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「通訳の何が楽しいの?」と聞かれたら…

通訳者は何が楽しくてその仕事に就いたのか。注目度の高い海外の有名人の通訳や大きなイベントの通訳はそう頻繁にはないので、「華やかな場に出たいから」という理由で選ばれる仕事ではないだろう。周りの通訳者の話を聞いていると、英語が好きというのはまず大前提として、あとは異文化交流の橋渡しができる、前職の経験や専門知識を活かせる、毎回違う分野の話が聞ける、自分が好きなことをしながら周りのお役に立てる、といったところだろうか。かつて通訳者を志した理由と、いま実際に稼働している理由が同じ、というケースもあるのかもしれない。
 
仕事でいろいろなところへ出かけていくと、普段は見る機会がないような場面にも出くわす。私はもともと行動範囲が狭いので何でも珍しがっているのかもしれないが、少なくともこの仕事をしていなかったら実際に見ることはなかったであろう現場もある。国際会議などの大規模な会議や式典もそうだが、普段表には公開しない、関係者しか入れないバックヤードに入れて頂くこともある。そこで働いていらっしゃる方にとっては日常の風景なのだろうが、部外者の私からすれば、何もかもが目新しいし、未知の世界。そこにはそこの歴史があり、ルールが有り、人々の思いがあるのだと改めて感じてしまう。
 
もちろん、機密情報を扱う会議に通訳者として入る場合もある。国家機密とまではいかずとも、商品リリース前で情報を出せないとか、人事関連だとかで、資料は頂けないし、会議が終わると「今この部屋で見聞きしたことは、全て忘れて下さい」と言われる。(訳出が終わった瞬間にそこまでの内容は一旦脳内でクリアされ、もう忘れているのだが。)しかし私にとっては、そういう「情報」的なものよりも、「この立場の人はこういうこと考えているものなのか・・・」と思わずお顔をチラリと見たくなってしまうような発言やコメントの方が、「すごいこと聞いてしまった・・・」と感慨深くなる。
 
最近はオンサイトの案件も多くなり、実際にものを見たり、つぶやきを聞いてしまったりする機会も増えてきた。そのたびに、「この仕事お引き受けして良かった!」と嬉しくなる。

執筆者:川井 円(かわい まどか)
インターグループの専属通訳者として、スポーツ関連の通訳から政府間会合まで、幅広い分野の通訳現場で活躍。
意外にも、学生時代に好きだった教科は英語ではなく国語。今は英語力だけでなく、持ち前の国語力で質の高い通訳に定評がある。趣味は読書と国内旅行。

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