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「あなたは常に健やかですか」公募インタビュー#27

(ちゃたろーさん 2021年2月下旬)

大学で社会福祉を学び、社会福祉法人に就職し障害者支援の仕事に従事していたちゃたろーさん(以下、チ)は、15年ほど前に軽いうつ状態と診断されました。その後様々なことがあった人生と“健常者だった自分と障害者になった自分”について話したい、と応募してくださいました。

「軽いうつ状態」から

“20代後半で婚約者に促されて初めて心療内科を受診し、「軽いうつ状態(※)」と診断される。振り返れば情緒不安定な言動などはあったものの、それまで病気という認識はなかった。”

チ 病気を知った時は障害者施設で働いていて、おもに知的障害者の方々の日常支援とか、作業支援をしていました。作業支援というのは、企業から請け負ったいろいろな細かい下請け作業を障害者の方々がするお手伝いと言いますか。一緒にやって、わからないところを指導したり。

 最初は病気のことを他の職員に伝えるべきか否か悩んでいました。
 でも、だんだんと状態が悪化して。朝の4時とか5時に起きてしまってなかなか眠れないとか、いわゆる睡眠の乱れから始まりました。心療内科から処方される睡眠薬がどんどん増えていって、でも寝られるようにはなってくれなくて、日中に眠気が残って会議中に寝てしまうことが続いて。さすがに上司から注意を受けたりしたんですけれども、なかなか減薬はできませんで、薬は増えていく一方だったんですね。

 もう、これは伝えないといけないレベルだと思い、施設長と、一緒に作業をしていたグループの職員にだけオープンにして働いていました。

 その状態が少し続いた中で、社会福祉法人が新しく入所施設を作るという話が持ち上がって、私は新しい施設への異動対象者になったんです。私は当時10年近くキャリアがあったので、新しい施設に配置しようと思ったんでしょうね。でも私は診断書を施設長のさらに上の役職の方に提出して、異動はできない旨をお話ししたんですけれども、却下されてしまって。最初の1ヶ月だけ夜勤などは免除するという流れになったんですね。

 そこがターニングポイントだったのかもしれないです。もしそこで仕事を辞めていたら、今のように悪化の一途をたどって、ということはなかったかもしれないと思います。

※うつ状態 「抑うつ状態」と基本的には同じ意味。ゆううつである・気分が落ち込んでいるなどと表現される症状を抑うつ気分と言い、抑うつ状態とは抑うつ気分が強い状態。抑うつ状態がある程度以上重症である時、うつ病と呼ぶ。
参考:みんなのメンタルヘルス総合サイト松戸医師会

「しがみつく」ことを選択/悪化、退職

チ 職場は配慮してくれないんだなと思ったんですが、なぜ辞めなかったかと言うと、当時私はインターネットの掲示板「2ちゃんねる」のメンタルヘルス板っていうところを毎日のように見ていたんですけれども、そこで「いったん辞めると次の職には就けない、だからしがみついてでも今の仕事を続けたほうがいい」みたいな書き込みを見つけて、それを信じ込んでしまったんですね。だから自分は、「辞める」じゃなくて「しがみついてでも」という方を選んだんです。

“異動を受け入れ、新しい入所施設がオープンして半年後、体も壊してしまい最初の休職をすることに。半年後に復職し、時々休みながらも2年ほど勤務するが、同所内での異動と同僚の行動にショックを受けたことをきっかけに調子を崩し、2回目の休職。病状は改善しないまま1年半が経ち、休職期間が満了に近付く。
復帰に際し、かかりつけ医に口添えしてもらい、施設長に時短勤務や勤務日減を交渉するも却下される。”

チ 時短なども叶わず、状態も芳しくなかったですが、復職しました。でも病気がかなり悪化していたので、復職後は毎日のようにミスをして、入居者さんとの関係がギクシャクしたり、職員間でもギクシャクしたり。ことあるごとに施設長に呼ばれて叱責されて、精神的にボロボロになってしまったんです。

 もうここで働くのは無理かなという思いもあったんですけれども、当時家庭があったので、辞めたら家庭も大変なことになってしまうとも思っていました。悩んだ結果3回目の休職をして、2ヶ月ぐらい休職したんですけれども、治るわけもなく。そして、仕事を辞めることになりました。

 最後に面談をした時に、あと1ヶ月ぐらいラストチャンスで働かないかとも言われたんですけど、もうそんな気力は皆無でしたので、「いや、もういいです」と言って。片付けていたら「こっちでやっとくから早く出なさい」みたいに言われて、まあ実質追い出されたみたいな感じでした。思い出すとなかなか苦い思い出なんですけれども。

福祉職としてのプライドが拒んだもの

“大学を卒業してから勤めていた社会福祉法人を辞めたのは、最初に「軽いうつ状態」と診断されてから8年後のこと。その頃にはうつ病と診断され、他にも不安障害、うつ病から来る身体的症状などもあった。”

チ この頃はそんな状態でも、まだ障害者手帳は持っていなかったんです。それはなぜかと言うと、一言で言えば「福祉職としてのプライドが許さなかった」から。障害者をいろいろ助けたり支援したりする人間が障害者になるのは嫌だみたいな感じで、なんだか子供みたいな理由なんですけれども、それで手帳の申請をずっとしなかったんです。

 手帳を持つことによる差別も怖かったんだと思いますし、一応ずっと社会福祉を学んできて、自分自身のプライド、プライドというかそういうものがどうしても自分自身を受容できなかった。障害を持って生きていく自分を受け入れられなかった自分がいたんです。

──障害者手帳を持って障害者であるということになると差別されると思っていた?

チ 思っ…てました。実際に援助している側にいた時、周りの目を感じたり、入居者さんが差別を受けているのを目にしていましたので、自分もこのようになるのかなと。

──「障害者手帳を持つ」ということに大きな変化がある?

チ そうですね。大きな抵抗感がありました。

──でも、持つに至った?

チ 持つに至ったのは、そこから数年後になるんですけれども。

引きこもり、障害者手帳を取得、就職

“退職後かかりつけの病院を変え、精神科に通院を始める。
退職後の1年間は働けず、人間不信に陥っていたこともあり、通院以外はいわゆる引きこもり状態に。そんな中、別居中だった妻と離婚。大きな衝撃や後悔を感じる。「人生で最悪の部類に入る1年」となった。
このままではだめだと、カウンセリングと精神科デイケア(※)への通所も始める。”

チ そうして2、3年ぐらいずっとデイケアに通っていたんですけど、やっぱり働かないとだめだろって自分の中で思うようになって、でもブランクが長いし、病気とか全部クローズ(※)で働くのは無理だなと判断しました。プライドよりもとにかく働きたいという気持ちが強くなって、それがきっかけで障害者手帳(※)を取ったんです。障害者手帳を取得して障害者枠で働くこと(※)を考えよう、と。

 デイケアにほぼ毎日通って生活リズムがだんだん整ってきたところで、働くという次のステップを踏もうと思ったんです。法律で定められている、就労移行支援事業所(※)というものがありまして、その事業所の支援サービスを受けるためには障害者手帳と施設使用受給者証が必要なので、市役所に行ってその申請をしました。

 何ヶ月かかかっちゃったんですけれども、手帳と受給証を取得して、就労支援事業所に通い始めたんですね。そこでいわゆる職業訓練的なこと、電話のとり方、ビジネスマナー、軽いロールプレイングなどをやりつつ、空き時間には就労支援事業所の近くにあったハローワークに行って、求人探しもしていました。

 障害者雇用というのは、お給料が安いんです。ほとんどのところが最低賃金でした。でも、最低賃金でもなんとか働きたいっていう思いがその当時は強かった。
 そしてある時、1日の勤務時間が6時間という時短で週5日勤務という、自分が求めていた条件の求人票を見つけました。就労支援事業所のスタッフの方にも話をして、いいんじゃないのということで、ハローワークで申し込みをしました。

 企業の説明会のあと、応募のために履歴書と職務経歴書の提出を求められたんですけども、それを就労支援のスタッフと二人三脚で、もう何回ボツくらったかわかんないくらい作りまして(笑)、一番いい形のものができたところで送って。2回の面接を経て採用され、今に至っています。

──就職して4年ほど経って、いかがですか?

チ 前職の社会福祉の現場とはほとんど真逆の業種ですが、社風なのかなんなのか、スタッフの方々がちゃんと受け入れてくださっていて、差別を感じたことは職場ではあまりありません。「え、このぐらいのこともできないの」みたいなことを言われたことは1回だけあったんですけれども。それ以外は特にいじめとか嫌がらせとかは受けずに。時給も安いですしいまだに6時間勤務なんですけど、まあ、継続して働くことはできています。

※精神科デイケア 精神疾患の再発予防などを目的にした精神科リハビリテーションの1つ。決まった時間に通い、文化活動や運動などさまざまな活動を日帰りで行う。社会復帰への足掛かりとしての役割も担う。参考;LITALICO

※クローズ 病気や障害などを開示せずに活動、就労すること。⇔オープン
※障害者雇用 障害のある人が障害のない人と同様に働く機会を得られるよう、自治体や企業が一般雇用とは異なる採用基準で雇用すること。障害があることを前提としているため、障害者手帳を持っている人が対象。職場において必要な配慮が期待できる。
※障害者手帳 取得すると障害者総合支援法の対象となる。障害者雇用枠での就職を目指す場合は、手帳を保持していることが必須となり、事前に取得しておく必要がある。身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳(自治体により名称が異なる)の3種がある。また、障害者手帳を提示することで、自治体や事業者が独自に提供するサービスを受けられることもある。参考:ミラトレ厚生労働省

※就労移行支援事業所 就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく就労支援サービスの1つ。一般企業への就職を目指す障害のある人(65歳未満)が対象。利用者が事業所に通い、就職に必要な知識やスキル向上のためのサポートを受ける。参考:LITALICO

※ジョブコーチ 職場適応援助者(ジョブコーチ)は、障害者の職場適応に課題がある場合に、障害特性を踏まえた専門的な支援を行い、障害者の職場適応を図る。配置型、訪問型、企業在籍型がある。参考:厚生労働省

健常者って本当にいるの?

──事前のやりとりで、「障害者になった自分、健常者だった自分」について話したいと書いてくださいましたが、感じておられることは。

チ 「障害者」と真逆の言葉で「健常者」という言葉をニュースとかでよく聞くと思うんですけれども、一障害者の立場で見ていると「健常者って本当にいるの?」と思うんです。

 健常者って、「常に健やかな人」って書きますけど、常に健やかな人って日本にいないだろうって思うんですね。普通のサラリーマンが突然椅子とか蹴り上げたり、何かぶつぶつ言っている人がいたり、そういう光景を見かけたりすると、年がら年中いいことも悪いことも全部受け入れてニコニコと過ごしてらっしゃる方なんて、日本はおろか世界中だっているのかなって。

 一時期、障害者の“がい”の字を平仮名にするか碍の字にするかという表記の話がありました。精神障害の名前でも、昔は精神分裂病と言ってたのを統合失調症にするとか、躁鬱病だったものを双極性障害と言うとかもありました。なんだか、言葉だけは障害者側をいじってくるんだなと、「健常者」って表現も変えたほうがいいんじゃないのかとか思ったりするんですね。これが一番違和感があると言いますか。

上から目線と線引き

チ マスコミとか新聞とかで言われている「健常者」って本当にいるの?と。障害者のことばっかりクローズアップして、まあそれはそれでいいとは思うんですよ、ただ、やはり新聞の記事とか見てても、上から目線。俺らとは違う、違う人種だみたいな感じで書いてあるような記事が多いんですよね。病気や障害を持ってから、そう感じることがありました。

 障害者施設に勤めていた時も、上から目線の職員っていっぱいいたんです。福祉施設の職員と言えば優しくてとか気配りできてとか、そういったイメージがばっかり先行していますが、実際は障害者を見下している人もいましたし、そんな言動もありました。福祉施設の職員よりもむしろ、今の会社のジョブコーチのほうがよっぽどこっちのことを理解してくれてるみたいな感じがしますね。
 
 障害者が被害を受けた事件のニュースに接した時、自分は苦しい気持ちになりましたが、一部の健常者はそうは思ってないみたいなことを新聞で読んだりしたこともあったので、どうなんだろうとか。 

 すいません、自分がペラペラずっと話してたんですけれども、インタビュアー田中さんはどう思われますか?

──おっしゃったように、常に健やかな人なんて日本にも世界にもいないかもしれないと思います。私も含めて。今、言葉としては便宜的に分けられてますけど、その間は地続きというか。人はいつ患うかもわからないですし。

チ そう、いつ患うかもわからないですし、障害のパターンだと、交通事故やいろんなアクシデントに見舞われたら、次の日から車椅子生活にという方もいらっしゃいますし。

──そうですね。障害者・健常者はゼロか1かじゃない関係だと思います。

ヘルプマーク

チ 私は一応、ヘルプマーク(※)というものも持っているんですけど、なかなかその、カバンにつけ、られ、ない、んですね。本来だったらカバンにつけておけば、ああこの人こうなんだなっていう風に見られて、席とか譲ってもらったりとかしてもらえるんでしょうけど、障害者になって、逆にそういうのをどうなのかなって思っちゃったりもしたり。

※ヘルプマーク 外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで援助を得やすくなるよう作成されたマーク。参考:東京都福祉保健局

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ヘルプマーク画像:PAKUTASO


チ 私はずっと(福祉施設の職員として障害者を)助けていた方だったので、助けられることに対する免疫があまりないんですね。

 それに実際、ヘルプマークをつけていた時に誰かに助けてもらった経験もなかったんで、つけてても意味ないなと思って外しちゃったんですけれども。まあ……精神障害は黙っていればわからない障害なんで。
 つけている時は、劣等感を感じながらつけてました。

 障害者になって、障害者手帳で受けられる割引サービスとかもあるんですけれども、(利用する際に手帳を提示した時の)店員さんとかの「目」と言いますか……この人こうなんだ、という目で見られることもあったりして(気になる)。

──昔福祉のお仕事をして、助けていたほうのちゃたろーさんは、障害者の方をどういった目線で見ていた?

チ 自分はけっこう、フラットな目線で見てたんですけれども、やはり無意識のうちに、他の人がやっていたように勝手な上下関係とかを作っていたのかなと、今となって感じているところがあります。

──今、お仕事をされたり日常生活を送る中で、職場ででも社会全体からでも、助けられている感というのはありますか?

チ 職場に関してはあります。でも社会全般に関しては感じることはそんなにないです。

──助けてほしい、と思いますか?

チ 思います…ね。電車の中とかで立っていて、あまりにも調子が悪い時、席を譲ってもらえないかなあとか。

 勝手に自分でレッテルを貼っちゃってる感もあるんですね。例えヘルプマークをつけてても、こんな中年のおっさんなんかどうせ誰も助けてくれないだろうみたいなレッテルを自分で貼っちゃってるんです。

──助けてほしい気持ちよりも、どうせ助けてくれないだろうとか、劣等感を感じてしまうほうが勝ってヘルプマークをつけていないという感じですか。

チ そうですね、今のところそのレッテルのほうが勝ってる感じ。

手帳を持って、隠さなくなった

──障害者手帳を持つ前と後では気持ちは変わった?

チ ああ、なんか、少しは変わりました。先ほど言ったことと矛盾するかもしれないんですけれども、手帳を持っていることで、自分の障害や病気とかを隠して我慢することをしなくなりました。
 
 初対面の人にいきなり話しちゃったりするんです。「私はこういう病気とか障害を持ってまして、それでもよろしければ」みたいな感じで話を切り出すことが多いです。

 その場では「ちゃたろーさん、全然そういう風に見えないですよ」みたいな風に言われる場合が多いんですけれども。

──初対面で切り出すのはなぜ?

チ 第三者から「ちゃたろーはこういう病気や障害を持ってる」みたいな情報を流されるのがすごく嫌で。「あれ、なんで知ってるの?」ということになると、そこから不信感とかが生まれちゃったりするんです。それだったら最初からカミングアウトしようって。まあ、「嫌ならその場で帰ってください」じゃないですけれども。自分の性格上、隠したところで結局なんのメリットもないと判断してそうしています。

 私、初対面の方がいるにも関わらず、突然変な行動をする場合とかもあって。そういう時に隠していたら相手に申し訳なくて、二度と関わるのやめようかなと(いう気持ちになってしまう)。だったらもう、最初からオープンにしちゃえと。
 
 まあ、本当に人それぞれなんですけど、やはりずっとクローズを通してる人もいますし、自分みたいに早めにオープンにする人もいます。自分自身は早くオープンにして、そんな自分でもこの人は大丈夫かなと、ある意味見極めのようなことをしていますね。はい。

──初対面の方に切り出して「ちゃたろーさん、そういう風に見えないですね」って言われると、どういう気持ちになりますか?

チ まあ……気分的にはああそう見てくれてるんだといううれしさと、どうせ社交辞令なんだろうなというマイナス面とが拮抗して感情に来ます。

たまる気持ちを爆発させながら

──人間不信になってしまった時期があるとおっしゃられてましたけども、今は?

チ 突然(人に対する不信が)湧いてくることはあります。職場で、なんでこの人隣に座ってて暇そうにしてるのに手伝ってくれないのかなと思ったりとか。なんか、なかなか表現できないんですよ。表現できないけど嫌だなという感じで、どうせ世の中こういう奴ばっかりなんだろうなみたいなことを思ったりすることもありますし、自分でも言葉にできないような本当に小さな前触れはあるんですけれども、たぶん小さなきっかけが積もり積もって大きな不信に発展するんだと思います。

 ストレスチェックというものを先日職場で受けたんですけれども、数値が高いって言われました。ストレスをため込みやすいみたいです。ストレスの結果、人間不信になったりする場合もあります。

──ネガティブな感情もポジティブな感情も表現できずにためやすい?

チ そうですね。本当に自分が気づかないレベルでのマイナスなこととプラスなことの組み合わせが、いろいろ合わさったり合わさらなかったりして、それで爆発してしまうという風なことも。
 職場や外では我慢してるんですけれども、帰宅した直後に我慢のたがが外れて、爆発してしまうってことは今も年に数回はあります。それはまあ、障害持ってる持ってないは関係ないとは思うんですけれども。

──おうちでどういう風に爆発させる?

チ ああ、だいたい物に八つ当たりします。

──投げたり?

チ 投げたり。

──自分で投げてもいい物を用意したりしてるんですか?

チ 目についた手元にある物ですけど、無意識のうちにその時だけ選別してるんです。これは投げたら壊れるから投げないとか(笑)。まあ多いのはペットボトルとかですかね。ペットボトルをよく投げたりしてます。

──爆発は自分で自分に許すというか、そうしようと?

チ そうですね、年に数回爆発することで、気持ちは安定につながるので。まあ難しいんですけど。爆発をなんとかしたいと思ってた時期もあったので。

6割から8割の力で

──ちゃたろーさん、今は「うつの状態」ですか?

チ はい、うつの状態です。うつ病自体はだいぶ改善してるんです。ただ、うつ病に併発して、その後にいろんな病気名や障害名やら言われまして。
 うつ病は改善した反面で、いろんな病気がまた発生してしまってるというのが今の状況です。

──今後は、不調と付き合いつつ、ご自分のペースで動かれていく感じでしょうか?

チ ですね。自分のペース、リズムで、あと「何事も全力でやらない」っていうのを。全力でやってしまうことが疲労から来る不調につながるので、「6割から8割の力でやってみましょう」と職場でジョブコーチの人を交えて話し合いをして、それを守りつつ今仕事をしています。納期が迫っている仕事は6割から8割だとなかなかできないんですけれども、比較的納期がゆるいものは正確さ重視で急がない、というのをずーっと心がけています。

──努力や集中のパーセンテージをコントロールするのって、

チ はい、正直難しいです。

──私たち、なんでもがんばれっていう風に育ってきてるから難しいですよね。

チ ああ(笑)難しいですね。そう……なんか、“努力と根性”みたいな感じの世代でしたので、私も。

「普通」に憧れる

──世の中にどういう風になってほしいなどある?

チ そうですね、まあ……なんだろ。難しいんですけど。障害を持って、「普通」にすごく憧れるようになったんですよ。だから、個人的には、障害があってもなくても普通に接してほしい思いがとっても強いんです。

 たとえ障害や病気を持っていても、普通に気兼ねなくいろいろできるような社会になったらいいなあという思いはあります。その思いは、社会福祉の勉強をしたりしていた学生時代や福祉施設に勤めていた時よりも今のほうが強く感じるようになりましたね。

 ソーシャルインクルージョン(※)という言葉をご存知ですか?

──いや、知らなかったです。

チ 欧米のほうの考え方なんですけれども、要は、障害だけでなくて、人種やら宗教やら、その他の信条、いろんな考えを持った人が、等しくサービスとかを受けられる社会、っていう風に自分は解釈しています。そういった考えが広がってきたり、最近しきりにダイバーシティという言葉が使われてきたり、グローバルな世の中で企業の社会貢献なんかが進んでる中でも、個人個人のレベルではまだまだなのかなという思いもあります。

 とにかく、「普通が一番」っていうオチになっちゃうんですけども。少し前から、ノーマライゼーション(※)という考え方も日本でも言われ始めています。障害持つ持たないに関わらず、一緒に共存共栄していこうという考え方で、それもヨーロッパから始まった言葉なんですけれどもね。

──普通に接してほしいとかノーマライゼーションとかっていうのは、差を感じることがなくなるようにするということでしょうか。なんでもマジョリティと同じにするっていう意味じゃないですよね。

チ ですね。その、マジョリティとマイノリティという概念自体が無くなればいいかなという風に思ってます。

──そうですね。本当は二分化されてるものじゃないですもんね。

チ はい。今は便宜上二分化してるだけなんで。人間というのは本当に、どこかで仕分けしたり区別したりするのが得意な動物です。

※ソーシャルインクルージョン 「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念。EUやその加盟国では、近年の社会福祉の再編にあたって、社会的排除に対処する戦略として、その中心的政策課題の一つとされている。参考:DINF

※ノーマライゼーション 社会福祉をめぐる社会理念の一つで、障害者も、健常者と同様の生活が出来る様に支援するべき、という考え方。厚生労働省もその理念に基づき障害者の自立と社会参加の促進を図っている。参考:Wikipedia厚生労働省

(終わり)

※個人的な経験と見解を話したものです。
※インタビュアー田中の発言の前には──がついています。

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