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基礎から学べ、実践に活かせる『採用ブランディング』(後編)

経験がなくても『採用ブランディング』は導入できる

「採用ブランディング」の役割や方法は分かったものの、実践するためには、いろいろと気になることが出てくるでしょう。「どんな企業にも採用ブランディングは役立つのか」「『スキルと人物面』はどう見分けるのか」など、実践する上での疑問を解消するために、前編に引き続き、core words株式会社 代表の佐藤 タカトシさんに伺いました。

インタビューイープロフィール

core words株式会社
CEO/Creative Director
佐藤 タカトシ氏

1976年1月1日生まれ。
2001年4月、リクルートコミュニケーションズ入社。11年間に渡り、大手自動車メーカー、大手素材メーカー、インターネット関連企業、流通・小売企業など、100社以上の採用ブランディング、採用コミュニケーションを支援。マネージャー、クリエイティブディレクターを務めたのち、2012年7月、DeNAに転職。採用チームに所属し、採用ブランディングとダイレクトリクルーティングをメインミッションとして活動。
2015年7月、core wordsを設立。
東京大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科修了。


 企業の規模に関係なく、自社オリジナルの『採用ブランディング』を構築できる

──会社の規模や業種に関係なく、その企業オリジナルの「採用ブランド」はできるのでしょうか?

もちろんです。「うちの魅力はここだよね」と従業員同士では、漠然と思っていても、それを言語化して、求人メディアやホームページで訴求には至っていないのが現状です。

また、面接官が候補者に自社の魅力を語れなかったり、社長が従業員に対して伝えられなかったりする企業もあると思います。そうした課題をなくすためにも、採用を行う上では「採用ブランディング」は欠かせません。

──当社には大した魅力がないと思い込んで、「採用ブランディング」に取り組んでいない企業もありそうですね。

そうだと思います。そこで働いている人がいる限り、必ずその企業独自の魅力は存在します。それゆえ、みんなでディスカッションをして、それらを見出し、世の中に発信していくことが大切です。

ただし採用市場があるので、競合情報や自社のポジションをしっかり把握しておく必要があります。それを考えずに行うと、ターゲットのいない所にメッセージを送り続けることになりかねませんので、注意しましょう。

HOWだけ変更しても、採用の根本的な解決にはならない

──「採用ブランディング」を行うときに、ターゲット(WHO)を決めますが、エンジニアや事業企画など職種を幅広く求める募集する場合には、ターゲットは1つに決めた方がいいのでしょうか?

優秀な人材ほど、職種ごとに志向も違えば、価値観やこだわるポイントも違ってきます。しかし、求める人材として共通したコアとしての素養は、中途・新卒または職種が違っても、会社ごとに必ずあります。例えば、リクルートでいえば、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えられる」。そういった素養(大切にしている価値観)に共感できたり、そういった素養を持っている人材をベースとして考えましょう。

それ以外のスキルや人物面は、職種によって大きく変わってしまうので、分けて設定しましょう。そして、全体で共通する点と、職種によって異なる点を整理した上で、アプローチするチャネル(メディア)ごとにターゲットを置き、表現するトーン&マナーなどは変えていきましょう。

──今やパーパスや人的資本経営などが注目されているように、従業員一人ひとりを大事にしている企業が増えていますが、採用だけを取り上げると、採用メディアの力が弱くなり、「採用ブランディング」の浸透が進んでいない気がします。その点、佐藤さんはどうお考えですか?

その傾向はありますね。採用メディアの力が弱くなったというよりも、様々なチャネルが林立しているのが現状だと思います。そのような傾向もあり、「WHY」「WHO」「WHAT」よりも「HOW(コミュニケーション設計」から相談を受けるケースがまだまだ多く、採用はまだまだ売り手市場なので、手っ取り早く「HOW(チャネル)」から変えましょう」という意識が企業の採用担当者にはあるように思います。

しかし、ホームページなどのチャネルだけを変えても、根本的な解決にはならないというのが私の意見です。「採用ブランディング」では、まず自社の方向性を理解した上で、人物像を決め、その人に対して、どのような自社の魅力を伝えるかが明確になり、それがメッセージに繋がります。こうした一連のプロセスが、結局会社の成長にダイレクトにリンクしてつながってくるので、ぜひ、採用担当者は、事業部や経営層と膝を突き合わせて、この「採用ブランディング」を考えていってほしいと思います。

「スキル」と「人物像」の整理の仕方とは

──求める人物像を決める際に、「スキル」と「人物面」はどのように分けていくと良いでしょうか?

「スキル」は職種や業種ごとに求められる「経験や知識、能力」のことを指します。 コミュニケーション力などは、「スキル」か「人物面」がどちらに該当するか悩ましい所ですが、私は、職種や業種で求められる能力として「スキル」に入れています。

「人物面」は、どういうモチベーションを持って働いている人なのか、どういう強みや持ち味をもっている人なのかという、その人のキャラクターの部分になります。

例えば、営業職の「新規営業」と「既存営業」を例に、求める人物像の「スキル」と「人物面」を考えてみましょう。スキルでいえば、新規開拓の経験、またはルートセールスの経験になります。それが人物面(スタンス)では、「新規営業」は、「スピード感を持って、多くの方にアプローチするのが得意」な強みが当てはまり、「既存営業」では「1つ1つ丁寧に顧客と深く付き合うが好き」な持ち味が活かせそうです。

より詳しい「求める人物像」(スキルと人物面)をすべて洗い出すには、インタビューが効果的です。基本的には、人事マネージャーや事業部長、ハイアリングマネージャーなど、俯瞰的に人材を見ている責任者に30分〜1時間くらいヒアリングするのは、1つの方法です。

その他には既に採用が動いている場合は、ATS(採用管理システム)上にある入社決定者の情報を確認したり、面接の評価を見たりすれば、おおよその求める人物像は掴めます。プラスαの情報がほしい場合は、最終面接などで採用しなかった人の情報を収集するのも、立体的に人物像をつかむためには有用な手段です。

対比やバイネームでヒアリングして、スキルや人物面を明確にしていく

──非常に参考になります。もう1つがインタビューのやり方です。現場に聞いてみると、よくあるのが「明るく元気で、素直な人」という人物像です。このままでは求人票にも表現できません。こういう場合、どのように質問すれば、具体的な特徴を引き出すことができるでしょうか?

「どういう人がほしいですか」という漠然とした聞き方では、やはり先ほどのような答えが返ってくるでしょう。1つは、先ほども触れたように「どういうことにモチベーションを感じる人なのか」とか「どこに仕事のやりがいを感じる人なのか」「どのような個性を持っている人なのか」、具体的なポイントを明示するのがいいでしょう。

2つ目は、「短期」VS「長期」、「攻め」VS「守り」というように対比でその仕事に求める特徴がどちらに当てはまるか、認識を合わせながら、求める人物像を描くやり方です。比較する事柄があれば、人は考えやすいので、人物像を聞き出す際にも、具体的な特徴を聞き出すことができます。

3つ目、これが一番おすすめなやり方ですが、現場で活躍中の「●●さん」のようにというバイネームを挙げることです。その社員に直接聞くのもいいですし、上司や同僚にその人についてのエピソードをお聞きして、特徴を言語化することです。この3つの方法いずれかを行えば、必ず求める人物像の「スキル」と「人物面」、さらにMUSTとWANTが明確にできます。

ただ、採用市場は生モノですので、想定している「求める人物像」が市場にいない、あるいは少ない場合もあります。そのためにも、定期的に振り返る(モニタリング)機会を設けることも必要です。

尖った人材を採用したいなら、カルチャー変革が最優先

──企業によっては、現場の雰囲気を変えるために、これまで採用したことのない「尖った人材」を求めるケースがあります。どのように対応すればいいのでしょうか?

この採用は非常に難しいですね。「尖った人材」を採用したい経営者や事業部責任者の意思が、現場に伝わっていて、それを受け入れる体制ができていれば、なんの問題もありません。

しかし、そのような連携がなく、尖った人材を採用できても、活躍できる環境がなければ辞めてしまうことも多いでしょう。そのような人材が長く続けられるようにするためには、彼らが活躍できる環境やカルチャーに変えていくことです。

求める人物像に見合った給与や待遇などのハード面は調整できれば、なんとかなるでしょう。しかし、社内のカルチャーを変えていくのは、口でいうほど簡単ではありません。会社を挙げて、本気で採用しようと思うのであれば、お金と時間が必要になってくるでしょう。

世の中の動きを敏感に察して、組織を変革し、外部にアピールしていく

──最近だと、候補者は事前に口コミサイトをみて、会社の評判をチェックしています。そういうことで、従業員が生き生きと働ける環境づくりも「採用ブランディング」では重要な要素になるわけですね。

その通りです。セミナーではいつも話していることですが、世の中の動きを敏感に察知して、それを反映していくことも、ブランディングにおける1つの要素です。
その際、挙げているのは次の3つです。

1. 技術進化の速さ

IT技術はめまぐるしく進化を続けているため、DXや、Chat GPTなどのIT技術をビジネスに活用できる人材がいないと、企業は今後成長を果たすことができません。ITエンジニア系の採用では、さまざまな企業との争奪戦になっており、「採用ブランディング」によって、いかに自社の差別化を果たせるかが肝になっています。

2. 働き方改革

コロナ禍になり、リモートワークなどの新たな働き方が日常化しています。いかにして、こうした新たな働き方を取り入れ、適応していけるかが、候補者に自社をアピールする上では欠かせないものになってきています。時代にあった働き方を取り入れ、それによって従業員がイキイキと働ける「ファクト」を社内にしっかりと作っていくことです。

3. コロナ後の対応

今やコロナ禍に行っていたリモート選考などは、ニューノーマル時代では当たり前になりつつあります。コロナ後も、時代に合った採用手法を取り入れ、それを候補者に伝えることが求められてきます。

この他にも、最近では口コミサイトの自社評価にも注意しなければなりません。たとえば、ベンチャー企業では、社内のカルチャーや雰囲気も企業の成長とともに、目まぐるしく変わっていきます。それを踏まえて、求人メディアやエージェント、オウンドメディアで訴求していかなければ、旧態依然のままの企業だと思われてしまうので、気をつけましょう。

「WHO」「WHAT」の構築段階では、外部の力を活用して効率的・効果的に進めよう

──最後に、採用ブランディングの基盤(WHY・WHO・WHAT)の構築は、自社のメンバーだけでできるのでしょうか。

ある程度のことは、事業や経営と連動しながらできるでしょう。しかし、求める人物像(WHO)や、伝える内容(WHAT)を考える際には、どうしても採用市場や競合他社の情報が必要になってきます。

「WHO」や「WHAT」の制作過程では、採用市場や競合情報を持つ、エージェントやRPOなどの外部のHRプロを活用することが懸命だと思います。ちなみに、私が企業の採用ブランディングを設計する際には、3か月ほどの時間を掛けて①目的(WHY)〜④コミュニケーション設計(HOW)  まで行うケースが多いです。

まとめ

「採用ブランディング」を構築することで、自社が求める人物像が採用できるだけでなく、採用担当者が、これまであまりできていなかった自社理解(事業や職種の把握)や外部環境理解(採用市場や競合情報)が促進できます。

当初は、外部のプロの力を借りるかもしれませんが、一度「採用ブランディング」が構築できれば、その後、外部環境理解(相場観)も進むようになるので、自社内にナレッジをストックすることも可能です。

安定した採用ができるのはもちろん、採用ノウハウも蓄積でき、かつ人事部にとっては、事業部や経営とも連携しやすくなってきます。事業や経営との一体感のある採用ができずに悩んでいる企業などは、ぜひ一度「採用ブランディング」を取り入れてみてください。その違いを実感できるはずです。


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