取る場所」から「誰でも気軽に人と繋がり、話をすることが出来る場所」へと大きく変わりました。

自宅の近くにもこんな薬局が欲しい...!!


取材・執筆担当:赤川雄哉(東北大学 1年)


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