(後編)過去30年の採用市場動向から紐解く、企業内部にタレントアクイジション機能が育たなかった歴史的背景と、乗り越えた企業の特徴とは
前編では、なぜ企業内部に採用機能が育ってこなかったのか?について、社
会環境の変化を踏まえながら私なりに考察しました。
今回は、企業内部に採用機能を育て、採用に強い企業になるためのポイントについて事例をもとに紐解きます。事例として紹介するのは、私が在籍していたリクルートエージェント(現 リクルート )<以下リクルートエージェント>です。
リクルートエージェントは、「人」なくして事業が成り立たない
採用機能を社内で育てるのが難しいなかで、そもそもなぜリクルートエージェントは経験者採用を中心に採用を強化できたのでしょうか。これは正直に言って特殊な事情であり、あまり参考にはならないと思いますが念のため理由を挙げておきます。理由は2つあります。
1つ目は、リクルートエージェントのビジネスそのものが「経験者採用」だったということです。自分たちがクライアントに提案している経験者をなぜ採用しないのかという考えもありましたし、ビジネス上多くの転職希望者と常に会うことができるため、経験者を積極的に採用できる土壌が当たり前にありました。
2つ目は、「リクナビ」「じゃらん」「ゼクシィ」など、プロダクトを主体事業とするリクルート本体と違って、リクルートエージェントは人材サービス事業であり、サービスを人が提供するため、人がいないとビジネスが成り立たない点です。
事業成長に向けて事業計画を決めていく時には、当然ながら要員計画や採用計画も設定されます 。前提として、「●●名の経験者を採用しなければ、自分たちの売上目標が達成できないこと」が現場まで浸透していました。
採用の「量」と「質」を落とさないために、現場に採用責任者を配置
こうした背景もあり、リクルートエージェントの経営や採用チームは、採用人数(量)だけでなく、採用の質を落とさないことも常に意識して、取り組んでいました。
大切なのはどのような取組みをしていたか?ですので、本稿ではこの点を具体的にお伝えできればと思います。リクルートエージェントが採用の量と質の両方を追いかけるに際して重視したことは2つあります。
1つは「現場との目線合わせ」です。例えば、初めて面接官を担うマネージャーには事前にトレーニングを必ず行います。また、どういう人材を採用するのか「人物像」の理解を促すために、人事採用担当者が現場の事業部を回り、現状報告を含め何度も説明を行うことで目線合わせをしていきます。ここには相当な時間と手間をかけていました。それくらい重要なことです。
もう1つは、「全社内に採用プロジェクトを発令し、事業部門のマネジメント層からプロジェクトメンバーを任命することで責任の所在を明確化したこと」です。これは今で言うハイヤリングマネージャーの役割ですが、リクルートエージェントでは当たり前のように以前から設置していた役割です。
理由はシンプルです。現場を動かすには現場からであり、ミッションになるから人は動く。であれば現場からもメンバーを選出し、その人にミッションを設定すればいいと考えたわけです。このようにして、現場に人事部の仲間をつくっていくことが採用力を高める秘訣です。
それによって、リクルートエージェントは自社の採用力を高めることができ、10年間で1000名から3000名の約3倍まで社員数を増やし、事業成長を推進してきました。
「事業が回らないのは人事部のせい」と言われた時こそ、現場を巻き込む良い機会
しかし、企業によっては「売上目標がいかないのは採用や育成がうまくいっていないからであり人事部に責任がある」という現場責任者もまだまだ多いように思います。
そのようなケースでは、例えば経営会議で現場の事業部をまとめる部長や役員が「人事部が採用する経験者のレベルが低いから育成に時間がかかっている」という主旨の報告をするタイミングを逃さないことです。例えば「であれば協力して下さい。ターゲットにする人の経験や人物像がうまくすりあっていない可能性が高いので。 」というように議論を持ちかけるべきです。
事業部側からそんなふうに指摘されると、萎縮してしまう人事部が多いようにも思いますが、こういう時こそ現場を巻き込む機会と捉えてください。その結果、「自分たちの部署に配属される人材は、人事部だけに任せるのではなく、自分たちがしっかり関わる必要がある」と、役員や部長に考えてもらうことが大切です。
これに成功すれば、人事部も「現場から採用に誰か入ってほしい」と言いやすくなる。そして事業部が巻き込めれば、採用力強化に向けて大きく前進したことになります。
事業部側が動けるように、レポーティングの精度を高めることも非常に重要
また経営や事業部との連携を強化するために、人事部がレポーティングの精度を高めていくことも想像以上に重要です。
少なくとも事業部側は、自分たちの売上等の計画に対して実績がどれくらいの達成度合いになっているのか、現在どこが課題で今後どういう打ち手を行っていくのか、経営側から当たり前に求められますし、当たり前に回答しています。
人事部もやるべきことは、全く同じです。現在の各採用プロセスの数値状況を共有するのは当然として、何が課題なのか、それを解決するためにどういう打ち手があるのか、そのために経営や事業部側にどういう協力をしてほしいのか。そこまでをセットで提案しなければなりません。
「自分たち人事部としてはここまでは頑張るが、現場にはこういうことをやってほしい」。あるいは「こういうことを決めてほしい」ということを合わせて発信しなければ、組織は動きません。
ただ単に経営側が人事の取り組みを理解していればいいというわけではなく、関わる人が多い事業部門に対してのコミュニケーションやフィードバックの適切な内容や方法を考え、実行することが大事になってきます。
人事部が全部自分たちでやろうすると手が回らないし、大変だからやりたくないといった低次元の話ではなく、会社として、これは絶対やらないといけない時に、「できること」「できないこと」を明確にして、その中でも「できないことは何か」をガラス張りにして、「それに対してどうするのか」を、経営側と考えることを漏らさず行うことです。
そこからの現場の動かし方は、さきほどお話したプロジェクト型でミッションアサインすること。そして、「この半年間、全体の業務量の20%を採用業務に充ててほしい」「その役割は誰がいいのかを指名してほしい」「我々の案では、誰と誰と誰が良いと思う」などと提案して、現場に決めてもらう。
人事の採用チームであればそこまでやるべきですし、ただ言われたことを請け負う受注組織に成り下がっているようでは、これから激化していく人材争奪戦のなかで、企業は生き残っていけないと思います。
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