10代が平和について考える1日!『広島の平和活動家とともに「平和」の授業をつくる 1day サマーキャンプ 2022』レポート
77回目の終戦記念日を3日後に控えた8月12日、Inspire Highではワークショップイベント『広島の平和活動家とともに「平和」の授業をつくる 1day サマーキャンプ 2022』をオンラインで開催しました。
このイベントでは、広島の平和活動家メアリー・ポピオさんとのトークセッションからインスピレーションをいただきつつ、10代の目線で「平和」という授業を考えてグループでプレゼンを作成し、最後に発表とフィードバックを行いました。
第一部と第二部をあわせて4時間にも及ぶイベントとなりましたが、中高生を中心とした10代のメンバーのほか学校の先生など約100人が参加し、「平和を実現するために、何をどう学んだらいいんだろう?」というテーマを真剣に考えました。
第一部に行われたメアリー・ポピオさんのトークセッションの内容から、第二部のグループセッションで飛び出した素晴らしい「平和の授業」アイデアまでをご紹介していきます。
イントロダクション:
広島商業高校の生徒による「広島の魅力と戦争の歴史」の紹介
第一部の冒頭では、広島商業高校の生徒2名により、広島の魅力と戦争の歴史の紹介がありました。全国から参加している10代にとって、広島のことを知るとても有意義な時間となりました。
第一部:トークセッション
「平和教育とは多様な視点があることを伝えること」
第一部では、広島県を中心に、平和文化をテーマとした活動を行っているNPO法人Peace Culture Village(以下、PCV)のメアリー・ポピオさんが登壇しました。メアリーさんは、2016年にPCVの創立メンバーとして広島県に移住し、以後6年にわたって、年間1万人もの45か国の人に向けて平和教育を行ってきました。
PCVでは高校や大学向けに開発した平和教育プログラムを提供しているほか、VRやAR、Google Earthなどを活用したオンラインのバーチャルツアーなども開催しています。
1992年にアメリカのボストンで生まれたメアリーさんは、大学在学中に広島と長崎を訪れて被爆者の話を聞いたことが、平和教育活動の大きなきっかけになりました。
一時期は平和活動を自分が行っていいのか悩んだこともあったそうです。しかし、被爆者の一人から
という言葉をもらい、罪悪感を活動へと変換させていった経緯を話してくれました。
メアリーさんは、平和教育のために必要なのは、「どの国も戦争については偏った知識しか与えられない。自国では明確にされない他国の歴史などの知識を増やしていくこと」だと話します。さらに、「平和教育は人を説得することではなく、様々な視点があることを伝えることで、自分たちで考えてもらうことが大切」であると参加者に伝えました。
そして、「戦争のない世界にするために、一人ひとりができることは何か」という質問に対し、3つの具体的なアクションを教えてくれました。
今回のメアリーさんの刺激的なトークセッションは、来年度からInspire Highの教材動画として全国の学校で活用できるように編集してお届けしますので、ぜひお楽しみにしてください!
第二部:ワークショップ
10代や先生が考えた多彩な「平和の授業」のアイデア
第二部では、メアリーさんのトークセッションを受けて、「平和という授業はどんなものか」をテーマに、4~5人のグループに分かれてアイデアを出し合い、実際の授業づくりを行いました。
制限時間は45分。住んでいる地域も年齢も性別もバラバラで、今回のワークショップイベントが初顔合わせとなるメンバーでしたが、グループごとに積極的にアイデアを出し合い、限られた時間のなかで素晴らしい平和の授業を作り上げました。
10代と先生が同じテーマに挑戦することで、それぞれの年代や立場によるアプローチの違いも明確になったという意見も、参加者から寄せられました。
参加者からも特に注目を集めた3つの「平和の授業」を紹介します。
●「だんだん深くなる平和の授業」
メンバーが全員女子だったことで「GAL」と名付けたという3人のチームは、「だんだん深くなる平和の授業」というタイトルで発表を行いました。
特徴的だったのが、進度によって深くなっていく授業の流れです。
ひとつめの「平和連想ゲーム」では、ゲームを通じて「平和があるからこそ、自分の日常が得られていることに気付く」ことを目的にしています。
次の「ディベート」では、アメリカや中国といった他国の下調べをしたうえで役割を決め、担当した国の立場になって話し合います。色々な国の立場から考えることで、様々視点から考えられるようになると言います。
さらに、「アメリカの同世代との交流・意見交換」では、それまでの2つで学んだり考えたりしたことをふまえ、「深掘りし共有することで、様々な視点で考えるきっかけになる」ことを期待していると話してくれました。
発表を聞いたメアリーさんは「平和という大きなコンセプトについて考える際、スタートのハードルが低いこと」や「ゲームを通して楽しみながら取り組める」点などを高く評価しました。
●「〜全世界の全世代の方へ〜 平和実現のための体験授業」
メンバーが個々で考えたアイデアを生かし、ひとつの授業にまとめた4人グループは、全年齢を対象にした授業案を発表しました。
この授業では、「下調べ」と「体験」を行ったうえで、自分が想像する平和のイメージを絵で表現することを最後のまとめとしています。
最初の下調べでは戦争の原因を書き出し、その後、各々が調べた原因をひとつの表にまとめ、「どんな原因が多いのか」を全員で共通認識として把握する時間を設けます。
次に行う体験の授業では、戦争が行われた都市を「Google Earth」のストリートビュー機能などを使って体験し、戦争の前と後の様子を見比べて気付いたことを話し合います。
さらに「戦争反対/賛成」のディベートの時間を設けて、「自分と違う意見の立場に無理矢理立って話すことによって、考えもしなかった考えが出てきたり、いろんな角度から考えられたりし、視野を変えられること」をねらいとしているそうです。
Inspire Highのナビゲーターである清水イアンさんは、「当事者意識にフォーカスしている最高の授業。何よりも、最後のまとめをイラストに落とし込むのがユニークで、アウトプットも面白いものになりそう」と絶賛。
そのうえで、「ディベートでは、賛成/反対の横だけでなく、市民/政治家/ビジネスといった縦の構造もあるので、そうした縦の切り分けをするのも面白いかも」といったアドバイスをおくりました。
●「未来に繋げる平和の未来館を作ろう!」
先生グループによる授業アイデアの中でも注目されていたのが、「未来に繋げる平和の未来館を作ろう!」です。
ミュージアムや戦争の手記など、複数の授業アイデアを生かし、ひとつの授業にまとめあげました。戦争の真実を知ることで沈みがちになってしまう生徒の気持ちまでを考慮し、歌をベースにした平和を考えるクロージングの時間が設けられている点が、ユニークなアイデアとなっています。
「ミュージアムとシアターと音楽館が、ひとつになった建物をつくるイメージ」というこの授業は、全部で三章にわかれていました。
第一章では平和を感じる身近なものを持ち寄って教室に展示し、平和のミュージアムをつくります。
続いての第二章では、各国の戦争手記の読み比べを行います。
そして、第三章では「第二章の授業でシリアスな気持ちになった生徒を前向きに開放するワーク」として、平和を感じるフレーズを考えたり、歌を歌ったりする「音楽館」の授業が考えられています。
メアリーさんからは「平和の未来館をつくるというアイデアが面白く、ARで実現できそう。重いテーマと楽しいアクティビティを組み合わせることはよいバランスになる」という言葉がおくられました。
イアンさんも「先生のつくった授業案はもはやカリキュラムの域で、実際に体験したら生徒の人生が変わるだろうと感じました。こうした授業を実装する学校増えていけば、日本も変化していくでしょう」と、今後への期待を語っていました。
その他にも素晴らしいアイデアの授業が多く、45分という限られた時間をフルに使い、アイデアを出しきっていたことがうかがえました。
今回のワークショップイベントで10代の参加メンバーと先生方が考え抜いた授業アイデアは、こちらに公開しています。ぜひ、参考にしていただき授業で活用してみてください。
4時間という長丁場にもかかわらず、最後まで集中して魅力的なアウトプットをつくってくれた参加者のみなさま、ありがとうございました!
Inspire Highでは、これからも10代が自ら主体的に学びをつくっていくイベントや機会を企画していく予定です。次回の開催もお楽しみに。